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メモリーリーク ~記憶の封印と仮想世界~  作者: 物ノ草 八幻
第一章
13/71

13 魂の牢獄 3

 私は ”魂の牢獄" の世界で生きる騎士だ。

 黒くやや青い鎧をまとった、いかつい髭、顔や体に傷を持つ、いかにも猛者たらん姿で、篝火の前に立っている。


 そう、私は現実の記憶を全て封印している。

 だから、今の私は "魂の牢獄" で生きているといえるだろう。

 この世界での幼少のころの記憶はない、はじまったときから成人であったが、そんなことはどうでもいい。


 多少の不完全さ、リアルではないところもある。

 それでも、この世界こそを現実として、没頭し、生き、戦っていけるこの時代にとても感謝している。


 そうすると、私にとって、死とはどういうことになるのだろう?


 この世界で死んでも、篝火などの決まった地点で復活する。

 システム的な死であって、本来の死とは違う。

 HPが0となったとき、肉体が別の場所へ転移するというだけに過ぎない。


 世界の終焉が、私の死、なのだろうか。

 私がこの世界に戻ってこれなくなったとき、私は死ぬのだろうか。

 どちらも違う気がする。


 どうすれば、私はこの世界で死ねるのだろう?


#


 私は1人で、ランダムに生成される戦場に向かった。

 どうして1人かというと、現実の話題に触れる可能性を極端に減らしたいからだ。

 組んで長いパーティーでは、どうしてもそういう話題が出てしまう。

 それが悪いと言うつもりはない。ただ、私は触れたくない。私は、この世界で生きているのだから。


 最初の戦場はとてもシンプルで、長い橋が見えた。その先に砦がある。

 幅20mの橋を、一気に駆け抜けることにした。

 隠れる場所もない、ぞろぞろと敵に集まられては不利、さっさと砦に入るのが良いだろう。


 盾を前に、槍を水平に構えて、駆け抜けながら、

 一定時間HPが少量回復しつづける呪文、一定時間のダメージの軽減する呪文、走る速度を上げる呪文を唱えていく。

 呪文は、サポートAIを使って唱えるため、言い間違いは発生しない。


 紫肌の小鬼がぞろぞろと出迎えてくれる。

 乱暴に矢が放たれ、不揃いな剣をもった小鬼は前進してくる。

 前に出た小鬼に槍のスキルで突撃し、宙に浮いた小鬼達を串刺しにしていく。


 HP、防御力、回復を主体とした構成のため、重鈍ではあるが、そこそこスピードの乗った突撃は敵の前線を崩した。

 弓を使う小鬼まで駆け抜けて乱戦に持ち込み、ひとまずは近場の敵を狩っていく。


 私のサポートAIはやや貧弱である。

 それは、現実との関わりを拒絶したことで、標準のサポートAIしか利用できないからだ。

 それでも、視界には斬撃の予測軌道もあるていど見えるし、地図の自動生成、呪文の詠唱、発話内容を文字化して表示など、たくさんの機能がある。

 戦闘を開始してからのHPの減り具合からの死亡タイミングの予測、警告、といったものまで標準である。

 だから、私はそれで十分だと感じている。


 私を取り囲むように、3重の列でもって小鬼が群がってくる。その奥では、さらにぞろぞろ小鬼が集まっている。

 とはいえ、隊列はすきまだらけだ、そこへ飛び込み、前へ前へと進んでいけば良い。


 大勢の小鬼にまとわりつかれ、身動きのできなくなる前に絶命させ、次を吹き飛ばしていく。不得意な魔法も使い、敵の動きを鈍らせながら、自分自身が荒れ狂う竜巻のごとく、橋を駆ける。


#


 大きな咆哮が聞こえた、まだ橋の途中で、私は嫌な予感がした。

 空気が大きく揺れ、風が荒れる。


 巨大な敵、おまけに橋のと中途なら、どうせえげつないやつが来るはずだ。


 咆哮のあった場所に目を向けつつ、少しでも橋を前進する。


 しだいに、それは空を飛んで視界を大きく占領していった。

 ドラゴンだ。


 ガレオン船よりもはるかに大きい胴体に、翼をそなえ、2本の腕と、2本の足をもつ、灰色にやや赤みがかったドラゴンが砦の奥から飛来した。


 砦の方から橋へと滑空したドラゴンは、小鬼もろともブレスで焼き尽くす。


 私は盾を前に、体を小さくしやり過ごす。

 周囲の小鬼は焼き尽くされ、自身のHPは3ぶんの1ほどをいっきに減少させられた。


 ふと思う、このようなとき、私はどうして絶望しないのだろうかと。

 慣れてしまったのだろうか。

 ドラゴンに敗北したところで、私は何も喪失しない。

 簡単に負けるつもりはない。ただ、なぜか私は、命のやり取りをしているという実感がもてないことにもどかしさを感じるのだ。

 私は本当に生きているのだろうか?


 連続でブレスをくらうわけにはいかない、小鬼のいなくなった橋を全力で駆け抜ける。


「うぉぉおおー!」


 ドラゴンが旋回していくのが音でわかる。


 砦に入れば、ひとまずはなんとかなるはずだ。

 私は全力で無心で駆け抜けた。他にどんな敵がいたとしても、後ろのドラゴンほどの驚異にはならない。


 旋回したドラゴンが叫びこちらへと向かってくる。橋を超え、砦になんとか入らなければ。

 勢いよく私は砦へと飛び込んだ。


 ガドッ


 飛び込んだ砦の床が崩れた。私の体は為す術もなく落下していく。


「おぉおぉぉーーーー」


 そして地面に激突し、HPが0となった。

 落とし穴というなんのひねりもない罠にかかり、私はその装備の重量があだとなって死んだ。


 上手くいかない事がある。まだまだ力不足だなというこの感触は、生きていることにならないだろうか。

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