表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メモリーリーク ~記憶の封印と仮想世界~  作者: 物ノ草 八幻
第一章
1/71

01 これは何のゲーム?

 白い視界にガヤガヤと騒がしい都市の音がする。

 おぼろげに様々な色を感じ始めたら、足で立っている感覚、周囲の人の動きを感じ棒立ちの状態で視界がしっかりするのを待った。

 待った、というか、待ってしまった。


 ひとまず見渡すと、ファンタジーな木や石、レンガ、植物、水晶などの材質でできた建築物が並んで人はごった返している。

 建物がビルのように高く、複雑であるせいか中世ファンタジーというより近未来のようだ。

 つまるところ、アナログな現実世界ではなく、仮想世界だなぁと思い至るも、ここはどこだろうと考える。


 そういうデジタル空間へ埋没するような仮想世界は、珍しくはない。


「よぉ、ど真ん中で棒立ちだと危ないぜ」


 と、後ろから声をかけられた。「え…」声をかけた青年は、返事を待たずに通り過ぎていく。


 青年を目でおっていくと、見ず知らずの人にてきとうに声をかけ、反応がある場合は、単純な応答をして、また次の人へと会話をうつしていっていた。


「会話bot(ボット)かな?」


 bot(ボット)とはプログラムにより自動で動かすこと・またはそのプログラムである。

 辻斬(つじぎ)り、辻ヒーラーならぬ、辻会話っぷりはほぼbotだろう。

 世界の雰囲気をよりひたれるように、この世界ではPCとNPCの区別が明示されないようだ。UIのシステムにはHPバーはおろか、地図も見当たらない。


 また、辻会話っぷりをのぞいてbotだと断言できる要素はみあたらない。

 人っぽさ、を表現するAPIの進化はすごく、その差はむしろデジタル空間で操作できる範囲を逸脱して細かく振るまっているか、で見分けるしかないらしい。

 APIとは、部分的機能を提供する仕組みである。

 仮想世界であれ、どんなツールであれ、複数のAPIを組み合わせ、調整をとる専用のプログラムで動いていることが多い。


 ひとまず、道のど真ん中でぼーっとしているのも落ち着かないので、人の流れに身を任せて歩きはじめる。


「それで、結局のところ目的は何だ?」


 自分自身の目的が不明であるが、急用や約束が会った記憶もない。というか、記憶がない。

 疲れていたのか、それともそういうプレイなのか、まぁとにかく、こういうときは、大怪我せぬよう楽しむのが良い。


 記憶というのはわりと便利に書き換えや操作ができるのだ。

 一時的に、特定の記憶を封印することもたやすい。

 とても便利な技術で、これによって映画などの娯楽作品は何度も新鮮に体験できるようになった。

 昔は、とても面白くても、ネタを知っている以上は、最初に味わったほど感動がもてない、という状態だったらしい。


 興味深いのは、ネタを知っているかどうか、と対処能力は別だということだ。

 例えば、3+4+5を計算する、という問題があったとする。

 この問題を解いたことがある、という記憶を消しても、計算能力は消えないのである。


 まぁ、そんな話はどうでもいい。

 ひとまずは、どうせ記憶の一部を封印してのお遊び・行動観察だろうから、気軽に大怪我せぬよう楽しめばいい。


#


 現状をまとめると、この仮想世界にまつわる記憶を全て消して、ログインしているということ。

 おそらく何らかのゲームだと思われる。


 新鮮にゲームを楽しみたい場合や、今回の行動を後で振り返ってとんちんかんさを楽しむ、など理由はいくつか考えられる。


 ひとまず何を楽しむ世界かがわかればとっかかりになる。

 対戦する要素や、機能の充実度を調べれば良い。

 定期的に挑戦しましょうというクエストめいたもの、なれる職業の偏りに注目してみるか。


 そういうことで、依頼の斡旋や、職業などの登録・変更ができそうな場所をさがしつつぶらぶらとする。


 空は青でも、不思議な文様が橋のようにかかっていて、非現実感をだしている。

 木製のエスカレーターを登って、地図や看板を探す。

 なんというか、近くの人に誰かに聞いてしまえばよいのだが、面白くない。


 アナログ(現実)に戻るうんぬんの心配も必要ない。

 通称WDT、昔は違う意味だったらしいその機能により、約1時間おきに理性的な判断により「もっと仮想世界にとどまる」という発信をしなければ強制的にログアウトされる。

 その「理性的な判断」を、記憶の操作によって認識させないことで世界に没頭できるので、とても良い時代である。

 昔は、感情的な判断に頼ってしまい、依存症など様々な問題をおこしたらしい。

 だから、ログアウトの心配も不要で、心配をするとしたら熱中しはじめたときに中断してしまう可能性のほうである。


#


 わりと困った。依頼を斡旋する会場にたどり着いたのだが、予想外に多用で偏りがうかがえない。


 NPCやシステムによる依頼かどうかも隠匿されていること、

 また、主目的以外の依頼が可能で、自由にたくさんの依頼が掲示されている。


 張り紙方式だったり、人が看板を掲げてパーティを募ったり、受ける人を探したりとかなり自由である。

 受付の女性から、よくある依頼を聞いても、ゴミ拾いとかネコ探しといった塩梅であった。


「自由度が高すぎて、どういう目的のものかわからん…な」


 コレクションや会話、ゆるさ、クリエイティブを主体とした世界なのかもしれない。

 わりとぶんなげすぎで、記憶を封印するにしても手がかりが欲しい。


 さらに、悪い予想をすると仮想世界はプレハブ的なダミーで、実はアドベンチャーゲームだった場合である。

 周囲の情報を読み取って、何かしら最適な行動をしないとゲームオーバーになるなら更に悪い。

 記憶を消しても経験は積み重なるので、そういったゲームの達成度は自慢になるのである。


 ザグッ


 背中からなにか攻撃されたような弱い痛覚、そしてその衝撃にすこし体が揺れた。

 刺された。背中からお腹まで貫いていてじわじわと服が赤く染まってさなか、足のちからが抜け倒れた。


 近くで血を見た人が「ヒェッ」と叫んだところから周囲もざわつき、自分が倒れたことで周囲の目がこちらに向いた。


「きゃっはー、皆逃げないとおなかプスプスしちゃうよー」

 と、自分を刺した、陽気な女性の声がエコーがかかって広がっていく。


 だんだんと、視界は赤く赤くなっていく。体力が減っているのだろう。

 地べたから顔も動かせずに、たくさんの足が混沌と動いているくらいしか見えない。

 阿鼻叫喚となる有象無象、抵抗しようという人や、脱出を誘導する人がいたりと手慣れた人らの声がする


 これはどういう……ゲーム……なんだ…………?


 視界は赤く染まっていき、そうして、意識と世界の接続はとぎれた

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ