第三話 国王との謁見
一通り教皇との話が終わった俺たちは、玉座の間へと案内された。
俺たちがいた場所は宮殿内の教会だったらしい。教皇がいる以上、この宗教の総本山であることは間違いない。それに、サナト神が人々の要請に応えている以上、これを信じる者は多いだろう。王宮と教会の拠点が同じという時点で、政治にも深くかかわっているであろうことが予想できる。
宮殿は、大きく立派な城壁に全体を囲われたた中世ヨーロッパのものに近い代物だ。その中に教会や王宮を含めた様々な建物が建てられていた。要塞を兼ねた宮殿は無骨になりがちだが、それぞれに精緻な装飾が施され、うまくそれぞれ調和がとれている。
戦争中ということもあり、警備兵はかなり多く見受けられる。練度はなかなかのもので、勇者が通りかかっても意識を持っていかれない仕事への忠実さを見せていた。
玉座の間の扉が開き切ると同時に、俺たちは顔をうつむけて進む。教皇の話では許しなく国王の御顔を拝むことは許されないのだそうだ。
「聖法教会教皇アルメイ。勇者様御一行をお連れしました」
全員が膝をついたのを見計らって、教皇が口を開いた。
どうやら国王のほうが立場は上のようだ。
「ご苦労だった。下がり給え」
「面を上げよ」
お声がかかりようやく顔を上げると、煌びやかで格調高い衣装に身を包み、それに負けないほどの気高さと、長年王を務めた威厳が感じられる人物がそこにはいた。その整った顔は年齢を感じさせないほどの覇気にあふれ、目には歴戦の戦士もかくやというような強烈な光を湛えていた。
「我こそがリカナ王国国王、ブラッド・リカナである。勇者諸君の来訪を心より歓迎する」
この人は…やばい。見ただけで只者ではないとわかる。圧倒的な威厳とカリスマだ。これなら相当国民からの支持は厚いことだろう。
「我が王国は現在魔族と戦争状態にある。諸君らには魔族と戦い、この戦いを終結させてもらう」
戦いの終結?教皇とは若干認識にずれがあるようだ。
「一つお尋ねしたい。魔族とはいったいどのような存在なのでしょうか」
「それは私がお答えしましょう」
そういって出てきたのは全身を白い装いでまとめ、いくつもの大きな宝石がはめ込まれた杖を携えた女性。
「私はセレスト・サリア。この国の宮廷魔導士をしております。魔族とは人間、人族とは別の種族で、様々な種類がいます。彼らは異形の姿をしていて、大半が人間よりも身体能力や保有魔力などが高く、言葉を解します。また、魔物とは体内に魔石があるかどうかで区別されます」
なるほど。それはわかりやすくていい。
「戦争の終結でよろしいのですね?先ほどアルメイ教皇は殲滅と口にされましたが」
「それでよい。あくまで我が望むのは戦の終結だ。魔族も悪しき者たちばかりではない。双方の犠牲者がこれ以上増えることは我の望むところではない」
これは、見た目だけではなく中身も賢王のようだ。そういう考え方ができるのはなかなかに好ましい。
そしてどうやら聖法教会は過激派のようだ。やはりあの男には注意しておかねばならない。
「今日はご苦労だった。こちらの都合で召喚したことについては謝罪する。目的の達成の後、然るべき報酬を約束しよう」
王だというのにここまで俺たちに配慮するとは。この人になら従ってもいいとさえ思えた。
「最後に、一つだけ」
「よい。申してみよ」
「私たちのもとの世界に戻る手段はありますか?」
そう、これが一番重要だ。これの存在次第で今後の活動は大きく変わってくる。
「あるといえば、ある。再びサナト神に頼んで送り返してもらうという方法だ。だが、かの神はおそらく目的、つまり戦争の終結を行わない限り返してはくれないだろう。一応召喚の際の魔方陣は厳重に保存してあるが、複雑すぎて解析は難しいだろうとのことだ」
うちの連中に任せればいつかは解けるだろうが、現状では厳しいか。
「諸君らの部屋や食事は用意してある。今日はゆっくりと休むがいい」
この後俺たちは食事場へと通され、身内のみで食事を楽しんだ。気楽に過ごせる何とも粋な計らいだと思う。この後貴族たちとのパーティーも覚悟していたので、一気にみんな気が抜けてかなりはっちゃけていた。
美術もそうだったがこの国の料理の水準はかなり高かった。これは素直に喜ばしい。
そして風呂。そう風呂だ。この国にはしっかり風呂に入る風習があったのだ。これには日本人の我らはたまらなかった。大浴場を一つ専用にしてくれるとかほんともうね。
その後、それぞれがかなりの広さの個室へと案内された。いやなんとも至れり尽くせりとはこのことだよ。さすが貴族社会、上の人々の暮らしはすさまじい。
今日はもうこのまま寝てしまいたかったがそうもいかない。まだやるべきことは残っている。
コンコン
「皇さーん。入れてくださーい」
シーン
返事がない。聞こえなかったのだろうか。
「入りますよ。失礼しまs」
ドスッ
「夜に淑女の部屋に承諾なしに侵入するとはいったいどういう了見ですか」
ドアノブに手をかけた瞬間、後ろに引き倒されてしまった。
「いやすみませんね。今後の方針を固めておこうと思いまして」
「それならそうと前もって言っておいて下さい」
「そうはいきません。連中に聞かれるわけにはいきませんから」
自分の身を守るのが厳しい現状では特に。
「そうですか。では、入ってください」
失礼します。
女子にあてがわれた部屋も男子のものと大差なさそうだ。
「それで、どうです?今日の感想は」
「とても驚いています。こんなことになるとは思ってもみませんでした。昼にあなたが異世界にいるかもなどと言い出した時には気が狂ったのかと思いましたが、その通りになってしまいましたね」
「ええ、俺もまさか本当に異世界召喚なんてものに巻き込まれるとは考えていませんでしたよ」
本当にね。いや、想像していなかったといえばうそになるけどね。
「こうなった以上、王に協力して魔族との戦争に参加するしかないでしょう。蒼野君、何かその際に注意すべきことなどはありますか?」
「そうですね。あるか不明ですが、精神魔法には注意が必要でしょう。物語では勇者が洗脳されてしまうというのは決して珍しいことではありません」
「精神魔法…それは危険ですね」
「ええ、また精神操作まではいかなくとも体の自由を奪い、強制的に命令を聞かせるようなものはあるでしょう。このような国なら奴隷制度だって残っているかもしれませんし」
「奴隷…」
「ですから、最優先目標は精神魔法や奴隷魔法などへの対抗手段の入手です。そして勇者として戦闘能力を身に着け、身を守ることがこれから必要でしょう」
「なるほど。ではみんなにもそう伝えておきますね」
そういって皇さんはスマホでみんなに今の方針を送信した。ここは異世界なので当然ネットは使えないが、クラスのメンバーだけが使えるチャットをさっき米田に作らせた。
「それにしても、蒼野君はすごいですね。こんな状況なのにとても落ち着いています」
ギクッ。
「それにこの状況にとても慣れているような気がします」
グサッ。
「いやあ、昔いろいろとね」
「そうですか。ではそろそろお休みになってください。明日は能力の確認と魔法の訓練だそうですから」
「ええ。わかりました」
「なんだか楽しそうですね」
「はい。正直なところ、結構興奮しています。かつて憧れ夢を見て、そしてあきらめたことですから…」
そう、魔法だ。誰もが憧れ、そしてあきらめる空想の技。
それが現実として現れ、そして習得できるという。
この状況に興奮しないわけがないだろう。
そう遠い目をして呟く俺を見て、彼女は薄く微笑んだ。
「では、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
さあ、今日は早く寝よう。未知が明日に待っているのだから。
結構多くの方々に読まれていてとてもありがたいです。
かなり評価が気になっているところなので、率直なご感想をいただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。