プロローグ3
「それでは、委員長は皇さんにお願いします」
新年恒例委員会決め。それはこのクラスとて例外ではなく、通例通り委員長から決まった。
この学校におけるクラス委員長は議長も務め、本当にクラスの中で一番権力が集中する。
そのため委員長にはクラスの全員を従わせるだけの実力と十分な人望、カリスマなどが求められる。
いったいどこの誰にそんな能力が備わっているのか甚だ疑問だったが、そんなものは彼女を見た瞬間に霧散した。
「了解しました。クラス委員長。誠心誠意務めさせていただきます」
俺は、彼女を知っている。
知らない人のほうが少ないのだがね。
彼女の名は皇亜津沙。入学以来、この学年の総合成績一位を独占し続けて来た才女だ。
JMO優勝の他、国際数学オリンピック金メダルなど、特に数学に強い。
そして何よりその容姿である。腰まで降ろした髪はさながら清流のように滑らかで、この世のものとは思えぬ整った目鼻立ち。
それほんとに人間?と、聞きたくなるようなステータスをしている。
まあ、彼女が委員長をやってくれるなら安泰だろう。
と、思っていたのだが…
「はい。それでは蒼野くん。副委員長よろしくお願いしますね」
終わった。俺の平穏な日常終わった。
Aクラスのクラス委員とかやばい予感しかしないんですけど?
副委員長って、クラス委員は二人しかいないから実質皇さんと二人きりの役職なんですけど?
いや、これは俺が悪い。正確には俺の運が悪い。できるだけ楽な役職にしようと粘っていたら、気づけばじゃんけんに負け続けていたというだけの簡単な話だ。
これが最後まで残るというのは、割と予想できたことだ。あんな完璧超人とどこの誰が仕事をしたくないというのは、化け物ぞろいのこのクラスの面々も同じらしい。
はぁ…
こうなったらしょうがない。腹をくくるしかなさそうだ。
「わかりました。謹んで引き受けさせていただきます」
とりあえず一礼。忍の奴、得意げな顔しやがって。あとでお仕置きが必要ですね。
「蒼野君。一年間よろしくお願いしますね」
「ええ、こちらこそ。お役に立てるよう尽力します」
本当にね。俺に彼女の役に立てることが果たしてあるのだろうか。というか、この教室で俺は無事に生き抜いていけるのだろうか。
まったく、今年はなかなかにハードな学園生活になりそうだ。
そんなこんなで着席した直後に床に現れた幾何学模様。
お 馴 染 み の 展開。
駆 け 巡 る 嫌な予感。
ここぞと働く 推 理 力。
光り輝く 魔 方 陣。
うん…学園生活ですらない気がしてきた。
この日、日本の未来を担うことを期待されていた国立慶聖学校中等部三年A組の生徒全員の生体反応が消失した。