0053(七)10
パソコン部も負けていない。
「おい虹野、さっさとやっちまえ!」
白熱する室内で、ルイージは床に降り立った。
「今度は慎重にやらんと……」
だが赤の炎、緑の炎、亀たちは協力でもしているかのように美夏先輩を襲う。熾烈な攻防を邪魔したのは、またも虹野の突き上げだった。
今度は倒れている亀を倒そうとしたルイージに先行。下から亀を突き上げて元通りにし、突っ込んだ駄ゲー部部員をあえなく1ミスへと追いやった。
「こら! 虹野! 汚いやろ!」
美夏先輩がその横顔を酷い剣幕で真っ赤にすると、虹野は面白くて仕方ないとばかりに哄笑した。
「あと一人しか残ってませんよ、一条先輩」
俺は今朝の駄ゲー部とパソコン部の対峙を思い出していた。あのとき俺は、虹野がこちら側に近い人間だと直感で感じた。どうやらその読みは当たっていたらしい。
虹野は純粋にゲームを楽しんでいる。駄ゲー部とパソコン部の仁義なき戦いなど興味がないかのように、ファミコンゲームを心の底から満喫していた。パワーボックスをいきなり消滅させて、だだっ広い空間を現出させたことからも了解されるように、それなりにこのゲームに精通しているのだろう。
純粋な遊び心と好奇心の持ち主。それが俺の虹野評だった。これでは美夏先輩は勝てない。
最後は画面下部中央(パワーボックスが消失した空間だ)でルイージをお手玉のように突き上げまくり、行動不能な状態にしておいてから、タイミングよく緑の炎にぶつけた。
ルイージ、ゲームオーバー。対抗戦第二試合は、またもパソコン部に凱歌が上がった。意気消沈する駄ゲー部とは好対照に、パソコン部は立役者・虹野をもみくちゃにして喜んでいる。
「あかん、負けてもうた……。でも、マリオブラザーズのデスマッチって、こんなに面白かったんやな。プレイしてくれてありがとな、虹野」
「どういたしまして」
二人はがっちり握手した。
さあ、これで戦績は駄ゲー部の0勝2敗。こちら側としてはそろそろ焦ってくる。白星を望むこと、熱砂の中で水を求めるかのごとしだった。
有働部長がさすがに上機嫌で新たなるお題を発表する。
「第三戦、ソフトはこれだ!」
南副部長から受け取り、ファミコンに差したのは、コナミの『グラディウス』だった。駄ゲー部が確保したファミコン名作ゲームの中に、それは見事に含まれている。部員たちに再び活気が戻ってきた。知らない作品ではなく、それなりに遊んだ一作ということで、再び1勝への期待感が回復したのだ。
南副部長が俺たちの気力再生のさまに、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「さあ、そっちの対戦者は誰だ?」
真樹先輩が肩に手を置いたのは、火山風林先輩だった。その判断に、当然だという空気が流れる。この数日、グラディウスを集中してやりこんでいたのは風林先輩だったからだ。彼女ならまさに適役というわけだ。
「15分の試しプレイはいらぬ。すぐ勝負を始めよう」
グラディウスは同名の大ヒットアーケードゲームのファミコン移植版だ。ゲームセンターで使われる基盤とファミコン本体との性能差は著しく、ファミコン版はかなり見劣りする。
内容は横スクロールのシューティング。敵機を撃破して得られるパワーカプセルを集めて画面最下部のゲージを増やし、任意の場所でボタンを押すと指定されたパワーアップが行なえる。ミサイルを投下できるようになったり、オプションと呼ばれる自機の分身を増やしたり、バリアなんかも張れる。このシステムは発売当時斬新で、多くのゲーマーから熱い支持を受けたとの話だ。
真樹先輩は相手の選手を指名した。
「谷川良弘! プレイヤー席に着け!」
鈍重で運動神経も悪そうな太っちょの谷川は、現在俺と同じ1年生。パソコン部としても日が浅いだろう。真樹先輩は何としてもここで1勝をもぎ取らねばならず、一番ゲームの下手そうな相手を選択した、というわけだ。
美夏先輩が南副部長に尋ねる。
「それで? 敵を倒して得た点数を競い合うんか? それともどれだけ進んだか、ステージ数を競い合うんか?」
南副部長の回答は想定外だった。
「いや、今回は1面ボス撃破時点でいくら点を稼いだかで決める。ただし自機は1機のみ。一度でも敵機にやられたらその時点でアウトとする」
「何やて?」
策士・南副部長は、パソコン部代表に愚鈍な谷川が選ばれたので、ルールを調整してきたようだ。両者もっとも多くプレイしてきた1面だけなら、鈍そうな谷川でもそれなりのスコアを弾き出すと考えたに違いない。
しかし、美夏先輩と違って実際に対戦する風林先輩は落ち着いたものだった。まるで山の如しだ。
「お、おいどんが勝つでごわすもんね」
谷川はそれまで食べていた焼きそばパンを飲み込むと、1プレイヤー側のコントローラーを握った。まず谷川が先にプレイし、次が風林先輩という順番だ。




