プロローグ その8
…………は?
え、ちょっと待って!何が起こったの!?
高宮君の雰囲気が変わったと思ったら、急に爆発しちゃったよ!もう完膚なきまでに木っ端微塵だよ!
まあ、魔人も一緒に死んだみたいだから別にいいんだけどーーー、って、何にもよくないよ!
高宮君は主人公なんだから、こんなところで死んだらダメだよ!
……まさか、高宮君は本当は主人公じゃなくて、ただの雑魚キャラだったとか?だとしても高宮君のスキルに爆発系統のものは無いはず。だけど魔人も驚いていたから、あれは間違いなく高宮君が発動したスキルだろう。ピンチの状態で新しい力を手にいれる。まさしく主人公の力だ。
高宮君のスキル、「補正+1」。一体何を補正しているのかが疑問だったけど、これで確信した。
「補正+1」……それは「主人公補正」のことだ。
「主人公補正」。簡単に言うとご都合主義のことだ。最もテンプレなのがピンチの時に新しい力を手にいれる、さっきの高宮君のタイプだ。物語が進んでいくなかで、主人公にとって不都合なことは排除され、主人公にとって有利な状況が創られるのだ。もしこのご都合主義が存在しないと大変なことになる。某七つの球を集めると願いが叶う作品では、フリー○ーにキレた孫○空は、どれだけ気合いを入れても金髪にはならないし、全てのカードゲーム作品では欲しいカードが欲しい時に来ない。ましてや、勝負の最中にあるカードが別のカードに変わって強くなるなんてことはありえない。全てのバトル系作品が上手く展開されるのは、このご都合主義、つまり「主人公補正」によるものなのだ。
そして高宮君は「主人公補正」を発動し、新たな力を手にいれて、見事に魔人を倒したんだ。でもさ、でもさ、
……何で、その力が、「自爆」なんだよーーー!!!!!
物語序盤で死ぬ主人公ってなんだよ!いや、序盤ですらないかもしれない。まさか、ファーストイベントで死んじゃうなんて、君は主人公失格だ!
まったく、主人公不在で、一体この物語はどうなるんだよ。もういっそのこと「完」って入れてもいいんじゃないかな。それとも天道君を主人公にした覇道テンプレで進むの?……って僕は何を心配してるんだ。
……それにしても、何で自爆だったんだろ。普通「主人公補正」ならもっと便利なスキルを獲得するもんでしょ。何で彼は……
初めて人が死ぬのを見た。老衰による自然死ではなく、ずっと無惨な死に方を。高宮君から発せられる光でよく見えなかったけれど、彼は爆発して死んだ。姿が跡形もなくなるまで。
結果として僕は助かった。もし高宮君があの力を手にしてなければ、僕もあの魔人に殺されていたに違いない。僕は高宮君が死んだことによって助かったんだ。だから僕は彼に感謝をするべきなのだろう。守ってくれて、ありがとうって。
……っ違うだろ!僕が高宮君に言わなければならないのは「ありがとう」じゃなくて、「ごめんなさい」のはずだ!あの時、本当は僕も一緒に戦うべきだったんだ!魔法の扱いがよく分からなくても、例え失敗することになっても、僕には力があったんだ!それを僕は……。傲慢だった。自分勝手だった。僕はこの世界に来て、テンションが上がって、好き勝手に妄想して、高宮君が主人公だって決めつけて、僕のわがままを押し付けていたんだ。
正直言って、元の世界で彼が死んだとしても僕は悲しんだりしなかっただろう。それが事故であっても、自殺であっても、他殺であっても、病気であっても。哀れみこそすれ、悲しむことはないはずだ。
でも、やっぱり、どうしても、抑えられないんだ。
後悔が、罪悪感が、涙が。
自分に非がある場合にしか悲しみを感じられないなんて、僕はなんて最低な奴なんだろう。実際、最低なんだから仕方ないか。
皆になんて説明しよう。彼は友達みたいな子がいなかったと思うけど、悲しんでくれる人はいるのかな。先生はすごく悲しむだろうけど。この国の人はどうかな。見ていた感じだと、高宮君のことを快く思ってない様に思えた、あの人達は。もとはと言えば彼らがこの世界に僕達を召喚したせいでーーいや、責任を逃れようとするのはやめよう。
誰も彼の最期を知らないんだ。僕以外誰も。彼がどれだけ勇敢に戦ったか、それを僕が周りに言ったところで信じてもらえないだろう。そもそも、「自爆」によって死んだとあっては、彼は死んだ後も馬鹿にされかねない。彼自身の体も魔人の体も、もうここには無いんだ。証明のしょうがない。
あるのは、爆発の時に僕の近くに飛んできた、高宮君の左手ぐらい。
……ん?
って!ぎゃぁぁああああーーーー!!!!!
何!?何で左手が残ってるんだよ!グロいよ!怖いよ!さっきまでの反省が一気に吹っ飛んじゃったよ!切断面とか若干焦げてるし!何なのさ!まさか、一緒に戦おうとしなかった僕への復讐なのかい!?謝るから、ごめんよー!
はぁ、はぁ……。落ち着け、よく考えろ。ここは異世界だ。魔法が存在する世界だ。だったらまだ可能性はある。左手一つあれば、人体を再生させることだって不可能ではないはず。たとえそれが限りなくゼロに近くても、それを出来る人がいなくても。誰も出来ないなら、誰もしてくれないなら、僕がやろう。やってみせよう。高宮君に救ってもらった命で、今度は僕が彼を助けるんだ。
しかし、一体どうすればーーっと、あの本は!
机の上に置かれていた、いくつかの分厚い本。その中の一冊が偶然にも、いや、これぞご都合主義と言うべきか……。やっぱり高宮君、死んだ後もその主人公補正を発揮するのか……。
『RE:ゼロから始める人体蘇生』
パクリじゃねえか!