プロローグ その7
今、自分が置かれている状況を改めて確認してみる。
目の前には化物みたいな見た目の男がいて、俺は今そいつに剣で腹を刺されている。血が止まらない。蹴飛ばされた衝撃で多分骨がやられているし、体はボロボロ。俺は死ぬ。そう理解するのは難しいことではなかった。
昨日、地球からこの世界に勇者として召喚された。意味が解らなかった。初めは集団拉致の可能性、最先端のVR技術の試験、などを考えたが、どうもこの世界は現実のものらしい。教室に居た俺達全員を運びだし、誰にも気づかれずに連れていく、なんて今の日本では不可能だろうから。この世界は現実だと考えた方が現実味があるだなんて思わず笑ってしまう。
で、俺達を召喚した人達の話を聞いてると、俺達には強力な力があるらしく、魔王を倒しにいかなくてはならないようだ。もちろん至るところで文句が飛び交った。だが、それは鶴の一声で静められる。クラスの中心である天道が、魔王を倒す意向を示したのだ。馬鹿だ。あんな話を鵜呑みにして、死ぬかもしれないのに。しかし、アイツはこのクラスにおいて、先生よりも絶対だった。文句を言ってた奴等が、まるで最初からその気だったかのように振る舞っていた。本当に馬鹿だ。全員が。
でも、俺は期待してしまっていた。もとの世界では誰からも必要とされてなかった俺にも何か力があるんじゃないかと。嘘のような話をどこかで信じていて、期待したんだ。期待したかったんだ…………。
その結果がこれだ。
化物に簡単に追い込まれ殺される。前の世界でもこの世界でも俺は必要の無い存在なんだ。そうだ、必要ないからこそここで俺は退場させられるんだろう。
俺が死んだって悲しむ奴なんて誰もいない。少なくともこの世界には。元々友達なんていなかったし、むしろ嫌っていた奴の方が多い。この世界の奴等だって俺のスキルを知って顔をしかめていたくらいだ。
誰からも必要とされない。ここで死んだところで…………。
あ、そういえば、この部屋にはもう一人いたんだったな。俺が死んだら、アイツはどうなるんだろうか?奥のベッドの上で不安そうにこっちを見ているアイツは。殺されるのか、人質にされるのか?
そうなったところで、俺にはどうすることも出来ないんだけどな。魔法の適性がヤバくて、けど他のステータスは俺位低くて、普段何考えてるか分からない。悪い奴ではないんだろうけど、まあ、諦めろや。
あー、本当、何でこんなことになったんだ?
俺の短い人生に何の意味があったんだ?
どうせ死ぬなら、アイツだけでも助けてやりたいけど、俺の「補正+1」とかいう意味分からんスキルではどうしようもないしな。
せめてスキルが「自爆」とかだったらよかったんだけど……
ヤバい。もう意識がーーー
『スキル「補正+1」発動。スキル「自爆」を獲得しました。』
……は?何これ、幻聴?もしかして俺、もう死んでる?くそっ!何が何だか分からん。視界も真っ白だし、感覚とかも何も感じないし、第一周りの音が一切聞こえない。つまりは幻聴。もしくは天使か神様かの声っていったところか。
『スキル「自爆」を発動しますか?』
神様、アンタ何言ってるんすか?俺、既に死んでるでしょ?自爆もなにも……
『発動しますか?』
あー、もう、しつこいな!勝手に発動しとけよ!
『スキル「自爆」を発動します。』
「な、何だ!?何故貴様の体は赤く光ってるんだ!何をする気だ!やっ、やめろー!!」
俺は化物もろとも爆発したそうな。