プロローグ その2
さて、何から話したらいいものか。といっても巷でよくある「異世界転移」宜しく、教室でSHRを行っていたら大きな魔方陣が表れて、強烈な光に包まれたかと思えば、ここにいた。という他あるまい。僕の言う「ここ」というのは例の如く、超でっかいお城である。さっきから何度も周りを見渡しているが、僕達のいるこの部屋だけで体育館と同じくらいあるかもしれない。天井にはもちろんシャンデリア。壁は一体何でできているのだろう。触るのすらも気が引ける豪華な造りになっている。僕はあまり世界について詳しくないが、ヨーロッパのお城というのはこんな内装なのだろうか。
それにしても、まさか自分が異世界転移させられるなんて思っても見なかった。いや、某小説投稿サイトに掲載されている作品を読んでいるときは「僕もこんな風になってみたい」と思っていたことは認めよう。でも、実際に起こるか?あれは妄想の中で楽しむからいいのだ。当事者になってみると、まず、間違いなく冷静でいられない。僕がこのように思考を巡らせているのは、けして僕が落ち着いているからではない。少しでも考えるのを止めてしまえば、目の前の現実が受け入れられず、パニックになってしまうからだ。現に周りにいる他の生徒のほとんどは騒いだり、泣いたり、呆然としたりと、様々な反応を見せている。僕のは一つの現実逃避なのである。
しかし、こんな状況であっても、しっかり自分を持って皆をまとめようとしている人物もいる。担任の松浦先生と、天道君だ。松浦先生は体育を教えている先生で体が大きく少し強面ではあるが、正義感が強くフレンドリーであるため、生徒からの人気が高い。
そして、天道君。彼は本当に凄い子だ。その特徴を挙げれば両手の指では足りない。イケメン。高身長。スポーツ万能。頭脳明晰。等々。おおよそ完璧と言う言葉は彼のために存在するといっても過言ではない。もちろんモテる。クラス、学年、はたまた学校を越えて、彼の人気は留まることを知らない。さっきまでさんざん騒いでいた生徒達が真剣にこの国の人の話を聞くモードになっている位だ。先生が言っても効果は薄かったのに、流石は天道君。先生が軽く拗ねるほどにはカリスマだ。
と、僕があれこれ考えている内に、どうやら勇者として魔王を倒す流れにまとまったようだ。天道君の説得によるものだろう。でも彼らは、僕らは今まで普通の学校生活を送ってきた、ただの学生だぞ。どうしてそんなに簡単に戦うことを選択できるんだろう。怪我だってするし、死なないという保証はない。が、天道君が決めた以上はひっくり返らない。それを僕たちは知っている。このクラスでは彼が絶対であるということを。むろん、彼自身はそれを意図的に行っている訳ではない。彼の純粋な正義感による。のだと多くの生徒が信じている。僕は彼を尊敬しているものの、その点に関しては疑問を感じずにはいられない。まあ、僕が何を言ったところで無駄だけどね。
さてと、僕も皆に混ざろうかな。……ああ、そう言えば、このクラスにはもう一人注目すべき人がいた。天道君がクラスの光だとするならば、彼はきっと陰だろう。友達らしき生徒はおらず、勉強も運動も平均。一部の人間からはイジメを受けている。そんなクラスカースト最底辺の生徒。それが高宮君である。見た目もいかにも貧弱そうで、本当に戦いになったとき、真っ先に捨てられそうな子。
と、まあ、このクラスにはこれほどまでに対極な人物がいるわけで……
ちょっと待てよ。何かおかしい。何がおかしい?何もおかしくない?
……いや、違う、嘘だろ……。天道君と高宮君。最高と最低。人望の厚い者と、人望のない者。クラスのリーダーといじめられっ子。
……これじゃあまるで……僕がさっき話していた「異世界転移」系の作品そのものじゃないか!
何で僕達が選ばれた?勇者として召喚された?もしこのクラスがこの世界に飛ばされたのが偶然じゃなかったとしたら……。このクラスが適任だったとしたら……。
--落ち着け、僕。何を勝手に妄想を膨らましているんだ。昔からの悪い癖だぞ。まだどうなるか決まった訳じゃない。「異世界転移」の作品はたくさんあるけれど、彼らは似たような環境のクラスだったけど、あれは創作物で、これは現実だ。それに今深く考えすぎてしまうと、話の展開がしにくくなってしまう……って、また小説として考えてしまっている!
ふぅーー、はぁーーー。
よしっ!落ち着いた。大丈夫。僕は冷静だ。もう変なことを考えるのはよそう。いつもと同じように、皆の中に入って、流されるようにしていればいいんだ。
けど、もし、この物語の主人公が、彼なのだとしたら……
僕はこの「作品」の読者でいる。
それも悪くないと思ってしまった。
「これから皆さんには、ご自分のステータスを確認していただきます。」
とりあえず、このイベントが先だよね。