7.遥かな星 遠い楽園:私はサルが大好きです(1)
私は、チンパンジーが好きです。
私は、ゴリラが好きです。
私は、オランウータンが好きです。
私は、ボノボが好きです。
私は、類人猿が大好きです。
私は、類人猿が好きです。時間が許すのなら毎週のように行きたいですし、体力が許すのなら閉園まで側にいたいほど好きです(さすがにもうできませんが)。
かなり昔の話ですが、ちょうど動物園にいたときに震度3くらいの地震が起きたことがあります。チンパンジーたちは「びっくりしたよな」「もう、大丈夫だよね」と言っているかのように互いにハグをしあい、キスをしあっておりました。しばらくすると、第2位の雄が私の前にもやってきて、アクリル板越しに唇を寄せてきました。
彼とは特に親しいわけではなく、顔を合わせるのも、発情期の雌がガールズトークをしに来ようとするのを邪魔する際にアクリル板に飛び蹴りをかましてくるときくらいでした。ですが、どうやらキスをして落ち着かせてやらなければならない程度には、仲間とみなされていたと思われます。
私が彼らの中にヒトを見ていたのと同じように、彼らも私の中にサルを見ていたのでしょう(いや、チンパンジーは正確にはサルではありませんが)。
『エヴァが目ざめるとき』は、チンパンジーに記憶を移植させられた少女の物語です。
手を伸ばしてもヒトとチンパンジーでは手の長さや力の感覚が違うためにそこから合わせなければいけない、自分だけがTAさせられているという、身体的にも精神的にもきつい状況で、冷静に行動していく主人公がかっこよかったです(身体的感覚の合わせ方については、「憑依」したキャラクターが、他者の肉体をどう動かすのかという表現の参考になるかもしれません。義肢の使い方や人工視覚システムを参考にして描いたのではないかと思います。こういった描写を読むと、モビルスーツを訓練なしに動かせた少年はすごいとしか言い様がないと思います)。
しかし、それ以上に印象深かったのは、主人公にフラッシュバックのように訪れる、失われた森の記憶でした。それが彼女の犠牲となった雌のチンパンジーの記憶なのか、それとも、ヒトの遠い祖先の記憶なのか、最後まで明かされることはありませんでしたが。
現在、類人猿たちは、様々な意味で森の楽園の住人ではありません。
一つには、森は年々減り続けており、彼らが彼らだけで暮らすことのできる楽園が、地上にはすでに存在しないからです。
二つには、類人猿はけっして心優しい動物ではないからです。愚かさも残酷さもヒトだけのものではありません。
映画「猿の惑星」の中で、「猿は猿を殺さない」(もともとのことばでは「類人猿は類人猿を殺さない」)というフレーズが使われていますが、チンパンジーはアカコロブスというサルを食べるために狩りますし、類人猿も類人猿を殺します。ヒトの祖先と類人猿の祖先が分かれてから、それほど多くの時間が経ったわけではありません。ヒトとサルの持つ、優しさも残酷さも愚かさも賢さも進化の過程で獲得してきたものなのです。
「猿の惑星」ではおそらく発禁本となるであろう野生のチンパンジーの様々な観察記録には、例えば虐待されて亡くなった赤ん坊の話から、ポリオで片腕が動かなくなりながらも弟と協力して群れを治めた青年の話まで、様々な話が書き記されています。
これらの本は、類人猿の愛と死の歴史の記述であると同時に、研究者(観察者)の喜びと苦悩の記述の書でもあります。類人猿は凶悪な怪物でも、聖なる獣でもありません。単なる猛獣なのです(でも、種族特性からいうと、チンパンジーの方がゴリラより残虐だと思うのです。「猿の惑星」のゴリラの扱いには納得できません!)。
さて、動物園についての話の中で、「種の方舟」としての役割が動物園にはあるということを私は書きました。しかし、この方舟がどの星に向かうにしても、すべての動物が乗れるわけではありません。
上記の動物園にいた、第1位の雄がそうです。チンパンジーには複数の亜種がありますが、まだそれについて研究が進んでいない時代に生まれた彼は、飼育員さんの話によると、子どもを成すことの許されない、いわば「雑種」のチンパンジーでした。
彼は、子どもが好きで、お母さんたちからも信頼されていました。子どもは小さな子どもと遊びたがるものですし、好奇心旺盛な小さい子どもは他の大人に無防備に近寄るものです。けれども、母親としては責任の取れない子どもに自分の子どもを任せるわけにはいきませんし、体の大きな大人(特に雄)の側にいて何かあったら怖いので慌てて連れ戻すのですが、彼に関しては別でした。よく預けて、お母さん同士でランチ?したりグルーミングしたりしていました。
彼とは新たな猿の楽園で、再会できるように願っています(いや、お互いにまだ存命ですが)。
……なぜか、チンパンジーの話が長くなりましたが、話はまだ終わっていません。需要なくても後半へ続きます。
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P・ディッキンソン/唐沢則幸 (訳)『エヴァが目ざめるとき』R15/難易度中←変?なSF系児童文学を書くことで有名な人。この訳者さんの作品は結構好きです。
松沢哲郎教授の本(マハレのチンパンジーとアイの記録)
『チンパンジーはちんぱんじん』U14/難易度中←解説に様々なチンパンジーの本の紹介があるので、入門書としてぴったりです。
『チンパンジーの心』R15/難易度中←「ちんぱんじん」よりアイ・プロジェクトについて詳しかった気がします。内容はそんなに変わらなかったかも。
←西田利貞教授とか、伊谷純一郎教授とか研究者はいろいろいるけれど、いろいろな意味で松沢教授がいちばん読みやすいです。
J.グドールの本(ゴンベのチンパンジーの記録)
『森の隣人―チンパンジーと私』河合雅雄 (訳) R15/難易度中←聖典! 訳がすばらしいです。
『心の窓―チンパンジーとの30年』高崎和美 ・伊谷純一郎・高崎浩幸 (訳) R18/難易度中←訳が叙情的というか、アフリカの森が立ち上がってくる感じがします。「わたしたちは世界を理解しようとするとき、科学という窓を通してその世界をのぞく。しかしほかにも世界をのぞくための窓があるのだ(大意)」ということばが好きです。残酷なシーンもあるので、R18で。
『森にうまれた愛の物語―野生チンパンジーのなかまたち』アラン・マークス (イラスト)/河合雅雄 (訳) U14/難易度低←絵本。かわいい。内容は『森の隣人』と『心の窓』からのエピソード。
『アフリカの森の日々―わたしの愛したチンパンジー』松沢哲郎・赤尾 秀子 (訳)U14/難易度低←写真集。かわいい。
F.ドゥ・ヴァールの本
『政治をするサル―チンパンジーの権力と性』西田利貞(訳) R15/難易度中←海外の動物園のチンパンジーの話。騙したり騙されたり駆けひきいろいろ。
『利己的なサル、他人を思いやるサル―モラルはなぜ生まれたのか』西田利貞 ・藤井留美 (訳) R15/難易度高←動物の思いやりと残酷な行動のエピソードいろいろ。上記の動物園の後日談あり。ドーキンズからは批判されていた。ちょっとスピリチュアルっぽいので私は苦手です。
日本の動物園のチンパンジー
吉原耕一郎『ボス交代―多摩チンパンジー村の30年 』R15/難易度中←文体は好き嫌いあるかも。テレビ番組「ようこそ先輩」はおもしろかったです。登場人物のうち、大半は故人となっているのがさびしいです。
★映画について(某密林で育った人の話とか某惑星の話とか)
サル仲間(人間の方の)と類人猿の出てくる映画の話をすると、たいてい俳優がイマイチだよねという話になります。プロの研究者を演技指導に招いたものもあるのですけれどね(ゴリラは難度が高いみたいです)。
演技は期待しないけど、顔くらいはまともなのをそろえてほしいなあ……
まだ、続くのです。
本はだいぶしぼりましたが、マニアックなものがございましたらすみません。いつも以上に客観的に難易度を判断していません。