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4.蚊と吸血鬼:あるいは消された英雄の話

 今日のネタは、人類が戦う最強の戦士、すなわち()(とついでに吸血鬼)についての話です。


 私がはじめて触れた、蚊に関わる話は、山本有三の「パナマ運河物語」でした。パナマ運河建設をはばむマラリアに対抗する熱き男たちの戦いと勝利……おっさんが好きで、どろくさい話が苦手ではないのでしたら、おすすめです。


 実は、蚊に対する人類の戦いは、現在でもまだ続いています。日本では蚊が運ぶ病気としてデング熱がニュースとなっていますが、マラリアは、結核(けっかく)やエイズと並ぶ3大感染症の一つですし、日本脳炎も日本国内での発生件数は減ったといえ、いまだにある病気です(そもそもワクチンの有効期限が3〜4年のため、海外の感染のリスクが高い地域へ行くときは追加接種が推奨(すいしょう)されるそうです)。

 ヒトがエルフや魔族、獣人などほかの種族へ戦争を仕掛けるときなど、この辺り(特にマラリアと鎌状(かまじょう)赤血球貧血症の話など)のエピソードはネタのもとになるのではないでしょうか。

 まあ、海外へ渡航するときの予防接種について考えると、モンスターを退治するために奥地に乗り込む冒険者って本当に冒険をしているなあと感心いたします。違った意味で、どきどきしてしまいます。


 さて、蚊と伝染病に対する戦いというのは、蚊を直接殺虫剤などで退治するというよりも、生活スタイルを変えるとか開発によって生息場所をなくすとかの間接的な「退治」のほうが、効果を出すことがあります(逆に、これまで問題とならなかったデング熱などの熱帯由来の病気が日本で流行するというのも、流通の規模の拡大化と、地球温暖化という二つの変化が背景にあったりします)。これも、内政系のファンタジーで、魔物を「退治」するときのネタとして使えると思うのですが、なかなか見たことがありません。おそらく、直接モンスターと戦って勝利を収める方が話としてもりあがるからだというのと、結果が出るまで時間がかかるので地味だからという理由なのでしょうが。内政系のお話でもファンタジーでもありませんが、ネズミが異常繁殖した島の話などあるので、参考になるかと思います。

 皮肉なことに、伝染病などに対する対策は、先進国よりも発展途上国(特に独裁的な政治が行われている地域)の方が成功します。キューバで成功したデング熱やマラリアの対策が自由の国では失敗したり、予防接種が先進国で反対されたりといった動きを見ていると、感染症対策の難しさを感じます。


 長々と文が続きましたが、蚊については、ズバリ『蚊ウイルスの運び屋 』という本があるのでご覧ください。無理矢理孵化(ふか)させられ、脚がまだ自由に動かない成虫に迫る、ムーン的な行動をする種類の蚊の話など、おもしろいです。

 話の中心は、マラリアやフィラリア、黄熱病など様々な感染症とそれに立ち向かった戦士(研究者)たちなのですが、注目するべきところは、千円の人について書かれていないことです。まあ、業績を考えれば当然のことではあるのですが、日本人の感覚からするとね。

 

 以前、知り合いは子どもに「先生、蚊は何の役に立つの?」と質問されて一瞬答えに詰まったそうです。生態系という観点から説明をしたそうですが、たとえば、蚊以外にダニやノミ、ブヨといった吸血性の虫がいたり、ガラパゴスの血を吸う(フィンチ)がいたりすることを考えると、生態的な位置として血を吸う虫や小動物というのはあるべきものではないかなあとも思います。ちなみに、蚊の口吻(こうふん)をヒントにして作られた、痛くない注射器の針というのがあります。ヒトの役にも立っていると言えなくもないです。


 チスイコウモリ(でも、血縁関係にないもの同士で血をあげちゃったりする「優しい」動物ですよ)なども魅力的ですが、生態学的におもしろいファンタジーな生物といえば、第1話で紹介した「崖の国の物語」シリーズに登場?する吸血樹(きゅうけつき)(チスイガシ)だと思います。一般受けはしないとは思いますが、図鑑や年代記を読むのが好きなら楽しめるかもしれません。


 最後に、吸血鬼について述べようとしたのですが、実は吸血鬼の登場する書籍よりも吸血性の動物(特に蚊とかダニとか)の方がたくさん知っていることに気がついて、あきらめました。

 かつて古生物学者のジェイ・グールドは、恐竜が子どもに人気である理由として、強くて大きくて絶滅しているからと書いていましたが、さしづめ、吸血鬼は、(こわ)くて美しくて滅びかけているからこそ魅力があるのかもしれません。ビール腹の吸血鬼とか入れ歯の吸血鬼とかって想像したくないです。



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蚊と戦う熱き漢たちの話

・山本有三「パナマ運河物語」(『心に太陽を持て』所収)U14/難易度低。もともとは国民文庫の文章なので、道徳臭いといえばそうですが、パナマ運河の話はおもしろいです。でも白眉(はくび)は、表題の話かな?

A(アンドリュー ).スピールマン&M(マイケル ).ド・アントニオ『蚊 ウイルスの運び屋 : 蚊と感染症の恐怖 』栗原 毅 (監修)/奥田 祐士 (訳)。R15/難易度中。いろいろおもしろくてかっこいいのですが、興味がない人はないのかも。野口英世の批判的な評伝については、渡辺淳一『遠き落日』があるようです(未読)。


ネズミが異常繁殖!

・椋鳩十『ネズミ島物語』R15/難易度低。ちょっとグロテスクなシーンがあるので。最後は牧歌的。

・西村寿行『滅びの笛』R18/難易度高。すごくグロテスクでエロティックなシーンがあるので私には難易度が高すぎました。本を放り投げたくなるラストです。


吸血鬼の話:ちょっとマイナー系を。

・A・K・トルストイ 『吸血鬼の一族 』渡辺節子(訳)。ポプラ社文庫の怪奇シリーズ。いちばんはじめに読んだ、吸血鬼の本。寒くて怖い。U14/難易度中。

R(ロバート).スウィンデルズ『きえた13号室』斉藤健一 (訳)。U14/難易度低。児童文学。子どもたちの吸血鬼退治の話。だんだんと謎が組合わさっていくところはやはり、うまい。でも、底は浅い。

T(ティム). パワーズ 『石の夢』浅井 修 (訳)。R15/難易度高。幻想文学が好きなら難易度は中くらい。「ディオダディ荘の怪奇談義」から始まるシーンとか、石像に指輪をはめちゃうシーンとかどきっとします。

A(アネット).カーティス・クラウス『銀のキス』柳田利枝 (訳)。R15/難易度中。YA(ヤングアダルト)な吸血鬼のお話。調べてみたら演劇にもなっていて、ちょっとびっくり。ラスボスがかっこいいっす。

・年齢制限や読みやすさなどの表示を変更しました。

・紹介する本をいくつか増やしています。

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