3.筆記用具について:書くものと書かれるものの話(2)
ファンタジーの文房具といえば、羽ペンです。しかし、ファンタジーに使えそうな文房具はそれ以外にもあります。ということで、今回は、筆記用具についてです。
まず、日本人なら使ってみたい筆記具といえば、携帯用の墨と筆、つまり矢立ですが、現代でも販売されております。興味のある方は俵美術館のHPでご覧ください。
次に、紹介したいのがメタルポイントペン(メタルペン)。「永久に使えるペン」などで検索してみると詳細を知ることができます。なんでも、鉛筆の発明以前にはこちらの方が使われていたそうで。アクセサリーとして欲しいのですが、何分、お値段が……
また、鉛筆というと外せないのが、某伯爵の鉛筆ですが、イメージを出すなら、芯鉛筆です。タバコくらいの太さの黒鉛を革で包んでいるのですが、これだけで異界の文具っぽいです。
時代を中世風に限定しないのなら、ヴィクトリアンペンシルも素敵です(現代の物なら、パーフェクトペンシルや早川式繰出鉛筆がそれに近いかも)。森薫の『エマ』にもそれらしきものがちらっと出てきましたが、坊ちゃん仕様はシノワズリのお高い物で、メイドさんのはシンプルな物と描き分けられていたのは、さすがだと思いました。
さて、私は羽ペンを実際には使ったことはないのですが(買うと高いですし)、羽ペンで大変なのはインクを付けて書くことだと感じるトリッパーたちの反応をみると、時代の移り変わりを感じます。
というのも、何かを書くときにいちばん面倒くさいのは、イラストやマンガを丸ペンなどで描かれていた方はご存知かと思いますが、ペン先の摩耗だからです。もっとも、ペン先の材料も今は変わってきており、チタン製!のペン先も発明されましたけれど(この辺りのペン先の歴史については、万年筆のペン先の構造などを調べると、まさに技術の結晶という感じでおもしろいです)。
ミスリル製のペン先ってどんな感じか(18ミスリルと24ミスリルとで書き味は違うか、カリカリ系なのかやわらか系なのか)、もし、トリップしたなら試して見たいところです。
ちなみに、『高慢と偏見』では、女性キャラの一人がペン先を削るのが得意だと女子力?をアピールするシーンがあります。当時は、そこまで必要とされる技術だったかはわかりませんが、私にはそのアピールは無理です……
最後に、鉛筆の話で忘れられないものがあります。1つめは、クマのプーさん。確か、『プー横丁に建った家』には、鉛筆をもらったプーさんが喜ぶシーンがあるのです。「Bだって、ぼくの名前が付いてる」と。「ばっかなクマのやつ」と愛情をこめて言ったクリストファー・ロビンの気持ちがわかります。
2つめは、砂田弘 の「黄色いえんぴつ」。お母さんが、戦死した兄の思い出(鉛筆を削ってくれた)を語りながら娘の鉛筆を削るというお話です。
この話に出てきた、子どもの鉛筆をナイフで削るという行為の意味をわかるようになったのは、自分がその立場になったときでした。いつかは不要になる行為です。いずれは自分でもできるようになりますし、削らないと使えない鉛筆はめんどうなものになりますから。そう考えると、かじられた跡のある、ちびた鉛筆はなかなか、捨てられそうにありません。
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筆記用具の出てくる、印象深いお話
・森薫『エマ』R15/難易度中。メイドさんのシンデレラストーリー。緻密な絵と考証はマニアックとしかいいようがないです。番外編もマニアック。ちなみに『シャーリー』(R15/難易度低)にも字を書くシーンが登場するけれど、10代前半の少女と妙齢?の女性とでペンの持ち方が違っていて、おもしろいです。
・ジェイン・オースティン『高慢と偏見』R15/難易度中。大人の『若草物語』という感じ。イギリスの中産階級の状況がいろいろとしょっぱいです。『自負と偏見』というタイトルでの翻訳もあり、どの訳で読むかはお好みで。映画化もされています。ちなみに彼女も『エマ』(R15/難易度中)という小説を書いています。ヒロイン気取りのヒロインにいらいらしなければどうぞ。
鉛筆のお話
・A・A・ミルン『プー横丁に建った家』石井桃子(訳)。U14/難易度低。いわずとしれた黄色いクマのお話。子ども時代に別れを告げるシーンなど、結構現実的な結末。クリストファー・ミルンの『クリストファー・ロビンの本屋』(小田島若子 (訳)。U14/難易度中)も合わせてどうぞ。
・砂田弘 「黄色いえんぴつ」(『六年生のカレンダー』所収)。U14/難易度低。骨太な文章が美しく、わかりやすく、ユーモアがあって、ザ・児童文学という感じ。『ふき子の父』が一時期教科書に採用されていたので、知っている人は知っているかも。尖ったナイフ一歩前の少年少女の不安定さと子どもらしさを書かせたら、随一!
・キャサリン・ストー『マリアンヌの夢』猪熊葉子(訳)。U14/難易度中。病気の少女と少年のお話。いわゆる児童文学によくあるようなお話(心優しい少年少女が苦難を乗り越えて成長したとか)ではないし、話も暗いです。お話に出てくる緑の鉛筆って、カステルのものでしょうか? ちょっと気になります。
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