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24.教育のすゝめ、あるいは学校の作り方(異世界編):ファンタジーと学校(2)

 ファンタジー世界で学校を舞台にした物語を考えるときに、どうせなら、自分ならではの設定を考えてみたいとは思いませんか? ということで、今回は「学校を考えてみよう(2)」になります。


 よくある設定としては、中央にある、国で唯一の学校に入学というパターンですね。学校には、各領地から貴族の子女が集まってきて(ときには、平民が入学できちゃったりできなかったり)、コースも騎士コースとか魔術師コースとか分かれたりして……

 それで、卒業したら、男性だと文官とか騎士とかで就職して、女性だと結婚することになっているのですね。


 まず、自分ならではの設定を考えるなら、あたりまえを疑うことから始めるのをオススメします。

 リアルでは、高校にしても大学にしても男女共学のところが多いですけれど(ただし、高校では、数からいえば女子校の方が多い)、これは戦後の男女平等参画社会の結果でもあります。あたりまえのことではありません。

 考えてみてください。卒業後すぐに結婚してしまう女子に、学問は必要ですか? 貴族の女子よりも、平民の男子を入学させるべきではないですか? このような意見に反対または賛成するためにも、知識が必要なのです。


 かつて、1960年代の日本には、「女子学生亡国論」という理論?があったそうです。これは、女性が、一般職(事務職)としてしか働けない社会を背景にしたものでもありました。

 日本は終身雇用社会だったといわれますが、これはウソです。結婚したり、子どもができたりした女性が退職していた、しなければならなかった時代は、遠い昔のことではありません。終身雇用が誰にとってもあたりまえだった時代なんてないのです。


 つぎに、女子の入学以外にも、学校へ入学する年齢について考えてみてもオリジナリティを作れると思います。


 日本では、中学校を卒業したら高校へ、高校の後は大学へという流れのなかで、生徒が集まっています。しかし、ファンタジーで同じようにルートを考える必要はありません。

 なぜ、貴族は全員入学しなければならないのか、学問を学ぶのであれば、各領地での学習ではなぜだめなのかなど背景を考えると、もっと話が深くなるでしょう。たとえば、学園の生徒は人質だとか、中央の学校でしか取れない、成人に必要な資格があるとかそういったことでも良いと思います。

 『小公女』の背景説明になりますが、当時のインドは、「滞在」していたイギリスの将校たちにとって、自分の子どもの教育にはふさわしい土地ではありませんでした。そこで、船旅ができるようになった年齢になると、船で母国へ送り出したのです。

 同じように、「貴族の子ども」が中央に行かなければならない理由を考えられるのであれば、同じ年代の生徒全員が学園に集まるという不自然さを解決できます。

 

 教育は投資でもあります。

 考えてみてください。あなたはとある地方の貴族です。見込みのある子どもたちにお金をかけて教育を施し、中央へ進学させることができました。子どもたちはどうやら、そこで就職もしたようです。あなたは、もっともっと地元から進学させようと思いました。意味不明です。

 何人進学させても、就職させても、領地が豊かにならないのだとしたら、何のために進学をさせるのでしょうか? 地方で就職させるのであれば、かけたコストは回収できます。しかし、どのくらい進学させようと、自分の領地に優秀な人材が増えないのなら、投資の意味がありますか?


 優秀な人材を確保したいのであれば、(ひも)つきのお金(奨学金ともいう)が有効な手段です。お金を出して進学させる代わりに、地元に戻っての就職を確約させるのですね。

 日本でも、卒業後に、僻地(へきち)などにある、指定された施設で働けば、学費を免除するというシステムのある大学があります。こういった制度は架空世界にもあって良いと思うのです。

 反対に、中央の人材を充実させたいと思うのであれば、中央で就職をさせるにあたっての、地方へのリターンが必要になるでしょう。


 学校に入学者を受け入れるとき、出身地によって学費に差をつけるというのも良いかもしれません(日本でも、独立行政法人でない公立の大学の学費は、居住地によって違います)。

 実は、学校(1)の章で紹介した、公立の全寮制男子高校なのですが、県立であるにも関わらず、県外の生徒と県内の生徒で学費に差がないのです。他県の生徒のためにその地域の住民税が使われていることをどう考えるべきか、考えてみてもおもしろいかもしれません。


 学校(教育)を考えるときに、忘れてはいけないことがあります。教育の目的です。

 かつて、なだいなだは「スパルタ教育についてどう思うか」と聞かれたときに、スパルタのように強い兵士を育てるためならば、良い手段だろうと答えたそうです。すべての政策には目的があります。教育も同じです。お金を使う以上、目的と結果を考える必要があります。

 学校は資源です。教師の人員も設備にも限りがあります。医者になりたい希望者全員を入学させ、試験を受けられるように教育するためには膨大なコストがかかります。

 教育は政治です。資源が限られている以上、どのような順番でどのくらいお金をかけるべきか考える必要があります。そして、本来であればつけてはいけないものに優先順位をつけるのが、政治です。

 政府、あるいは権力者が目的を持って作った学校にするのか、「市民」が自分たちのために作った学校にするのか、教育機関としての学校なのか、研究機関としての学校なのか、切り口はいろいろとあります。ファンタジーのもっとも良いお手本は、現実ですから。

 

 最後になりますが、知識は別の視点を考えるためのものであると思っています。ファンタジーの設定などに対して、間違いを指摘するためのものでないとはわかっています。ですが、これだけはいわせてください。

 「生徒会」、ファンタジー度数を下げることばのリストを作るのだとすれば、このことばは、まちがいなく10番以内(個人的にではありますが)に入ります。生徒も児童も学生も、単なる法律的な区分です。せめて「学生会」とか「自治会」(この呼びかたにも歴史的背景がありますけれど)とかに言い換えてほしいなあと思うのです。


 教育の政治的なあり方については、また、別途書きます。

____________________


★なだいなだ

 『権威と権力:いうことをきかせる原理・きく原理』『片目の哲学』『教育問答』

 スパルタ教育について書かれていたのは、たぶん、このあたりのどれかになると思います。ちなみに、もうひとつ、平等な食事(給食)や服装(制服)は、平等な社会を作るのではないかという問いに対して、軍隊をみる限り、そうは思えないと返していたのが印象的でした。いずれもR15/難易度中。


★寮の学校のお話

・バーネット『小公女』吉田勝江/訳。U14/難易度中。イギリスの寄宿舎の生活といえばこの本。菊池寛や伊藤整の訳も読んでみたいと思いました。


・ケストナー『飛ぶ教室』U14/難易度低。

 イラストで選ぶのなら高橋健二の訳ですけれど、山口四郎の訳の方が好きです。あるキャラクターが自分のことを「幸福だって言ったらうそになるけれど、不幸ってわけでもないんだ」というように言う部分が、高橋訳と山口訳であれっと思うくらい違うのですよね。


・アントニア・ホワイト『五月の霜』北條文緒/訳。U14/難易度高。プロテスタントの家に生まれながら、改宗して、厳格な全寮制の女子校に入学することになった少女の、みずみずしくも残酷な体験記。

 おもしろいのですが、背景がある程度わからないと、難しいです。学校と対立することになった「事件」についても、「えっ、こんなので?」と現代の感覚で考えてしまうのです……


★エリートの学校を考える

・井上靖『しろばんば』『夏草冬濤(なつぐさふゆなみ)』『北の海』R15/難易度中。『しろばんば』だけなら、難易度低。尋常学校時代の学校の雰囲気を知るのに良いかも。ただ、学校へ行けるということがどういうことなのかわかるほど、エリートエリートはしていませんが。


・北村薫『いとま申して:「童話」の人びと』U14/難易度低。学校へ行くということが恵まれた時代だったころの、恵まれていた人たちの話。舞台が横浜なので、横浜県民(・・)の人に。


 「学校へ行く」というのがどのようなものなのか知りたい人は、旧制中学高校について調べることをおすすめします(本の紹介は次に)。


・映画「いまを生きる」ロビン・ウイリアムズ主演。映画の中で引用されている詩人がどういう生涯を送ったのかなど、知識があると後からじわじわきます。単純に若者vs大人の話として理解してしまうのはもったいないかも。R15/難易度中。


★調べるとおもしろい、日本の女子学生の歴史

・東北大学→日本ではじめて女子の入学を認めた(・・・)大学。

・猿橋勝子→日本におけるリケジョの先駆者。

・女子学生亡国論→詳しいことは私もわかりません。

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