21:girl girl girls:女性による女性のための少女小説
何度か書き直したのですが、どうしても、「です・ます調(敬体)」で書けなかったため、いつもと文章が違います。
中学生か高校生のときだったか、悲しいことに、もうはるか彼方の記憶であるけれども、美術で自画像を描くという課題があった。そのときに聞いた、講師のことばを折にふれて思い出すことがある。
「男の子は、自分を美化して描くけれども、女の子は醜く描く」
今回のテーマを「少女小説」と決めたときに、思い浮かんだのがこのことばだった。
少年小説であれば、こういうものを読む人なら、こういうものが好きだろうということで、テーマに沿ったものをいくつでも挙げることができる。前回の話は、天才少年たちの話がほとんどだったけれど、それ以外にもさまざまなタイプの話があるし、なんといっても、元少女の名にかけて、おもしろいと思えるものを紹介する自信はそれなりにあるのだ。
けれども、「ザ・少女小説」として紹介できるものは、少ない。
少女小説とは、一般に少女を主人公にした小説だと思われている。あるいは、少女が主人公でなくても、いわゆる「少女」が好みそうなテーマ(恋愛とか)の小説なら、少女小説だということになっている。
吉屋信子が代表的な例。田辺聖子もそういったものを書いているし、コバルト文庫や講談社青い鳥文庫で少女マンガっぽい表紙のものは、だいたいこの系統だと思う。wikiを念のために見てみたが、このあたりの解説は、さすが、wikiだった。
さて、少女小説が、少女を対象にしているというのなら、少女とはどんなものなのか、話はまずそこからになると思う。少女の気持ちになって、考えてみてほしい。
しかし、なったことのないものになれるのだろうか。経験していないことを、わかることができるのだろうか。
「オレ、女になったことないから、女の気持ちなんてわからないよ」
授業でよく言われた。
例外はあるけれども、一般的に、男の子は、主人公が男の子でない話が苦手だ。経験したことのないようなもの、とくに恋愛がからむものになると、手も足も出なくなる。
まあ、恋愛については、風呂で水遁の術の練習をしている息子のようすからすると、まだ、まだまだでも良いのかもしれないとは思うけれども。
「うれしい」とか「悲しい」とか、口に出す人はそんなにいない。だから、リアルな生活の中では、相手の目の輝きや震える指先からその気持ちを推理し、自分の経験に当てはめ、想像することになる。
物語も同じ。登場人物のセリフや行動からその気持ちを読み取る。けれども……相手がどう感じているか想像することと、それがどんなものなのか理解することは、同じことではないだろう。
少女ほど、壊れやすいものはない。
子どもから大人へとうつろう時期になると、まず身体が、何段階かに分かれてだけれど、変化する。それに伴って、周囲からの扱いも変化する。痛みを、不快感を、羞恥を伴う感覚を、当たり前のものとして、輝かしいものとして、受け入れなければならなくなる。
少女小説を難しいと感じるのは、この点である。その脆さに「わかる」と言ってしまって良いのか、私にはわからない。理解しないことこそが、理解に繋がるのではないかと考えてしまう。
少女の内面を描いた小説を探すときは、大人を醜いものとして断罪する一方で、断罪する自分自身の醜さ、いやらしさについても描かれたものを、まず、探す。しかし、そういった小説はなかなかない。あったとしても、たいていそれは、その作家の初期に書かれたもので、その後の作風はたいがい変化していっている。必要なのは、文章の巧さではない、感性なのだ。こう考えると、森絵都や氷室冴子は例外なのだと思う。
少女が少女である時期は短い。少女を少女たらしめるものは、自分自身と他者からの視線であり、年齢でないからだ。
少年が幻想世界のありあふれた住人だとすると、少女は現実世界の幻獣なのかもしれない。
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★少女小説だと思えたもの
・キョウコ モリ『シズコズ ドーター』。小学校卒業目前に自殺した母の遺体の第一発見者となり、父の再婚と新しい母との暮らしという多感な少女時代を過ごした主人公が、渡米するまでの物語。著者の自伝的な小説というのが、痛々しいです。さらっとした感じでドロドロしていないのが、逆に切ないかもしれません。この小説が日本語ではなく、英語で書かれた理由を考えると余計に……
ほかに、『めぐみ』という小説もあります。いずれも、池田真紀子・訳、R15/難易度高。
・加納朋子『ガラスの麒麟』。R15/難易度高。話としては「ななつのこ」シリーズとか、「ささらやさや」シリーズの方が、好きなのですが……けっして、読みやすくはありません。
現在、急性白血病で療養中とのことで、快復をお祈りします。
・豊島ミホ『夜の朝顔』。R15/難易度高。少女の切り取り方と文章の不安定さが、独特でした。ほかの作品を見ると、そうでもなかったりするので、これはこの時期にしか、書けないものだったのだと思います。
・佐藤多佳子「黄色い目の魚」(『黄色い目の魚』所収)。はじめて読んだときには、その粗さに感動しました。少年視点の話もあったり、気持ちがかなり細かく描かれているので、読解はしやすいです。R15/難易度中。
★若干その傾向のもの
・あさのあつこ『あかね色の風』とか、『ガールズ・ブルー』とか。R15/難易度高。文章は巧いですが、読みやすくはないです。文章の巧さが、逆に「少女」を否定しているような気にもなります。
・荻原規子『樹上のゆりかご』。R15/難易度高。旧制中学の流れを引く、都立の名門校を舞台にした高校生の一幕。主人公は女子高校生で、日常の生活の話ですが、かなりミステリアスです。ただ、はじめて読んだときには、流れがわかりませんでした。
★書ける力量の人
・氷室冴子『いもうと物語』(U14/難易度中)ほか。児童文学よりなので、多少は読みやすいかもしれません。「銀の海 金の大地」シリーズは、完結させて欲しかったです。
・森絵都『永遠の出口』(R15/難易度高)、『宇宙のみなしご』(U14/難易度中)ほか。文章の巧さと不安定さが両立している、めずらしい例です。ものによっては、読みやすいかもしれません。
★書けそうな人
・角田光代、村山由佳。それぞれ、子どもを主人公にした話を書いているので、ここまで書かなかったら、書かないと思います。
★失敗作
・梨木香歩『裏庭』、松本祐子「未散と青い薔薇」シリーズ。R15/難易度高。断罪の目を自分自身に向けないために、これほどまで感情移入しにくくなるとは思いませんでした。ファンタジーの世界設定や伏線がかなり、しっかりしているので、惜しいです。
★たぶん、最後まで書けた人
・石井桃子『初ものがたり』(U14/難易度高)。ほか。プーさんなどの翻訳で知られていますが、自叙伝的なものも書いています。時代が違うのに、なぜこれほどまでに惹かれるのかわかりません。




