2.おもしろいはわかりやすい:楽しめるお話の作り方
これは、ライトノベルの書き方指南ではありません。実は、いろいろな方の書き方を拝読しましたが、説明するにあたってライトノベルを題材にしていない方がおもしろかったのです。多分、畑違いのものから、エッセンスを抽出するということが良かったのだと思いますが……
ということで、もし、物語を作るのであれば参考になるようなものを並べてみました。
まずは、荒木飛呂彦『荒木飛呂彦の漫画術』。「王道」のストーリーの作り方やキャラクターの履歴書など、非常に参考になります。漫画論ではありますが、連載ものというくくりは、ネット小説と同じだと思います。また、漫画の描き方の説明でありながら、参考になると挙げているものには、ヘミングウェイやスタインベッグなどのアメリカの小説家の作品などいろいろなジャンルにわたっていて、ここからこういう要素を取り入れるのかとそれだけでおもしろいのです。
荒木先生によれば、漫画の4大要素は「ストーリー」「キャラクター」「テーマ」「世界観」だそうですが、これは物語にも通じていると思いませんか?
さて、私は、おもしろいということはわかりやすいということでもあると思っています。では、わかりやすいとは何がか?
それを考えさせてくれるのが、次の2つの作品です。
一つめは映画ロバート・ゼメキス監督の「バック・トゥ・ザ・フューチャー(Back to the Future)」。この映画のあらすじは、タイムトラベルをした主人公がもとの世界に戻るという単純なものです。この本筋にいろいろな問題が絡み、映画をもりあげるのですが、はじめに、課題(何をしたいか)が、示されているのがこの映画のおもしろさを作る一つの要因であると思います。何をしたいか、そのために何をしなければならないか、今できることは何か、キャラクターを動かすときは(というか、本来は自分のふだんの行動においてもですね)考えることができれば、より話が動きやすくなるのではないでしょうか。
二つめは、伊藤嘉昭『虫を放して虫を滅ぼす』。副題にあるように、沖縄のウリミバエ根絶記なのですが、課題「ウリミバエを絶滅させる」→方法「放射線を使って不妊オスを作る」という流れがはっきりしていた上に、制限(ハエの飼育の問題点やアメリカ軍の基地問題など)があり、人間の勝利があり、下手なSF小説よりもおもしろかったです。この「制限(限界)」というのも、わかりやすさの一つでして、サッカーが手を使わないからこそおもしろいように、制限があるから(たとえば「奇跡」を使わないなど)、冷めずに読むことができます。ファンタジーというと何でもありの世界の話のように誤解されていますが、制限をどのようにもうけるかは世界観と関わってきますので、魔法がある世界であっても、魔法によってできることとできないことなどを定めておいていただけると嬉しいです。
ちなみに、この不妊オスのネタは、ジェームズ・ティプトリー・ジュニア(だったと思う)も作品で使用していて、やはり、心を動かされるのだなと思いました。
ただ、おもしろいことはわかりやすいことではありますが、わかりやすいことは必ずしもおもしろいことではありません。吉本隆明が、読んだ人に「俺にしかわからない」と思わせる作品が良い作品であると書いているのには、半分だけ共感しました(漱石とか鷗外とかを例にされてもわかりませぬ)。
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・荒木飛呂彦『荒木飛呂彦の漫画術』U14/難易度中。好き嫌いはあるにしても、「美学」を持った人の文章は、読んでいていろいろと考えさせられます。絵をどのように魅せるのかなど、計算していることが本当にわかります。
・伊藤嘉昭『虫を放して虫を滅ぼす―沖繩・ウリミバエ根絶作戦私記』U14/難易度中。岩波ジュニア新書から『農薬なしで害虫とたたかう』というのも出ているのですが、わくわく度からするとこっち。放射能の平和的な利用という政治が背景にあるのだけれども、ひたすら怒れるおっさんがかっこいいっす。方法の元ネタは、ニップリングの「不妊虫放飼」。ラセンウジバエで検索すると、いろいろ出てきます。
・吉本隆明『真贋』R15/難易度高。清水義範によると、女性のエッセイの原点は『枕草子』(わたしってセンスいいのよ)で、男性のエッセイの原点は『徒然草』(俺の話を聞け!)だそうですが、その男性型エッセイの典型例。きっと、飲み屋でおっさんがクダを巻いて哲学を語っていると読み流せばおもしろいはずの本です(いや、ところどころは読みやすいのです)。
・年齢制限や読みやすさなどの表示を変更しました。
・紹介する本をいくつか増やしています。