18.プロのお値段:「になること」と「であること」
「サッカーボールダイジェスト」という、スポーツ専門誌に、「プロフットボーラーの育て方」という特集が組まれたことがあります。
内容は、J1や欧州で現役の選手として活躍している人たちは、どのようなルートをたどって選手となったのか、それぞれのルートでどのくらいのお金がかかるか、子どもの性格で考えるとどういった道を進ませるのが望ましいかといったものです。
いやあ、サッカー選手ってお金かからないのですね。子どもをブラジル留学させても、医学部の学費より安いのです。医者にするなら、6年間で2〜4千万円(私立の場合)は必要ですから。それに比べれば、留学費用の3百万弱(1年)なんて、お得だなあと。
まあ、考えなければいけないのは、サッカー選手になれる確率であり、サッカー選手として(あるいは元サッカー選手として)過ごす生涯(または生涯賃金)であるのですけれど。
ちなみに、海外留学してプロ契約を結ぶ例は、少ないそうです。選手になるための王道は、やはり、ジュニアユース→ユース→プロなのだとか。
子どもが、クラブの小学生向けコースで(まちがっても、選手育成のための選抜コースではありませぬ)サッカーを習っているのですが、夫の話では、隣のピッチで、ユースやトップの選手たちが練習をしていたり、試合(これはユース、ジュニアユースのみ)をしていたりといった光景が見られたそうです。
そういえば、何度か休みを取って見に行ったときのうちほんの数回、トップの選手が練習しているところに行きあったことがあります。すごかったではなく、怖かったです。ユースの選手もスピードがあったりとうまいのです。ですが、やはり、トップとは迫力というか何かが違うのです。
けれども、彼らですら、全員が試合に出られるわけではありません。出たとしても、勝てるわけではありません。そして、来年もプレーしているわけではないのです。
思うに、プロになることは簡単です。ある程度の技量と才能と努力さえあればなれますから(まあ、凡人にはないですけど)。ですが、プロとしてあり続けるには、それだけでは足りません。とくに、サッカーのような集団でするものの場合には。
異世界で騎士ダンチョーだの何だのを倒して、サイキョーになるという話を読むたびに思います。ああ、この書き手さんは、プロに触れたことがないのだと。
くりかえします。サイキョーになるのは、簡単です。誰よりも強ければ良いのですから。続けるのが難しいのです。追われる立場で、壁としてあり続けるのに、どれだけのものが必要なのかわかりますか?
さて、ドイツにはマイスター(親方)という資格があります。この前、パイプオルガン職人のマイスターと日本人ではじめてなった方の文章を読む機会があったのですが、いろいろな意味で、勉強になりました。
親方として工房を経営するのだから、経理や労働法についての知識も審査の対象になるとか、テストのときには自分で設計した図面を元に1年かけてパイプオルガンを作らなければならなかったとか(ちなみに、次の年からはテストの方式が変わったそうです)。
いちばん驚いたのは、テストを受けるのは一生に一度だということです。
この話を聞いて、冒険者ギルドの昇格試験に受験制限を付けてもいいんじゃねと思いました。力量を測れないヤツは、長生きできないですもの。
サッカーでは、さまざまなことを学びます。見ていてうまいなあと思うのは、コーチの指導技術です。まず、褒めて、それから悪いところを見せて、ヒントを出して、改善の方法を考えさせて……私の方が、学びたいです。まあ、それ以外にも、単なるスポーツでは終わらないことを感じさせてくれるのですが。
中でも忘れられないのは、とあるプログラムで見せてもらった選手のインタビューVTRです。「俺よりうまいヤツはもっといたし、才能があるヤツはもっといた。だけど、俺がプロになれたのは、(練習を)続けてこれたからだと思う」
継続は力なり。習い始めたときは「寝るな、起きろ!」とコーチから声をかけられていたという子どもの話を聞くたびに、このことばを思い出します。
書くことはたいへんです。ですが、書き続けることはもっとたいへんです。ですが、もしも先を望むのであれば、どうか書き続けてください。
うまく書くためには、知識やテクニックが必要です。しかし、書くために必要なのは、自分と読み手への敬意、そして書き続けたいというほんの少しの気持ちだと思いますから。
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★子どもをサッカー選手にする方法
・「サッカーダイジェスト」2016年8月25日発行(第37巻第19号)。具体的な数字については、こちらをご覧ください。
★医者のお値段
公立(独立行政法人含む)だと、大学の学費はだいたい350万。私立だと2〜4千万。自治医科大学は0円だけど、都道府県枠があるため、場所によっては難しいです。入学のための塾代や大学での教科書代などは含みません。ネットで適当にあさった情報なので、詳しく知りたい人は、ご自分でお調べください。
★マイスターじいちゃん
「須藤オルガン工房」サイトの案内になります。マイスター資格についての話もおもしろいですが、オルガン修理の方法にも、プロフェッショナルのあり方を感じさせられます。
★スポーツと数字
・マイケル ルイス『マネー・ボール』中山宥/訳。U14/難易度中。野球の話ですが、選手の能力をデータで見るのって、やはりおもしろいです。ブラッド・ピット主演で映画化。
ちなみに、サッカーの話でいちばん好きなのは宇田川優子『反則先生 5年2組のレッドカード白書』です。数字の話ではないですけど(U14/難易度低)。




