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16.空の色は何色ですか?:いろいろな色の話

 「冬将軍」「常盤松」「ヴィオレパンセ」「カール・マルクス」……

 これは、何の名前かわかりますか? 実は、すべて、万年筆のインクの名前になります。冬将軍は薄いグレー、常盤松はそのとおり常緑樹のような渋い緑。ヴィオレパンセは匂い立つスミレの花の色で、マルクスさんは、ええ、赤ですとも。

 インクは色も名前も様々で、「インク沼」には近づかないようにしていますが、はまる人がいるのがわかる気がします。


 ところで、「花嫁の色」をご存じでしょうか?

 マザーグースの「古いものを一つ、新しいものを一つ、青いものを一つ、借りてきたものを一つ」という詩にもあるように、ヨーロッパでは青(中国では赤らしい)なのですが、なぜ、青なのかというと、理由があります。

 絵を描くときには、絵の具が必要です。ところが、青の絵の具の材料になる岩石というか宝石(ラピスラズリ)が非常に高価なのです。現在でも、日本画の絵の具(岩絵の具)は非常に高く、グラムあたり何万とかの世界(ただし、高価なものはもっとする)ですが、流通の発達していない昔であれば、そして宝石が材料であれば、もっともっと高かったことでしょう。

 そのように高価なものでしたから、聖母マリアの衣に色を塗るくらいにしか使えなかったのです。ここから、「聖母の青(マドンナ・ブルー)」とか「至高の青」とか「究極の青」(これはウソ)ということばが生まれました。

 聖母マリアは乙女の象徴ですから、結婚式で青を身につけるということは、聖母の加護を得ているということ、つまり、純潔とか貞潔とかのしるしだったのです。


 おもしろいことに、どの色を青と呼ぶかというような色の区分は、文化によってそれほどの違いはないのですが(チンパンジーとも違いはないそうです)、あるものを何色と表すのかということは、文化によって大きく異なります。

 たとえば、虹の色は日本では七色ですが、ほかでは六色だったり、二色だったり。有名なものだと、アメリカやヨーロッパには、「真っ赤な太陽」がないということでしょうか? 転生先の、中世ヨーロッパ風の世界では、お日様は何色なのでしょう。「赤い」と言ってしまった主人公の異端がバレて……という展開は見たことがありませんが、アリでしょうか?


 光や色の三原色とは別に、ことばの四原色というようなものがあります。日本では、赤、青、白、黒にまつわる表現は非常に多いです。赤なら、「赤貧」「赤裸々」、白なら「空白」「自白」など。ほかの色に、これほど色から離れた表現はありません。

 しかし、この中で、いちばんわけがわからないのは、青でしょう。中国文化の影響で、青に「若い」「未熟な」という意味があるのは知っております。「青りんご」も「青春」も「青信号」もOKです。しかし、「白馬(あをうま)節会(せちゑ)」、お主だけは許せん! 黒なのか白なのか(もとは青みがかった黒馬だったとか)、はっきりして欲しいです。


 谷川俊太郎の詩の中に、「空の青さを見つめていると」というソネットがあります。ここでは、青い空というのは、手が届かないものの象徴です。

 「おかあさんといっしょ」という子ども番組の歌の中に「ぼよよん行進曲」があるのですが、これにも空が出てきます。歌詞は、とびあがってごらん、手をのばしてごらんと呼びかけます。でも、その先がすごいのです。そうしたら、空に届くような気持ちになるよと続いているのです。「届くよ」でも「届くまでがんばろうよ」でもないのです。著作権の問題のため、正確な歌詞は書けないのですが、ずっと「届くから」で覚えていたため、確認をして、あまりにもシビアな内容にクラクラきました。


 どこまでも続く青い空と人を対比させるという方法は、色々な作品で使われています。ありきたりにはなりますが、キャラクターの死を残酷に映しだす、青い空を見つめながら……というのは、やはり、描いてみたいですね。

「空がこんなに青いなんて」

 このセリフだけで涙が出そうです。


 目が見えない人であっても、青い空、真っ赤な太陽、白い雪というようなことばから色のイメージを得ることができるのだそうです。

 空の色は、青だけではありませんが、空の青さを美しいと感じることができるなら、また明日へつなげられるような気がします。


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★インクについて

・冬将軍→パイロット色彩雫シリーズのインク。ほかにも、「月夜」「冬柿」といったインクがあります。

・常盤松→セーラー四季彩シリーズのインク。ほかには、「時雨」とか「奥山」とか。瓶の形は使いやすいです。

・ヴィオレパンセ→エルバン社製。長らく、フランスの小学生の指定色だったとか。手持ちの万年筆と相性が悪いので、使えないのが残念です。

・カール・マルクス→ヤンセン工房。ほかに「ジュール・ヴェルヌ」「ヨハネス・グーテンベルク」とか。

 ちなみに、よく使うのは、パイロットのブルーブラック(匂いが好き)。ボトルで買っています。


★色を作る

 子どもの自由研究で調べました。顔料+固着剤で絵の具ができるのです。顔料の有名どころだと、カイガラムシ(コチニール)。

 定着剤を亜麻などの油にすれば油絵の具になるし、樹脂などだと普通の絵の具になるとか。片栗粉や豆乳、卵の黄身なども定着剤として使えるそうで、実際に試してみたいです。

(出典:読売KODOMO新聞 2016年8月18日号)

 聞いた話ですが、知り合いの日本画家の先生は、絵の具のために山を買ったそうです。管理はお抱えの工房任せだそうですが。

 三十年以上前に発行された、子どものための身近な毒物の話というような本の中には、油絵の具が載っていましたが、あれは顔料と定着剤とどちらが有害だったのでしょう?


★色の辞典

『新版 色の手帖 色見本と文献例でつづる色名ガイド』永田泰弘/監修。私が持っているのは旧版のもの。様々な文献の使用例があって、読むのも楽しいです。U14/難易度中。


★青いもの色々

 青い月、青いバラ、これらはみな、ないものの象徴です。青い酒(青いシャンパン)というのがあって、飲んでみたのですが、やはり、遠くにあって憧れておくべきものだとわかりました。


★あの空の向こうに

・「ぼよよん行進曲」作詞:中西圭三/田角有里。

・遠藤淑子『空の向こう』絵のタッチさえ大丈夫なら、好きになれると思います。『ヘブン』にも、空を見ながら……というシーンがあって、涙が出ます。どちらもU14/難易度中。

・秋里和国『TOMOI』R15/難易度高。思いっきり、ゲイの主人公なので、大丈夫なら。青い空を見ながら、「神様、もう死んでもいいですか?」って……


★空の色の話

・バラージュ『ほんとうの空色』徳永康元/訳。U14/難易度低。不思議な花から作った絵の具を手に入れた少年の冒険の話。ハッピーエンドです。「爆発しろ」と少しだけ言いたくなりますが。

・加納朋子『ななつのこ』U14/難易度中。殺人事件の発生しない謎解きをお好きな方に。子ども向けの『ななつのこものがたり』もありますが、こっちの方が説明しすぎなくて好きです。

・川原泉「空色革命」(『笑う大天使(ミカエル)』所収)。U14/難易度中。この「空色」もよく考えると、夢の色の象徴のような気がします。

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