11.機械猫は電気鼠の夢を見るか:ネズミ、あるいは小さな勇士の物語
17:00に間に合いませんでした……
さて、今回のテーマとなるのは、ネズミ、その中でも家ねずみ、特にドブネズミとクマネズミです。
ネズミもまた、人間との付き合いが長いだけあって、古今東西のお話によく登場する動物の一つです。「おむすびころりん(ねずみ浄土)」「ライオンとネズミ」などネズミの出てくるお話はそれこそ、ネズミの数だけあります。
父は動物学者で、ネズミを専門としていました。
家ではめったに仕事の話をしませんでしたが、冷蔵庫に解剖用のネズミを入れて母に怒られたり、天井裏にネズミの痕跡(ラットサイン)を見つけ嬉々として最新式の罠と開発中の殺鼠剤を仕掛けたりといった姿は、今もなお記憶に鮮やかです。
さて、父によると、日本の家ねずみといってもドブネズミとクマネズミとでは、習性がおおいに違うのだそうです。何でも、脅すとすぐさま反撃を仕掛けてくる脳筋系がドブネズミで、機会をうかがう腹黒系がクマネズミだとか。
ちなみに、かの高名な「冒険者」、ガンバはドブネズミです。思い起こすと、ガンバがはじめて物語に登場する『グリックの冒険』は、記憶にある限り、はじめて父にプレゼントされた本です。「話がおもしろいから」ではなく、「ネズミの描き分けができているから」という理由で(挿絵は動物画家として有名な、薮内正幸)。
どうやら、作中に出てきたクマネズミとドブネズミの勢力争いの描写が、いたく、お気に召したようでした。この「描き分け」というのが、挿絵についてのことなのか、文章についてのことなのか突っ込みたくなかったので、いまだに不明ですが。
ネズミということばが指し示すものは、たいてい、とるに足らない「小物」です。ところが、物語では、この小物たちが活躍する、しかも、集団で協力して。この展開に胸躍らせないということがあるでしょうか。もし、ネズミが大きな動物だったなら、けっして血湧き肉踊るお話にはならなかったと思うのです(集団武装したカピパラさんたちは、それはそれで受けるでしょうが……いや、あれは真のネズミではありませんけど)。
ソロで、チートな能力でもって、ハーレムを引き連れて戦うガンバ……やはり何かが違うかも……
小さなネズミが集団の知恵と協力でもって強大な敵を倒すというところに、ネズミたちの物語の真価があります。逆にいうと、ネズミを敵に回したときは、この集団をどう壊滅させるかが問題となります。
ネズミはいたるところで繁栄します。あらゆるところに入り込み、あらゆる病気と悪夢と混乱を運び込みます。ハーメルンでは笛吹きがネズミを連れて行ってくれましたが、現実ではネズミを取り巻く環境そのものを変える対策を取らなければなりません。
しかも、相手にするのは(特に現代においては)、腹黒系と名高いクマネズミです。さらに奴らの中には、代表的な殺鼠剤である抗凝血性殺鼠剤(血を固まりにくくする薬と考えてください)への抵抗力を持った、スーパーラットもいます。さらにさらに、ドブネズミの中にも抵抗力を持つものが生まれつつあります。幸いなことに、クマネズミとドブネズミは生息域が異なるため、手を取り合って(ここは尾?)攻めてくるということはなさそうですが。
話は変わりますが、自然保護の立場からのネズミ退治が近年、日本でも行われるようになりました。
実は、2005年から小笠原諸島で外来種のクマネズミの根絶作戦が続いている(一部の島では完了)のですが、固有の植物や動物がクマネズミにより被害にあっている中、「むやみやたらに、動物を殺すのは……」というような意見もあって、なんだかなあと思いました。いや、ビル街に棲むネズミ退治には反対しないくせに、島のネズミ退治には反対するって……
魔王だとか神だとかそういった存在が増えすぎたヒトを排除するという、ファンタジーにおいてある種、ありふれた設定がありますが、ああいう存在から見たら、ヒトってどう見えているのでしょうか? 絶滅を望むのならやはり、外来種扱いなのでしょうが。
害獣ではありますが、ヒトの歴史に沿って繁栄してきたネズミとこれから先も付き合うのには、まだ時間が必要そうです(遺跡などから見た限り、クマネズミの方が付き合いが長いそうです)。
そういえば、最近といっても、それなりに前の父の話。
ネズミの剥製をぬいぐるみ代わり?に孫に与えていたのが母に見つかり、叱られていました。壊れやすいものを子どものおもちゃにするのはやめてほしいとちょっと思っていたのですが、「髭が曲がった」と肩を落とす父の姿を見たので、もうないだろうと胸をなでおろしております。
英才教育を受けた小坊主は、ナンヨウネズミ(第4の家ねずみのようなもの)についても詳しくなっていて、少し悔しいです。
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クマネズミとドブネズミとハツカネズミの本(物語)を中心に取り上げました(『ぐりとぐら』は野ねずみのため除外)。今回、ノンフィクションは諸事情により割愛します。
★ガンバ3部作(斎藤惇夫・著/薮内正幸・画) いずれも、U14/難易度低
・『グリックの冒険』夏の終わりに、飼われていたシマリスがいなくなってしまったという話を聞いて、生まれたのだそうです。故郷への憧れという軸はわかりやすいと思うのですが、『冒険者たち』のほうが受けがいいとか。
・『冒険者たち―ガンバと十五ひきの仲間』個人的には、この島にいるネズミの種類が気になります。島に棲んでいるということと家屋の構造から考えると、クマネズミかなあと思うのですが、ドブネズミとは不倶戴天の敵ですし……。シジンがお気に入りのキャラですが、イカサマもかっこ良かった。2016年夏にミュージカルになったので、お子様とどうぞ。
・『ガンバとカワウソの冒険』絶滅危惧種(当時)のニホンカワウソが登場しています。四万十川を舞台にしたお話が好きならぜひ。
★ネズミの世界のオスカルとアンドレ:ミス・ビアンカ全7部作(マージェリー・シャープ著/ガース・ウィリアムズ画←4巻まで)。いずれも、U14/難易度低
・『くらやみ城の冒険』ほか。4巻までは、ガース・ウィリアムズの絵です(『しろいうさぎとくろいうさぎ』とか、福音館書店版の「大草原の小さな家」シリーズとか)。話も4巻までがおもしろいです。牢屋に閉じ込められて孤独な囚人たちを慰める、「囚人友の会」のネズミたちの活躍劇。ミス・ビアンカはハツカネズミですが、騎士役の方はドブネズミっぽい。
※父の話では挿絵が「可愛すぎる」とのこと。リアルなネズミを求める方には不向きです。
※『しろいうさぎとくろいうさぎ』:絵本の好きな女の人を口説くときのプレゼントとして。絵本界のカロン・セギュール的な位置づけだと(個人的に)思います。
★ネズミの騎士といえば……U14/難易度低
・C・S・ルイス「ナルニア国物語」(瀬田貞二・訳)から、リーピチープ。『カスピアン王子のつのぶえ』と『朝びらき丸 東の海へ』に登場。元は森にいたネズミということからするとクマネズミとも考えられますが、挿絵や性格からするとドブネズミっぽい。
★ネズミの戦士たち:レッドウォール伝説(ブライアン・ジェイクス著/西郷容子・訳)R15/難易度中
『勇者の剣』他。敵役が「凶悪」なドブネズミ。主人公はクマネズミ(にしては設定が変だけど)? 話は普通に冒険ものとしておもしろかったです(ねずみっぽくはなかったけれど)。
★児童文学? U14/難易度中
・ルーマー・ゴッデン『ねずみ女房 』石井桃子・訳。台所で暮らす平凡な家ねずみの主人公。ある日、とらえられたハトと出会い、「外」の広い世界に憧れを持って……という内容。ハトとの別れが泣けます。
いえ、児童文学なのですが、あらすじをとらえるとアダルト要素抜きのレディースコミックスです(自由とか自立とか持ってくるあたり)。ヒロインは、原題からするとハツカネズミ。ネズミである必要性はないと思うけど……
★愛媛県宇和島を舞台にした、鼠禍の話。「鼠禍」って、字面だけでもすごい。
・椋鳩十『ネズミ島物語』U14/難易度低。「蚊」の章でも紹介しました。
・吉村昭『海の鼠』未読。……なまこ?
※ちなみに、「ネズミ島(Rat Island)」という島は実在します(2012年までそう呼ばれていた)。興味のある方は、『ねずみに支配された島』(ウィリアム・ソウルゼンバーグ・著/野中香方子・訳。R15/難易度高)をお読みください。
★おまけ
・本川達雄『ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学』R15/難易度中。父に言わせると、ネズミについての記述には不正確な部分があるそうです。ガンダムを実際に作ってみたら……とかの、科学の考え方を現実にまじめに応用するという視点からお読みください。絵本版もあります。
・ロアルド・ダール『魔女がいっぱい』 清水達也/鶴見敏・訳。U14/難易度中。なんというか、ブラックユーモア満載。コメディだよねと読んでいたのに、最後が……ちょっと、『ゾウの時間 ネズミの時間』を思い出しました。
※どうでもいい、マメ知識。ネズミの年齢を知るには、眼球の水晶体を調べるのだそうです。ヒトには無理ですが、短命の動物には有効な手段だとのこと。モンスターを調べて、体が大きいのに実は……というネタに使えるかもしれませんね。
次回こそ、雄ライオンの話。
かの有名なペストは、プレーリードッグもはやらせるので念のため。
誤字を修正しました。




