読み
その日、鈴木は午前中の仕事を終え、ぼちぼち昼食にしようと定食屋に立ち寄った。何を食べようかと壁に掛けてあるメニュー表を見ていると、そこに誤表記を発見し店主に指摘した。
「オヤジさん、あそこに書かれてあるメニュー、『チャハハーン』になってますよ」
「あ、本当だ」
店主は苦笑いしながらマジックを取り出すと、『チャハハーン』と書かれてあった文字を『チャハーン』に訂正した。
「いや、オヤジさん、『チャハーン』じゃなくて『チャーハン』だよ」
「え、いや、『チャハーン』ですよ」
店主は当然のように言った。その後、店にやってきたサラリーマンが「オヤジさん、『チャハーン』一つ」と注文しているのを聞いた鈴木は、「自分が今まで『チャーハン』だと思っていたのは『チャハーン』だったのか」と衝撃を受けたのだった。
会社に戻った鈴木は、ハサミとエンピツを手に取り同僚に聞いてみた。
「これは何て名前だ?」
鈴木の妙な質問に怪訝な顔をしながらも同僚は、
「変な事を聞く奴だな。それは『ハサミ』と『エンピツ』だろ」
と、当たり前に答えた。同僚の言葉を聞いた鈴木は安堵のため息をつき、「バカな事を聞いてすまん」と午後の仕事に取りかかろうとしたところへ、上司が鈴木を呼んだ。
「おーい、『スゥズッキ』くん、ちょっといいかな?」
鈴木は、仕事を終えてからでも親に自分の名字の読みを聞こうと思った。