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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

昔話

作者: 臥待 春人

前回の「if」に関連した話です


少し刺激の強い内容となっています

流血、暴力等の表現が苦手な方は閲覧を控えてください


見てくださる方は、どうか最後まで、見届けていただきたいです。

昔々、本当に昔のお話。

あるところに、神様になる少女がいました。

普通の少女でした。

人と全く変わらない少女でした。

少女は小さな祠のような小屋のような場所に閉じ込められていました。

毎日毎日一人でした。

一日に三度、村人の世話係から運ばれるご飯を食べて一人きりで何年も過ごしました。


何度も太陽が昇ったり沈んだりするうち、少女は娘になりました。

娘になっても何も変わりませんでしたが、世話係になり、ご飯を運んできた心優しい青年と仲良くなれました。


それから娘は、ひとりぼっちだった時間を埋め尽くすように青年と一緒に過ごしました。

娘と青年は夜になると、人目を盗んでは逢瀬を重ねるようになりました。

娘は幸せでした。

娘は神になることなどどうでもいいと思うほどに、人として最大の幸せを手に入れました。


ですが、ある日から青年は現れなくなりました。

娘は泣きました。悲しみました。

月が出ても青年は現れませんでした。

代わりに知らない大人達が現れました。

たくさんいました。娘は怖くなりました。

すると、何かを投げられました。

見てみると、人の腕でした。

娘には一目で分かりました。それは、いつも娘の頭を撫でていた優しくて温かい手でした。


娘が叫ぶ間も無く、娘を押さえつけた大人が何かを口に流し入れました。

まだ温もりが残るソレは血でした。

娘は口内にまとわりつく血の感覚と独特の匂いに怯え、嫌がって首を振りましたが、何かを目の前に置かれました。

優しい優しい青年の首でした。


娘は涙を流しながらソレを飲み込みました。

大人達が次々と娘の前に投げていきました。青年を。青年だったものを。

それはあまりにも残酷な光景でした。

しかし娘は、月明かりに照らされる青年の手足を見つめながら飲みました。

大好きだった青年を想いながら、伝えられなかった言葉と一緒に飲みました。

娘は後悔しながら飲みました。

たった一言、好きだと言えなかったのです。

娘は恥ずかしかったのです。

今なら言えました。大きな声で言えました。

もう届かない想いを、心の中で叫びました。


それから月が沈み、太陽がゆっくりと昇るまでの間に、娘は青年の内蔵や切り刻まれた肉片を何度も口に入れられました。

血の滴る臓物の味と匂いにむせ返り、娘は何度も何度も吐き出しそうになりながら、自分で口を押さえて飲み込みました。

青年を捨てたくありませんでした。地面に落ちて汚れてしまう青年の肉片さえ、かき集めて腕に抱きました。

それだけ青年のことが大好きでした。


大人達がいなくなった後も、娘は決して吐き出しませんでした。

ただ、泣きながら青年の首を抱きしめました。

娘は子供のように声を上げて泣きました。

初めての「好き」は、いなくなってしまいました。


たくさん泣いて、涙も枯れた頃、娘はゆっくり歩き始めました。ひらひらと舞う桜に導かれるように、大きな桜の木を見上げました。

手が届きそうなほどに近い満月と、風に吹かれて舞う桜の中で、娘は悟りました。

青年が娘を生かそうとして殺されたのだと。

そして、村人たちもまた絶望の末に狂っていったのだと。

娘は、青年の首を強く抱きしめました。

たくさんたくさん謝って、ありがとうを言い、娘は微笑みました。


顔を上げ、その存在に娘は吠えました。

神になれなくていい。代わりに、何度生まれ変わっても、また青年と出逢いたい。限られた時間でいい、次こそは想いを伝えたい。と。


娘は神様になりませんでした。

娘は青年に出会い、神様になれなくなりました。

娘は青年を愛した普通の人間だったのです。

普通の娘だったのです。

それから娘は目を閉じました。

大好きで愛しい青年に、たった一言伝えるために。

身体の中に、青年の温もりを感じながら、娘は幸せそうに微笑みました。

娘を包むように舞っていく桜と、それを照らし、見守るような月明かりの下で、娘は心優しい青年を想いながら、長い長い夢を見ました。


昔々、本当に昔の幸せなお話。



ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます


まだ不明な点が多々あると思いますが、ゆっくりと紐解いていけたらなと思っています


全ての物語が揃った時には、この小説を読んでくださる方が少しでもいてくれたら嬉しいです


また関連した話か、別の短編を更新していきたいと思います

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