神様のいうとおり
北海道COMITIA1にて、なろうに投稿した掌編+なろう未掲載短編+書下ろし掌編を収録した掌編集同人誌を発行しますので、そのサンプルも兼ねて収録したものの中から。これも即興小説からのものなんですけど、お題は忘れました。制限時間は30分だったはず。
以前別名義で公開していたことがあるので、覚えている方がいらっしゃるかもしれませんね。
僕は別に自分を不幸だと思ったことはない。
これは仕事だ。仕事があるというのは幸せなことだ。役割すら与えられずに消えていく存在がたくさんある中で、するべきことが与えられているのは恐らく恵まれている方だ。
「そうかしら」
「そうだよ」
幕間に、僕らは語り合う。誰の目も届かない場所で、誰かに聞かれてはいけない言葉を。
「私、貴方のことが可哀想だわ」
「どうして? 君が僕に哀れみをくれるなんて、ナンセンスじゃないのかなぁ。僕はこの仕事で充分さ。これ以外に知らないしね」
「私たちは本当に、この役割だけをこなしていればいいのかしら」
「そうだよ。それができなくなるのは、神への謀叛ってやつだね」
この四角い箱の中にある狭い狭い世界。ゼロとイチの光でできた、神様が両手の十本だけの指を動かして作り出したつまらない世界。僕らは生まれた瞬間に役割を与えられた。役割を違えようとすれば、何度も何度もその運命を修正された。
君はこの箱庭を彩る世界に生まれた正義の女勇者。僕は彼女に殺されるために存在する――名目上は、世界征服を企んでいる魔王。勇者と魔王の間には、愛のロマンスなんて生まれやしない。それを神様が望まないから。
「そりゃ、僕はこの筋書きが決められた世界の何を征服するつもりなのかね? って思わないでもないけどね。ランダムに複製されては経験値となって消えていく雑魚じゃなかっただけ、有意義な存在だと思っているよ」
「そう……。貴方って、私と二人きりの時は口調変わるわね。僕とか言っちゃって……、仕事の時はあんなに傲岸不遜なのに」
「それは君、仕事だからだよ。君だって、二人きりの時はおしとやかだ。普段はあんなに勇ましいじゃないか」
「そういう任務じゃない。ああ、結局私たち、神様の前では本当の自分の気持ちなんて欠片も叫ぶことができないのよ」
「そういう役割だからね」
「私なんて、名前すら自分のじゃない。能力も、装備も、何もかも神様の思い通りに変えられてしまうわ」
「いいじゃないか。僕は嫌いじゃないよ。君の色んな姿を見られるしね」
とはいえ、実際は見た目に変化があるのは持たされている武器くらいのものだ。何せしたくもない世界征服をしているのだ。自分が殺される武器のバリエーションを楽しむくらいの娯楽はあってしかるべきだろう。
だけど、彼女は僕のジョークを真正面から受け取ってしまったらしい。顔を赤くしている。
「口説いているつもり?」
「そうできたらいいんだけど」
「そ、そうよね……。神様が邪魔するわ」
邪魔されなければOKということは、そっと胸の奥にしまっておこう。
僕は気を取り直して立ち上がった。電源が入ったから、そろそろ出番が来る。
「さぁ、そろそろ仕事の時間だ。三周目の僕らの戦いも最終局面だからね。できればひと思いにやってくれると楽で嬉しい」
「無理かも。レベルが足りないわ。『縛りプレイ』ですって。神様の考えることはよくわからない」
「……できれば僕は君を殺したくないんだけどね。雑魚にやられておくわけにはいかない?」
「それは神様次第よ」
「だよね。うん、わかっているよ。何から何まで神様の言う通り。それが僕らの全うすべき任務だったね」
小さな箱庭に歩み出すその前に、もう一度彼女は僕の顔を見つめる。
「ねぇ、本当に貴方は自分を不幸だと思ったことはないの? 私を殺して、殺されて……」
僕は答える。
「そんなこと、一度も思ったことがないね。さぁ、行こう。君が迷わないように、最高に厭味ったらしい悪役になってあげるから」
背中を押すと、彼女はとても複雑な顔をした後、無理したように笑う。
「どうせ貴方も私も、用意されたセリフを読み上げるだけじゃないの」
そして走り出す。君は振り返らない。
僕は魔王の椅子に偉そうに腰かけて、最後の城で彼女がたどり着くのを待っている。
僕はこれ以上は何も望まない。君も望まなくてもいい。だって望んでしまったら、君の抱える使命がとても哀れなものになってしまう。それだけは嫌なんだ。
僕は別に自分を不幸だと思ったことはないよ。
ただ、幸せだと思ったこともない。
君の疑問に対する――それが答えだ。どうか忘れてくれ。
同人誌の頒布方法などの詳細はピクシブの方に載せていますー。
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4504503