2-3 行政長官
行政長官スミスさんのお屋敷は、神殿のような佇まいでした。
見上げるようなサイズの石柱がいくつも並んでいます。
柱の一本一本には縦に溝が掘り込んであります。
素材はもちろん白い石。
石柱で取り囲まれた内側はブロック状に積み上げられた
四角い石を隙間なく積み上げた壁です。
ここまで見てきた家もかなりぴっちり石が積まれていましたが、
この家の壁は隙間風も吹かないんじゃないかな、
ってくらいピシッとしています。
お屋敷の真正面には大きな一枚板の扉が、これもすごい正確にはめ込まれています。
扉の木は分厚くて重そう。
なんだか出入りが大変そうなお家ですね。
コーヤ様はおもむろに扉に近づくとノッカーを鳴らしました。
しばらくして、重い扉が内側からゆっくりと開けられました。
半分くらい開かれた扉から、定規で線を引いたようなきれいなヒゲのお爺さんが出てきました。
「ようこそいらっしゃいました。
私、当家の執事を勤めておりますドゥンです。
中で主人がお待ちしております、コーヤ様」
「・・・ふむ、街門の身分証明情報でも取得できる仕組みなのか。
依頼を受けて参上した」
わたしたちが到着したことをすでに知っているみたいですね。
執事さんに案内されて館の中に入ります。
扉の裏側にとてつもない筋肉の男の人が二人、立っています。
顔には皮製の袋状マスク。
体には布製のベルトにしか見えない服と、黒い皮製のパンツしかはいていません。
暗がりにこの人たちが立っているのは、なんだかとても怖いです。
わたし、ビクッてしちゃいました。
「お連れの方を驚かせてしまったようですね。
彼らは下男のミー君、ヒー君です」
凄い似合わない名前です。
「驚かせてごめんね」
「僕たちは扉を開けるのが仕事なんだ」
ものすごい甲高い声で筋肉の塊がしゃべります。
体は途轍もない筋肉ですが、あの皮袋の下には幼い顔とかついてそうです。
超怖い。
「ヒー君、ミー君。
扉を閉めておいてください。
コーヤ様とお連れの方々、こちらになります」
「「まかせといてよドゥンさん!僕らは扉の開け閉め大好きさ☆」」
筋肉ブラザースが左右揃ってかわいいポーズを取りました。
ここは恐ろしい土地です。
お屋敷の中を進むこと、数分。
本当に大きなお屋敷です。
お屋敷の中まで石造りではないようです。
中は普通に板張りで絨毯が敷いてあります。
外側の神殿風の作りは様式美というやつなのでしょうか。
「こちらでございます」
執事さんが普通の木製の扉を開けると、中には恰幅のいいおじさんが待っていました。
この方が行政長官のスミスさんでしょうか。
ゆったりとした柔らかそうな生地の服を着て、鼻の下にひげを蓄えています。
紙とひげの色はくすんだ青。
体は横に広めで、顔に笑いジワが多く、温和そうな顔立ちをしています。
御年60前後くらいでしょうか。
「ようこそコーヤさんとそのお連れの方たち。
なんとも頼もしい経歴の方に来ていただき、大変恐縮です。
私がこのボリアの町の行政長官スミス・ブラックです」
行政長官というのはこの町の一番偉い人のはずですが、
スミスさんは私たちに笑顔で頭を下げ、歓迎の意を表してくれました。
凄いいい人っぽいです。
「いやー勇者様達のお力をお借りできるなら、裏山の蛮族教会どもなど、
すぐさま皆殺しに出来そうですな。
心強い限りです」
あ、いい人っぽく見えますけど、割といい人くないです。
むしろ悪い人系です。
「ヴーアミ共と共存し、街を脅威にさらす人攫い教団どもを、
メッタンメッタンのギッタギタにして欲しいのです。
お約束どおり、やつらの持っているものは一切合財根こそぎ奪っていただいて結構です。
むしろ街に持ち帰って欲しくないので、不要な分は全て焼き払っていただきたい」
わたし、調査の依頼って聞いていたのですが、違ったんですね。
読ませてもらうだけって聞いていた貴重な魔道書もいただけるみたいです。
「ご主人様、たしかコーヤ様への依頼は調査の依頼だったのでは?」
執事さんが確認します。
「うむ。
ドゥンに仲介を依頼した際にはまだ容疑が確定していなかったのでそのような依頼にしていたが、
先日、偶然教団の幹部の捕縛に成功してな。
いかがだろうかコーヤ殿、依頼を切り替えさせていただいてもいいかの」
「ふむ・・・まぁかまわないでしょう。
こちらのユースケは調査よりも殲滅の方が得意ですし」
「殺し放題の奪い放題か。
まぁ楽な仕事だな。
しかしずいぶん気前のいい話だが、ホントにいらねぇものは全て燃やすような対応でいいのか?
とりかえしたいものとかあるんじゃねぇか?」
「いいえ!全て焼いてください。
それくらい奴らにかかわったものとこの街のものは相容れないのですよ」