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2-1 冒険者ギルド

わたしの名前はティア。

17の名前があるのですが、今はティアとだけ名乗っています。

ここはドライ自由都市連合の端のほうにあるヌル・ポインの町です。

レンガ造りの家が立ち並ぶ住宅地から少し離れた、

冒険者ギルドのカウンター前にいます。

この町の冒険者ギルドは、もう60年以上ここに立っている歴史ある建物です。

目の前のご主人様のような荒く、いえ、力強い方々が利用するので、

部分部分、増改築といいますか、作り直されている部分が目立ちます。

今日も、カウンターは作り直しになりそうですね。

「古龍の角一本金貨6枚っつーから6匹もぶち殺して来てやったんだぞ!

 12本で金貨72枚、さっさと耳そろえて払いやがれっ!」

ご主人様が苛立ちまぎれに振り下ろした拳で、

樹齢2000年のオーク材で作られたという歴史あるカウンターが真っ二つに割れました。

人間離れどころか、こんなこと、オーガだって出来ないと思いますが、

カウンターの先にいるおじさんは小揺るぎもしません。

「だから言ってるだろうがユースケ。

 報酬出す側も無限に金持ってるわけじゃねぇんだよ。

 今回の依頼元も大商人だが、元々依頼の数は一本だけだ。

 なんで周辺の古龍全滅させるんだよ・・・」

「本数の上限指定なんか書いてねぇじゃねえか!

 貴様らのミスだろ、むしろお前が金を出せ!

 この盆暗マスターが!!」

ご主人様の対応をしているおじさんは、

この町の冒険者ギルドのとりまとめをしてるジョン・ドゥーさん。

坊主頭に傷がいくつも走っている強面で、昔は有名な冒険者だったと聞いています。

腕はわたしの腰くらいあります。

この腕も古傷だらけですが、とても力が強いです。

酒樽を片手で運んでいるのを見たこともあります。

ご主人様ほどではないですが、普通の人間からはみ出した腕力の持ち主です。

ちなみに冒険者ギルド、別に人手不足でギルドマスターが対応しているわけではなく、

他の職員さんはご主人様が怖くて、カウンター奥の控え室でがたがた震えています。

ご主人様に絡んで両腕を切り落とされた人が出てから、

他の冒険者の人たちも来るという噂だけでみんな逃げ出してしまうため、

今日の冒険者ギルドはわたしとご主人様、そしてもう一人のご主人様しかいません。

一人目のご主人様はユースケ様。

昔、アインツ帝国で勇者業をされていたという剣士です。

先程オーク材のカウンターを素手で粉砕していましたが、

見た目は高身長で体つきも立派なものの、一般的な騎士様のような外見です。

見た目だけならジョンさんの方が腕力がありそうですね。

しかし見た目よりもはるかに腕力のあるユースケ様は、

かつて山の巨人と素手で殴り合いをして打ち勝ったことがあります。

勇者の武勇伝の一つとして、今も語り継がれているそうです。

通常、山の巨人は重武装した軍隊が戦いを挑んで、

勝てるか勝てないかというような怪物なのですが、

常識の埒外にあるのがユースケ様という人です。

剣技に関しても色々と逸話をお持ちですが、それはゆくゆくと言う事で。

二人目のご主人様はコーヤ様。

こちらはツヴァイ王国で同じく勇者業をされていたという魔法使いです。

ご主人様はお二人とも18とのことですが、

コーヤ様はルーイン大陸中の魔法という魔法を網羅し、

実在すら疑われる「外の国」の魔法も使えるのだとか。

生きた伝説、大賢者などといわれている方ですが、

実際に付き合ってみると色々と癖のある方です。

お二人のおられた国は訳あって双方とも崩壊してしまいました。

わたしは色々ありまして、お二人に二重に奴隷契約をされてしまっております。


ユースケ様とジョンさんが胸倉を掴み合いはじめてしまいました。

「さっさと払えよ!金をっ!!」

「ねぇっつってんだろ!買い取れるのは1本だけだ!

 そもそも古龍を何匹も殺すようなバカのことなんか、

 誰が想定するよ!!」

「くそっ!話にならねぇ!

 おいコーヤ!このクソ、こんなこと言ってやがるぞ?」

カウンターから少し離れた机で静かに蜂蜜酒を飲んでいたコーヤ様が応えました。

「だから言わんことか。

 こんな貧乏ギルドに何本も買い取るのは無理だ。

 どうせ白金貨どころか、金貨すらあまりないだろうよ。

 オレがきちんと捌いてやると言っているだろうが」

「ふざけんじゃねぇ!お前に任せると

 自分の取り分として過剰に取り分を確保するだろうが!」

「独自の販路を使っているのだ。7割は当然だ」

コーヤ様は守銭奴です。

馬鹿にしたりしているわけではなく、

ご本人から「オレは守銭奴であることを誇りとしている」

といわれていますので、そういう風に認識しています。

とにかくお金のことに関してはシビアな方です。

「・・・チッ!とりあえずジョン、一本”納品”な」

「うむ。確かに・・・で貴様が破壊したカウンターの代金だが」

「こんなチャチな木を使うからだろうが!

 大方経年劣化でガタがきてたんだろ!」

「んなわけあるか!

 貴様の馬鹿力でぶん殴らなきゃ壊れんわ!

 ・・・修理代は報酬から差っ引いとくからな」

「・・・クソが!ったよ、勝手にしやがれ」

ジョンさんが報酬の入った皮袋をわたしに差し出してきます。

「金貨5枚と銀貨60枚だ。

 ユースケに直接渡すとまたイチャモンつけるだろうから、

 嬢ちゃんが数えてくれや」

ジョンさんに言われてわたしが数えます。

金貨5枚に銀貨が・・・61枚あります。

「・・・ジョンさん、銀貨が一枚多いです」

返そうとするとジョンさんがニヤッと笑います。

気さくな良い人ですが、他の冒険者の人が熊に威嚇されているみたいだ、

と評していた迫力のある笑みです。

「それは嬢ちゃんの小遣いだ!

 どうせこの碌でなし共から小遣いなどもらえんだろう」

「・・・そんなことありませんよ?」

もう一度ジョンさんに銀貨を差し出して返そうとするわたし。

微笑みながら首を横に振るジョンさん。

「・・・受け取っておけティア」

コーヤ様が声をかけてきます。

「もてあますというのならオレが預かってやろう。

 まぁお前は毎回報酬の清算をオレに預け続けているから、

 現在金貨12枚と銀貨29枚、大銅貨5枚、預かっていることになる」

「・・・お前さん、こんな少女からそんなに金を巻き上げているのか・・・」

「それは誤解だ。

 オレは金の貸し借りには厳しい男。

 必要ならばオレに言えばいつでも引き出せるのだが、

 ティアが一度も要求してこないのだ」

わたしのお金と言ってはくれますが、

なんだかお小遣いをねだるみたいで言いにくいんですよね。

わたし、立場は奴隷なわけですし。

必要経費などは「自動引き落としだ」といって、

預けている?お金から使っていただいているようなので、

わたしとしては今のままで十分です。

ことお金に関しては、公平でお優しい方なのです。

わたしはジョンさんが受け取ってくれない銀貨を

コーヤ様に渡しました。

「ふむ。

 これは別口として一人頭金貨1枚と銀貨86枚だな。

 ティアの分はオレが預かろう。

 ユースケ、お前の取り分はこちらの皮袋に入れて渡そう」

「おう!

 じゃあお前らは先に宿に戻ってろ!

 オレ様は行くところがあるからな!!」

「・・・またか。

 あまり遅くなるなよ。

 明日は例の仕事で出かけるんだからな・・・」

「・・・あ」

わたしが声をかけようとする間もなく、

ユースケ様は走り去ってしまいました。

ユースケ様はお金が入るとすぐに女の人のいるお店に行ってしまうのです。

エッチなことをされたいわけではないのですが、

わたしがいるのにわざわざお金を払って女の人の所へ通うユースケ様を見ると、少し複雑です。

「・・・仕事?ウチからは何も依頼していないはずだが?」

ジョンさんが不思議そうな顔を向けます。

「・・・情報はただではないぞ?」

コーヤ様がジョンさんを睨みます。

「さっきの銀貨一枚分でかまわんだろう」

「・・・あれはティアの懐に入った形だが・・・

 まぁ許してやろう。

 ギルドの仕事とは別口でな。

 安心しろ、特に評判を落とすようなことをするつもりはない」


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