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第七章 静かにしろと言った結果


 ノアは、心の底から願っていた。


「……今日は、静かに過ごしたい」


 それだけだ。


 派手なことは望んでいない。

 魔獣もいらない。

 視線もいらない。

 できれば噂も消えてほしい。


 普通の一日。


 ただ、それだけ。


 ――その願いが発動したのは、朝だった。


 寮の廊下。


 いつもなら騒がしい時間帯。


「おはよー!」

「遅刻するぞー!」


 ……無音。


「……?」


 ノアが扉を開ける。


 誰もいない。


 いや、正確には――

 全員、壁際に張り付いていた。


「……なにしてるの?」


「しっ……!」


「音、立てるな……!」


「え?」


 ノアが一歩踏み出す。


 ――カラン。


 誰かの持っていた鍵が落ちた。


 次の瞬間。


 学院全体の鐘が一斉に鳴り止んだ。


「……え?」


 ノアは固まる。


 遠くで、誰かが叫んだ。


「止まったぞ!?」

「鐘楼が沈黙した!?」


 ノアは慌てて言った。


「ち、違う! 俺じゃない!」


 その声に反応するように――

 今度は、風が止んだ。


 完全な無風。


 旗が垂れ下がり、木の葉が宙で静止する。


「……世界、息止めてない?」


 一方、学院本部。


「報告! 鐘楼機構、原因不明で停止!」


「気流観測、全域ゼロ!」


「魔法反応――減衰、いや……沈黙!?」


 学院長は、頭を抱えた。


「……やはり来たか」


「何がです?」


「“静寂への過剰反応”だ」


 研究主任が叫ぶ。


「ノア・リーヴェンは今どこだ!?」


「寮から移動中です!」


「まずい……!」


 その頃ノア。


 静かすぎる廊下を、そろそろと歩く。


「……お願いだから、普通でいて」


 足音が響く。


 ――コツ。


 次の瞬間。


 床のきしみ音が消滅した。


「え、音、吸われた?」


 ノアは口を押さえる。


「……あ」


 声が、出ない。


「…………」


 無音。


 完全無音。


 ノアは必死に身振り手振り。


(やばい、やばいやばい!)


 通りすがりの生徒が、泣きそうな顔で頷く。


「わ、わかってます……刺激しないようにします……」


(違う! 刺激してないのにこうなってる!)


 食堂。


 本来なら一番うるさい場所。


 だが――


 全員、無言。


 スプーンが触れないよう、

 皿は布で包まれ、

 咀嚼は極限まで抑えられている。


 ノアが席につく。


 椅子が、音を立てない。


「……逆に怖いんだけど」


 口を開いた瞬間。


 厨房の火が、消えた。


「え?」


「え?」


「火、全部!?」


 料理人が絶叫(声は出ない)。


 ノアは、慌てて言った。


「も、もういい!

 ちょっとくらい騒いでも――」


 ――その瞬間。


 全音、復活。


「うおおおお!?」

「音が戻った!?」

「鍋がしゃべってる!?」


 爆音。


 鍋が落ち、皿が割れ、

 誰かが転び、

 誰かが泣いた。


 ノアは叫んだ。


「ちがう! 俺のせいじゃないって!」


 天井が、きしんだ。


「……ごめんなさい」


 即座に静まる。


 全員、床に伏せた。


「もうやだこの世界!!」


 緊急会議。


「結論を言う」


 学院長が言った。


「彼に“静かにしてほしい”と思わせるな」


「それだけで世界が黙る!」


「いや、黙りすぎる!」


「むしろ騒がせろ!」


「本人に!?」


「無理です!」


 その頃ノア。


 自室で布団を被っていた。


「俺が静かにしたいだけで、

 なんで世界が極端なの……」


 ぽつり。


「……少し、騒がしい方がいいのかな」


 外で、祭りの準備が始まった。


「え?」


 太鼓。


 音楽。


 花火。


「なんで!?」


 学院長の声が遠くから聞こえる。


「やれ! とにかく賑やかにしろ!

 彼が満足するまで!」


 ノアは天を仰いだ。


「俺、魔法使えないはずなのに……」


 世界は今日も、

 全力で勘違いしていた。


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