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第六章 本人だけが知らない真実


 ノアは、自分の部屋で頭を抱えていた。


「……俺、何した?」


 昨日からずっと同じ結論にたどり着く。


 何もしていない。


 魔法は使えない。

 剣も振れない。

 威圧感もない(自称)。


 なのに。


「廊下で生徒が道を空けるの、やめてほしいんだけど……」


 扉の外で、ざわざわと声がする。


「近づくなよ」

「視線を合わせるな」

「昨日、魔獣が逃げたらしいぞ」


 ノアはベッドに倒れ込んだ。


「俺、伝説の魔王かなにか?」


 違う。

 本人だけが、違う。


 その頃、別室。


 学院長、研究主任、警備長、外部顧問――

 全員、顔が真剣だった。


「再確認する」


 学院長が言う。


「ノア・リーヴェンの魔力量は?」


「測定不能です」


「ゼロ、では?」


「いいえ。

 存在しない、が正確です」


 空気が凍る。


 研究主任が続ける。


「魔力は通常、体内に“流れ”があります。

 彼には――流れそのものが観測されない」


「……欠損ではないのか?」


「違います。

 初めから、枠の外にいる」


 警備長が腕を組む。


「それで、魔獣が逃げる理由は?」


 研究主任は、黒板に円を書いた。


「仮説です」


 円の外に、点を一つ。


「世界は、一定の法則で回っています。

 魔獣も、人も、魔法も」


 その点を指す。


「彼は――

 計算式に入っていない数値」


 沈黙。


「……つまり?」


「近づくと、

 未来予測が崩れる」


 全員が、息を飲んだ。


 一方その頃。


 ノアは、食堂で昼食を取っていた。


「今日のスープ、薄くない?」


 スプーンを傾ける。


 隣の生徒が、青ざめた顔で立ち上がった。


「……薄い……?」


 次の瞬間。


 厨房から、悲鳴。


「うわあああ! 塩、全部落ちた!」


 食堂が騒然。


 ノアはスプーンを持ったまま固まった。


「……え?」


 周囲の生徒が、一斉に距離を取る。


「言ったぞ」

「まただ」

「日常干渉型……!」


「ちがう! 俺、文句言っただけ!」


 誰も聞いていない。


 午後の講義。


 座学「世界法則論」。


 講師が黒板に書く。


「この世界は、因果律に従って――」


 チョークが、折れた。


「……失礼」


 持ち替える。


 また折れる。


 三本目。


 粉々。


 講師は、ノアを見た。


「……君、何か考えたか?」


「え?

 板書、長いなって……」


 講師は、静かにチョークを置いた。


「休憩にしよう」


 ノアは机に突っ伏した。


(俺のせいじゃないよね……?)


 夜。


 研究棟地下。


 立ち入り禁止区域。


 結界の奥で、古い装置が起動していた。


「再測定、開始」


 水晶に、波紋が広がる。


 数値――表示されない。


「……やはり」


 学院長は、低く言った。


「彼は“空白”だ」


「世界が埋めようとしている?」


「あるいは――

 書き換えられない余白」


 警備長が尋ねる。


「危険か?」


 学院長は、首を横に振った。


「本人に、その気はない」


 一拍。


「だからこそ、危険だ」


 同じ頃。


 ノアは、寮の自室でくしゃみをした。


「へくし」


 窓の外で、雷が落ちた。


「……季節外れだな」


 ベッドに潜り込む。


「俺、明日は静かな一日がいいなあ」


 その言葉は、

 世界にとって一番やっかいな願いだった。


 闇の奥で、

 何かが――目を覚ます。


 本人だけが、

 何も知らないまま。


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