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私、魅了魔法なんて使ってません! なのに冷徹魔道士様の視線が熱すぎるんですけど  作者: 紗幸


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49/49

49 魅了されているのは


 彼の腕が背中にまわり、逃げようとする気配すら許してくれない。その温もりが背中にじわりと伝わる。



「ユイ、もう一度聞かせてくれないか」

「……え?」

「大聖堂でユイが言った言葉。今、しっかりと聞きたい」


 低い声が耳に届き、息が詰まった。胸の奥で心臓が暴れはじめる。

 大聖堂で言った言葉。それは、たったひとつしかない。


──『カイルさんのことが大好きです』


 その記憶が鮮明に蘇り、顔だけでなく耳の裏まで熱を帯びる。しかも今、私は彼の膝の上。至近距離で見つめられ、あの告白を繰り返すなんて無理だ。


 言葉を探す私を見て、カイルさんは静かに息を吐いた。その深さが胸にしみる。


「……俺はずっと何も言わず、自分がどう行動すべきか、ユイを守る事だけを考えていた。情けない話だが、何も伝えられない事で、どんな気持ちになるのかがやっと分かった」


 瞳には後悔と切なさが同時に映っている。苦さが滲む痛々しい声。


「——もう二度と、ユイにあんな思いはさせない」


 その誓いは静かで決意に満ちていて、胸の奥まで届いた。私はそっと息を吸い、心の奥に渦巻く気持ちを、少しずつ言葉にしていく。


「……私は、カイルさんが全部を抱え込んでしまうのを見るのが辛いです。頼ってくれたら、嬉しいんです。私にもできることがあるなら手伝いたいんです」


 言葉にするたび、胸の奥の重みが少しだけ軽くなる。


「一緒にいたいって思ってほしくて……私だって、カイルさんの力になりたい。少しでも、側で支えたいんです」


 言い切った瞬間、カイルさんの瞳が大きく揺れ、柔からな光が宿った。


 そして、伝えたい気持ちはもうひとつだけ残っている。彼の瞳を見つめ、真っ直ぐに告げる。


「私は……カイルさんのことが大好きです」


 その瞬間、彼の表情が淡くほどけた。氷が解けるように頬の緊張がゆるみ、目尻が柔らかく落ちる。彼の顔は、今まで見たことがないほど温かく甘かった。


「……ユイ」


 名を呼ぶ声が、胸の奥を直接くすぐる。


 そして——彼の手がそっと私の頬に触れる。指先が触れただけで、全身にじんわりと熱が広がっていく。


 次の瞬間、優しく唇が触れた。


 最初は触れるだけの、短い優しいキスだった。心に小さな火が灯るようで、胸の奥がじわりと熱くなる。

 彼の手がそっと腰に回る。暖かさが伝わり、身体の芯がゆっくりと溶けていくようだった。


 彼の唇が触れるたびに心臓が跳ね、呼吸が浅くなる。世界のすべてが霞み、彼の体温と息だけが鮮明に感じられた。

 唇が離れることをためらうように、ゆっくりと何度も想いを伝えるような感覚が、胸を満たしていく。


 どれほど時間が経ったのか分からない。唇を離すと、彼は熱を帯びた視線で私を見つめていた。


「……ユイ。俺も君が好きだ。ずっと、俺の手で守っていきたい。これからもずっと側にいてほしい」


 その言葉は、胸の奥に深く染み込んだ。

 嬉しさが一気にこみ上げてくるのに——同じくらい恥ずかしくて、彼をまっすぐ見られない。熱くなった頬を隠すように、視線を落とした。


「ユイ……」


 名前を呼ぶ声は、驚くほど優しく心を震わせた。彼は私の手をそっと取ると、まるで壊れものを扱うように指を絡める。その扱いがあまりに丁寧で、胸の奥がくすぐったい。


 そして、ゆっくりと唇を寄せてきた。


 手の甲に。額に。頬に。


 一つひとつ確かめるように、温度のある口づけが落ちる。唇が触れるたびに身体が淡い熱に包まれた。


「……どうして、そんなに……私に甘いんですか……」


 気づけばそんな言葉が漏れていた。


 カイルさんはふっと笑った。肩が揺れるほど嬉しそうな笑み。


「それはユイが、俺に魅了魔法を使ったからだろう?」

「えっ……」


 驚いて顔を上げると、彼は少年のようにいたずらっぽく微笑んでいた。思わずむっとしてしてしまう私を、楽しそうに見下ろす。


「また、そんなこと言って……」


 拗ねる私を見て、彼は嬉しそうに目を細める。


「ああ、間違いない。これは世界で一番甘い魅了だ。この魔法が解ける日は……永遠に来ない」


 囁くような声。次の瞬間、彼は再び唇を重ねてきた。


 今度はゆっくりと、深く。身体の奥まで染み込むような熱を帯びていた。

 その熱に呼吸が追いつかず、心臓の鼓動が耳の奥まで響く。彼の指先が背中をなぞるたび小さく震えた。


 唇が離れ、室内には二人の呼吸だけが満ちている。

 彼の腕に包まれていることが、こんなにも安心できるなんて思わなかった。


 耳元でカイルさんが囁く。


「ユイの事が大好きだ」


 その声が静かに胸に届く。

 思わず体が震えるのを感じながら、満面の笑みで答えた。


 温室の花々が静かに揺れ、耳元の赤い花の香りが柔らかく漂う。

 その二人だけの世界は、穏やかに私たちを包み込んだ。




——もし本当に魅了魔法があるなら、かけられているのは私の方だ。


 彼に惹きつけられ、離れられなくなっている。




 だけど、この魔法が解ける日は、きっと永遠に来ないだろう。






赤いラナンキュラスの花言葉

『あなたは魅力に満ちている』



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