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家政婦として、料理を作りに来るようになってから、
2週間が経った。
最初は難癖つけられないかと心配したが、
リクエストがないというのは本心だったらしく、
作った物をなんでも美味しいと言って食べてくれる。
少しつづ話もするようになって、
「あそこの料理は薄味すぎて、
味があんまり好きでなかった」とか
「田楽が結構好き」とか、
少しづつ、自覚するという程でもない好みを聞いて、
料理に生かすようにしている。
だんだん分かってきたのは、和・洋・中が好きで、
エスニック系はあまり好きではない。
味付けはしっかりしているのが好き。
好きな料理をずっと食べるよりは、
いろんな料理を食べたいタイプという事だ。
そんな風に料理を作っていると、いきなり声をかけられた。
「契約の件だけど」
「はい、何か問題でも?」
「契約は辞めようと思う」
私は驚いて目を見開く。
心臓がどきどき言う。
今まで美味しいと言って食べてくれていたはずだ、
文句を言われた事はなかったのに・・・
心がズンと重くなり、自分の評価が下がる以上に、
ショックを受けている事に気づく。
「そうですか・・・申し訳ありません」
深々を頭を下げて謝った。
すると、頭上から慌てた声が聞こえる。
「ああ、ややこしくてごめん!
今週3日来てもらっているが、
その契約を辞めて、毎日にしようと思うんだ」
「毎日ですか?」
「あ、休みはあるから週5だな」
その言葉を聞いて、自然に涙が頬を伝った。
「すみません」
泣いてしまうなんて!
恥ずかしいと思いながらも、嬉しさがこみ上げる、
今までお金の事だけだった、
確かにこれでお給料は上がるだろう、
しかし、それ以上の嬉しさがこみ上げてくる。
そんな私をしばらくみていた鷹村さんがぽつりと言った。
「なんか凄いよな・・・」
「え?」
「才能が認められなければ、仕事ができない世界、
そこで活躍している、間違いなくプロなんだなってな」
本心からの敬意を感じる言葉に、
また泣いてしまいそうになるのを、
ぐっと我慢して、笑顔を返した。