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9.夜のような男

あれはきっとスホの声だったのでしょう。


盗賊に取り囲まれた。と言っていました。



取り囲まれる、という事は相当な人数のハズ。

背が高いとは言え、細身で華奢な印象のあるジルがたった1人で、なんとか

できるものなのだろうか?


静かだった暗闇から、何かがぶつかる音や、うめき声が聞こえてきました。



恐る恐る薄布を押しのけ、そっと外を覗きました。


が、何も見えません。外は真っ暗闇です。


よーーく目を凝らすと、ジルの白銀の美しい髪が、チラチラと見えました。

が、敵は闇に溶け込んでいるように全く見えません。

勿論、人数もわかりませんでした。


『姫、危ないから顔を出すのは止めて』


また頭に直接響く声がしましたが、ジルはたった1人で盗賊達の中に飛び込んだのです。

心配で、1人で居心地の良い車内で待つなど出来ませんでした。


ずっと外を窺っていると、段々闇に目が慣れてきました。


万里子が確認できるだけでも、敵は10人以上いるようでした。


既に数人地面に倒れていましたが、光るモノが盗賊達の手元に見えるところを

見ると、武器を手にしているのは間違いありません。


大丈夫なのかな。


「あの、ジルさん、大丈夫でしょうか?」


思わずスホに問いかけておりました。


『・・わかりません。こんなに大人数の盗賊はあまりありませんので・・』


そんな!


また少し先で、ジルさんの髪がサラリと揺れるのが見えた。


だが。

あたしにさえ見えたという事は、敵にはもっとよくジルさんの位置が見えているに

違いない。

彼は目の前の敵に向かって何やら術をかけているらしく、目の前の3人は立ったまま

動かなくなってしまった。

だがその背後より・・・大熊でも倒せそうな大きな大きな刃物を、ジルに向け振り下ろす男が・・!


万里子は、心臓がぎゅうっと縮まるような感じがしました。


「危ない!後ろ!!!」


思わず、叫ぶと、『いけない!』頭の中にスホの声が響きました。


馬車の近くに居た盗賊が叫びます。


「中に女がいるぞ!!」


そして馬車に乗り込もうとしました。


コワイーーーーー!!!


その時、


盗賊と馬車の間に1人の長身の影が入り込みました。


万里子はあまりの怖さに、窓際近くに座り込んで盗賊が入ろうとしていた馬車の入り口を

睨みつけていましたが、恐れていた盗賊は、馬車には入ってきませんでした。


代わりに入ってきたのは・・・黒の長髪を無造作に束ね、黒っぽい服装をした夜に溶け込むような風貌の逞しい青年でした。


「大丈夫か?」


「は、はい」


車内に入ってきた青年を、灯されているランプでよくよく見ると、

黒だと思っていたその髪も服も、深い深い藍色をしていました。

顔の半分が、髪で隠れてはいましたが、切れ長の目も濃い藍色をしており、

その目を気遣わしげに、万里子に「怪我は、無いか?」と問いました。


「だ、大丈夫です。あ!でも外にジルさんが・・!」


「私は、大丈夫ですよ」


少し髪を乱したジルが戻ってきました。


「あの!この方が助けてくださったんです」


ジルの目が助けてくれた青年を睨んでいるように見えた為、敵ではない。という事を

伝えなければ。万里子はそう思ったのですが・・・


「・・そのようですね。ここは礼を言っておきましょうか、イディ。」


「礼を言ってるようには聞こえませんがね。まさか何の挨拶もなしに、都と離れるとは

思いませんでしたよ。

何か、急ぐ理由があったんでしょうかね?」


あれ。2人は知り合いだったのか・・。

にしては、交わされる会話のなんとトゲトゲしい・・・。


万里子は眉を寄せたまま、2人と交互に見比べておりました。


ぐーーーーーーー


緊迫した雰囲気でしたが、こればっかりはどうにも我慢できません。

万里子は、1日何も食べていなかった為、空腹もピークだったのです。


「す、すみません・・おなかが空きました・・」


2人が剣呑とした雰囲気を消し、顔を見合わせました。


「全く・・・食事を与える時間さえ、惜しかったのですか?」


「都は久しぶりだから、良い店を知らないだけだ」


「では俺がお連れしましょう。どうだい?えーと・・君、名前は?」


「万里・・・あっと、マールです」


「よし、マール。美味い店を紹介してやる」


近づいてきて、小さい子にするように万里子のクセのある黒髪をくしゃくしゃと

大きくてゴツゴツした手で頭をなでました。


「いらん。お前がすぐに降りてさえくれれば、すぐに屋敷に・・」


ぐーーーーーーーーーーーーーーー


「す、すみません・・」


万里子のおなかは正直なもので、イディの言う『美味い店』にしっかり反応したようでした。


「よし、行こう。・・・その格好じゃマズイな。待ってろ、用意する。

スホを動かさないでくださいよ?」

最初の方は万里子に、最後の方はジルに向かってそう言うと、馬車を降りていきました。


「すみません。今日何も食べていなくって・・」


「いや。私こそ、気が回らなくて申し訳ありません。」


申し訳無さそうに微笑むと、そっとクシャクシャになった万里子の髪を細く美しい

指で梳き、整えてくれました。


「ただ・・・会わせたくなかったんですよ」


ジルが万里子のこめかみの髪を整えていて両耳を軽く塞ぐ形になっておりましたので、

万里子にその小さなつぶやきは聞こえませんでした。


「衣を用意しましたよ」


イディが何やら包みを持って戻って来ました。


その包みの中には、鮮やかな赤い衣・・・


毒々しい赤では無く、少し色目の明るい朱色のような赤。


着た事が無い色だ。造形が地味な自分になど、似合うはずが無い。


それなのにイディは自信たっぷりに「絶対似合う」と言いました。


「まるで、マールの為にあつらえたような色だ。・・・ジル殿、あなたもそう思うでしょう?」


ジルがその問いに答える事はありませんでした。

その事を万里子は、「似合わないと思ったから気を使って答えなかったのだ」と

思いましたが、

ジルもイディも、答えは必要ない事を分かっておりました。




ん?2人目登場?

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