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5.忘れていた痛み

空には、大きな赤い太陽のような星が。

万里子とジルの頭上高くから、2人に強い日差しを浴びせておりました。


先ほどまでの冷気はどこへやら。

万里子は、背中が汗ばむのを感じました。

でもそれは、この暑さの中、未だ抱きかかえられジルに体を密着させていたからではなく、

たった今、ジルから発せられた言葉による、冷や汗だったのかもしれません。



こんなに暑く天気も良いのに、鳥や虫の声は一切無く、恐ろしいまでの静けさが、

2人を包みました。



「本物は、あなたですね?」

もう一度、ジルが問いかけました。

しかしそれは、問いかける口調ではありましたが、ジルは既に答えを知っているようでした。



答えが分からないのは、万里子の方です。

落ち着いているように見えましたが、すっかり混乱しておりました。



ワカラナイ。

自分は、日本で静かに、平凡に生きてきた。

自分が何か特別な存在だなんて、そんな事は今まで一度だって無かった。

超進学校の中等部1年より高等部までの生徒会長を務め、学力テストも

全国のトップ5に入り、既にいくつもの資格を持つ兄。

同じ中学から美少女コンテスト荒らしと呼ばれ、街に出ればいつもスカウトされる妹。

そんな2人の間で、あたしが唯一もらった賞は健康優良児の賞だけだ。

あたしは、どんなストーリーの主人公にも成り得ない。単なる脇役でしかない。

この世に生を受けてたった17年だけれども、そう、答えを導き出すのに

17年という歳月は充分だった。

そしてそれに気付いた時、私はとても楽になれたのだ。

それが突然、異世界の姫だなんて・・・そんな事、あり得ない。そんな事・・・


ずっと厳しい表情で空を見つめる万里子を、ジルは答えを求める事もせずに、じっと見つめておりました。



「わ、私は・・」



万里子が小さく話し出した、その時でございました。



「姫!」

「さすがでございます!ヤンテが・・ヤンテが戻って参ったぞ!」

「ありがたいことだ!なんと素晴らしい!」

「さぁ、早く宮殿へ!」



万里子達が出てきた神殿の裏口の反対側から、人々の歓声が聞こえてきました。



「あぁ・・あちらも神殿から出たようですね。」



どうやら、神殿の正門前で人々が姫が出てくるのを勝ち構えていたようで、

マリコはその人々に盛大に出迎えられているようでした。



大きな神殿の反対側にいても、その歓迎ぶりが伝わってきて、その人々の歓喜の

声が、万里子の耳に冷たく響きました。



「違います。私は・・姫じゃない。彼女が姫だもの。私じゃない。

私は・・・求められていないもの・・・!」



それは、忘れていたはずの万里子の心の悲鳴でした。



「では・・・私のモノに、なりますか?」



ジルが、万里子を抱き上げたまま、万里子の顔をそっと自分の胸に押し付けました。

その為万里子は、そう言ったジルの表情が見えなかったのでございます。


ジルは白いのか、黒いのか・・・?

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