47.帰ろう
誤字脱字見つけたので、修正しました!内容は変わってませんー。8/25AM1:30
万里子の体調はほぼ元通りに回復し、時間を持て余しておりました。
「シアナさんはお仕事もあるし、ジルさんは夜遅くに疲れた顔で立ち寄る位だしなぁ……」
「別にいいでしょ。僕がいるんだし」
当然のように隣に腰掛けているネストラードが、万里子を上目遣いで見て口を尖らせました。
そのようにされると万里子は困ってしまうのですが、同時にそんなネストラードが可愛らしくも感じ、ついつい甘くなってしまうのです。
「そうだね、ありがと」
へにゃ、と笑み崩れると、ネストラードは安心したかのように万里子の肩に頭をもたせかけました。
突然できた年下の友達は、時折万里子に甘えたようなしぐさを見せます。
ネストラードは万里子よりも少し背が高いのですが、ぱっちりとした大きな目と、まだ線の細い体つきで男性というよりは少年ぽさが目立ち、甘えられると守りたくなるようなそんな気持ちになるのでした。
ふわふわの柔らかな明るい山吹色の髪が首筋をくすぐり、その軽やかな感触に思わず万里子の手が伸びます。
(ふわふわだー。気持ちいい…)
「…僕、頭を撫でられるの初めてだよ」
「えっ?嫌だった?」
手を止め、ネストラードの顔を覗き込むと、万里子の視線を避けるようにネストラードは俯いてしまいました。
「ううん…もっと、して欲しい。マールの手は優しいね」
少しくぐもった声が聞こえると、万里子は先程よりもゆっくり、ゆっくりと手を動かしました。
それは自分と同じ心の傷を抱えるネストラードを労わるようでもありました。
「……お前達は一体何してるんだ…」
「あれ。イディさん」
「兄上!」
「え」
飛び起きるように扉に身体を向けたネストラードの言葉に万里子は驚きました。
「兄弟なの!?」
「そうだよ。知らなかったの?僕は第三王子なの」
「…て事は…」
「クラムルードとネストラードとは腹違いなんだ。俺の母上は…幼い頃戦争で亡くなったんだ。その後に陛下はスイル人の姫君を妃として迎えられた。最近会ったネストラードはともかく、クラムと俺が兄弟だってのは知ってると思ってたが…」
「…そういえば、兄上がどーのとか言葉では聞いた事があるような気がしますが…それがイディさんだとは思いませんでした。え、じゃあ、イディさんは第一王子で、いずれ王様になるって事ですか?」
「いや……」
イディが少し苦しそうな表情を見せ言いよどんだ事で、万里子は聞いてはいけない事だったのだと気付き、小さな声で謝りました。
「いいんだ、マール。俺は継承権を放棄して、今は弟の側近だ。俺が王になる事はない。却ってアイツには苦労をかけてると思う。全ての責任を負わせてしまったからな」
「でもなんか…いつもふんぞり返って偉そうにしてるのしか見ませんけど……」
サイナの森での出来事を思い出し、万里子は思わず反論してしまいました。
「悪いな、まぁそんな色々な事情でちょーっと甘やかしたとこはあるけどな。あいつは素の自分を見せられる相手があまりいないんだ。マールにはいきなり悪印象だったと思うけど…」
「…クラムルード兄上は素晴らしい方だよ。大きな責任を背負ってていつも沢山の大人達に囲まれて忙しくしてる。あまり会えないけど…他の大人達と違って僕の事を見て見ないふりなんてしないんだ」
「おい。俺もそんな事しないだろう?」
イディは苦笑すると大きな手をポンとネストラードの頭に乗せるとわしゃわしゃと乱暴にかき混ぜました。
「いっ、痛いよっ!…イディ兄上はっ僕の教育係でもあったからちょっと……コワイけど…」
「ふぅん?俺がお前の小さな頃、教育係だったの覚えてるんだ?なら、今お前は宮殿のお前の部屋で勉強してるはずだってのも、覚えてるか?」
イディは手をぴたりと止めると、一気に指先に力を入れました。
「いー!!!痛いっ!痛いぃーーー!お、覚えてるよ…ちょっと、ちょーっとだけ休憩で…兄上っ!ごめんなさい!痛いーー!!」
「へぇー?すぐに戻るなら俺の胸に留めておくけど?」
「戻る!戻ります!だから離してぇー!」
飛び上がって抵抗するも、その身長差では上からかけられる圧力は弱まらず、抵抗する分締め付けられる力は強くなり、ネストラードの目にはうっすらと涙が浮かびました。
「へぇー?すぐ戻るか。よーし、じゃあ誰にも言わないでおこう。でも今日だけか?」
「ごごごごめんなさい!もう二度とサボりませんーーー!」
そのまま誘導されて扉に向かうと、イディは空いた片手で扉を開けてネストラードをぽいっと外に放り出しました。
その様子を口をあんぐり開けて見守っていた万里子は、これじゃ怖がられても仕方ないや……と思いました。
「悪いなマール。あんなとこ見せて…。式典後の事はジル殿から聞いてるよ。ネストラードが助けになって良かった。お前の体調の変化まで考えにいれるべきだったよ…ごめんな?」
「ううん。大丈夫です。私がここに来た意味が段々分かってきてなんていうか…少し前向きになれました。それに…友達も出来たし」
「友達?」
「ネストです」
そう嬉しそうに話す万里子の笑顔を見て、イディは子供だと思っていた末の弟に嫉妬に似た感情を抱きました。
「せっかく友達が出来たところ悪いが、そろそろ帰り支度をしないとな」
「そうですよね。私、もう体調は殆ど元通りになってます。他の国の人達はもう皆さん帰国したんじゃないですか?」
「スイルとガルディスの王族の一部はまだ宮殿に残っている。無駄だと思うが、それぞれがマリーに会おうとあの手この手を使っててな。あとは神殿建設の為に早々に帰路についた。イルーの一行はまだ宮殿と城下町にそれぞれ滞在している」
「そうなんですか?イルーの人達はどうして…」
「スイルとガルディスは陸続きだからすぐに帰れるが、イルーは島国だからな。イルー人は天候や風などを見て海が穏やかになる日時に海を渡るんだ。今はまだ海を渡る時期では無いらしい」
「グリューネさんは…」
「…うん、スイル人やガルディス人のご婦人達に囲まれてたけど、その数もだいぶ減ったしな落ち着いたみたいだが…グリューネ殿と一緒に来た従者も侍女もまだ残っているよ」
「良かったぁ。私だけがこんなに長居してるのかと思って心配してたんです」
「そこは遠慮しないでくれ。俺たちの配慮が甘かったんだ。体調が戻ってほんと、良かったよホント」
イディは今目の前で屈託の無い笑顔を見せている万里子を、いとおしく思いました。
夜会の後になって、式典で万里子が倒れたと聞き自分達の浅はかさを責めました。
翌日には目が覚めたと聞きホッとしたものの、多忙でなかなか部屋を訪れる事が出来なかったのです。
「ほんと、良かった」
万里子を確認するように優しく万里子の頭を撫でました。
「あの、私の頭は鷲掴みしないでくださいね……」
すみません。中途半端なところで切れちゃいました。




