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31.笑顔の仮面 sideルヴェル

ルヴェル視点でのお話なので、一人称になってます。


追記:8/10気になってた部分加筆しました~。

「悪いね」


ここだ。


女の目をじっと見つめゆっくりそのまま瞬きをする。そして、にっこりと笑う。


「いいえ!何でもない事ですわ。ルヴェル様のお仕事に必要な物ですもの」


女は顔を上気させ、見上げてくる。こんなに小柄な女だったか…?名は……

あぁ、思い出せない。




手に入れたのは、ヤンテの姫お披露目式典の席表。



容易い事だ。手に入れる為の相手を見極め、親しげに近づき、ワザと人前で特別に

扱い、機会を見計らって2人きりになり効果的なタイミングで微笑む。


小さく折りたたまれた紙を、マントの内側のポケットに仕舞いこむ。


「もう、行ってしまいますの?」


その様子を見て、名も思い出せない女が拗ねたように尋ねてきた。

今度はすまなそうに微笑むと、女は「いいんですの…お忙しいのですものね。今宵はわたくし

為だけに来てくださったのですもの。それだけで充分ですわ」


自分に言い聞かせるように言いながら引き下がった。


笑顔は、武器でもあれば盾でもある。


いつからだったか……こんな、生き方をするようになったのは…。




-----------------------------------------------------



あれは17年前……私は11歳になったばかりだった。

その頃は、まだ計算などなく、無邪気に笑っていたような気がする。


サイナの長でもある厳しい父と、明るく強かった母、そして2人の弟と1人の妹と…

騒がしくもとても楽しく、気楽に暮らしていた。

父の教育は厳しかったが、楽しかった。思えば、それは子供に対してのものだったのだろう。

突然1人になったあの日、『生きるすべ』を、私は何も知らなかったのだから…。


あの日、ヤンテが突然姿を消した。

ジルの祖父であり、当時のナハクの長でもあったスルグ殿がずっと警告しており、

彼の熱意に押されて亡き祖父が共同で温室を開発したが、まさかその警告が現実のものに

なるとは思わなかった。


突然暗闇になった時、私は1人だった……。

両親は仕事で王都に出向いており、日帰りできる用事ではない為、数人の召使と

幼い弟達を連れて行っていた。

予定では、この日に帰る予定だった。だが…帰っては来なかった。

盗賊に襲われたのだ。突然の暗闇……街という街は混乱し、王都でさえも殺人や

強盗、人攫いなど、考えつく限りの事件が起こった。

夜目の利くムバクや、盗賊達以外は右往左往するばかりで、あっという間に事件に

巻き込まれ命を落とした。…父や母、幼い弟達もそんな事件に巻き込まれたのだ。


たった1人残された家族は、宮殿で働く祖母グリューネだったが、外の混乱から

王族を、そして大貴族を守るべく、宮殿の領地の門は固く閉ざされ、祖母がサイナの街に帰る事は叶わなかった。

私は……生きる事に必死だった。スルグ殿はサイナの血を引き、親戚関係にあたる為、

私を引き取ろうとしてくれたが、この地を離れるつもりはなかった。

だが、サイナの街もどんどん荒れていった。サイナの一族にとって命とも言える

木が…花が、果実が…緑が、どんどん無くなっていく。

サイナは職人が多く住む商人の街だ。

残された数少ない植物を使って暗闇の中かろうじて仕事は出来ても、買ってくれる者がいなかった。

それは、サイナの一族の危機でもあった。

そんな時、新しく一族の長となった男が目をつけたのが、私の容姿だった。

ある日、衣の注文を取って来いと、外国人商人の滞在する宿に行くように生地を

突きつけられた。

「今や滞在してる商人も数が少ねぇ。失敗すんじゃねぇぞ。俺たちの生活はなぁ、

お前にかかってんだ」

認められたのだと思った。サイナの街を、一族を守っていく為に、自分を、必要と

してくれたのだと。


行った先の宿で、隣国の女商人に気に入られ、無事注文が取れ喜び勇んで帰ってきた

私を待っていたのは、非情な言葉だった。

建物に入ろうとした時、名も覚えていないあの男の声が聞こえた。


「ルヴェルのつらは使える。最悪アイツを売っちまえばいい。アイツなら

高く売れるだろう。おい、闇商人が今、宿に居るってのは間違いないんだな?」


体の中を流れる血が、全て止まって凍ってしまったかと思った。


全身が、すぅっと冷たくなった。


仕事を任されたのではない。見せに行ったのは衣を作る生地じゃない…。商品は…自分、だったのだ……。


それからは何でもした。身を守る為、スルグ殿の下に通い修行をし、味方を得る為に

女の誘いにのる事もあった。

失う物はもう無かった。どんな手を使ってでも、早く…早く、大人になりたかったのだ。


あの時から、長は1年と持たずに次々と代わった。

ヤンテが消えたどさくさに乗じて長になったような人間に、勤まるような職務では

ないのだ。

今度は政権争いが始まった。私はそれを尻目に、実力をつけていった。

古くからの伝統の技を持つ職人一家には頻繁に出向き、それぞれの技の教えを請い

職人からの信頼も得ていった。

一族をしっかりとまとめていた長を長年務めていた父の跡を継ぐのは自分だと

心に決めていたのだ。


それから数年……あいつらがやっと、長の座を争っているだけでは一族は滅亡する、と

気付いた時には……まともな人間は全て私についていた。

すぐに奴らを追放し、暗闇でも出来る事業を始めるべく、私が長になった。


祖母が宮殿の仕事を辞してサイナの街に戻ってくる頃には、安全に戻って来れるよう

乗り物や夜目の利く薬などを開発。ナハクの光玉を地に埋める事で緑を絶やす事も無く、

サイナの街はヤンテが消える前より栄えていた。


この街を、自分を見て、祖母は褒めてくれると思った。自慢に思ってくれると。

なのに……


「ルヴェル…変わったわね。以前は、もっと無邪気に笑っていたのに…」


戻ってきた祖母は、私の顔を見る度に寂しそうに言った。


「そうですか?むしろ、皆さんには笑顔が良いと好評ですけれど?」


昔のようにはなれない…もう、純粋な気持ちで人に向き合うなど諦めていた。



--------------------------------------------------------



ジルが心を奪われ、攫ってきた少女。

彼女の黒い瞳は、闇のように深い黒なのに、むしろ陽だまりを思わせる暖かさがあった。


私のとっておきの笑顔よりも、手土産の菓子に顔を輝かせる少女は、私が幼くして

失った物を持っていた。

いつまで?いつまで君は純粋でいられるのだろう?ある日、ふと思いついた。


「サイナの街においで?」


さぁ、遊戯の始まりだ。



サイナに来てもジルのように世話はできないよ。冷たく言っても彼女はむしろ

ほっとしたように微笑んだ。


花形の職業には難色を見せ、森の奥深くで祖母の手伝いを始めた。


どこまで…どこまで、純粋でいられる?


私自身、生きる為に簡単に捨てた純粋さを、たった1人の君がどうして持っていられる?



試したい。本当に信じられるのか。

恐ろしい。いずれ自分と同じ道を辿る気がして。

もどかしい。我々にとって当然の事に、戸惑っている君が。

苛々する。どこかで、希望を持ってしまっている自分に。


試したい気持ちも真実。


だが、沢山の可能性を持つ君を羽ばたかせたいと思う気持ちも真実。



可笑しい話だ。それは矛盾してるのに……。






「ルヴェル、最近変わったわ。昔のあなたの笑顔が時々戻るもの」


嬉しそうに祖母が言う。


まさか。あの時のように幸せそうな笑顔を今の私が出来るはずが無いのに…。


「マールのおかげかしらね?」


祖母は意味ありげな笑みを零し、なおも言葉を続けた。


マールの?


ふと、祖母の作業部屋から外を見る。そこには、自らが作った地味な衣を着て

泉のそばに佇むマールが居た。


その姿を視界に入れるだけで、相反する感情が体の中を渦巻く。



この手を取ったのは君。

でも……囚われたのは、もしかしたら、私なのかもしれない…。







あれ?ルヴェルどす黒い!?

紳士のルヴェルに好感持ってた方々すみません…。

実は一番の曲者かも(汗)

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