3.お持ち帰り宣言
帰れない・・・・
その事を実感すると、床の石の感触が突然冷たく感じられ、ぶるり。と大きく震えました。
寒い・・・。ここは、今冬?
日本は今、秋でしたので、万里子は半袖のブラックのセーターとこれまた
ブラックの膝丈のギャザースカートを穿いていました。
まさに、『THE・地味』といったところでございます。
そして足は素足でしたし、キッチンに居たものですから靴も履いておらず。
石の冷たさに震え上がるのも仕方のない事でした。
寒い・・・。
思わず、両腕をさすります。
すると、手にお玉を持っている事に気付きました。
つ、使えねぇ~~~!
がっかりです。チラリとマリコを見ると、言葉が通じるようになった為、散々我侭を言っているようでした。
「寒いんだけど!」
すぐさま、見るからに新しいローブが用意されました。
胸が大きく開き、くびれ強調のヘソ出しTシャツにミニスカートでは日本に
居たとしても寒かったと思うけど・・・。
またもや心でツッコミを入れます。
ただ、外出中に召還されたらしいマリコは、こちらも露出度は高いですがそれでもミュールを履き、
大きなバッグを持っていたので万里子はとても羨ましく思いました。
「さぁ、お荷物を持ちましょう」
「宮殿に参りましょう」
「王もあなたをお待ちです」
相変わらず、マリコに対するちやほやは続きます。
ひとり放置されておりました万里子でしたが、寒さには勝てません。
くしゅん!
あまりの寒さに、くしゃみをしてしまいました。
石で出来た建物に、それはわんわんと響き渡ります。
それをきっかけに、再び万里子に全員の視線が注がれます。
そして、「あぁ・・・こいつも居たんだった」と、一様に面倒くさそうな表情になります。
召還されたのは2人居るにも関わらず、自分だけがちやほやされているこの現実に
すっかり有頂天のマリコは、すっかり上から目線。未だ石の床に座り込んでいる
万里子を鼻で笑いました。
マリコは、自分こそが姫として呼ばれ、万里子はあくまでもついで。その話を
信じてしまったようです。
「サク様、この娘はどうされるおつもりです?」
「この国の常識も無ければ、働く事もできますまい」
「では、貴殿の館で下働きとして受け入れたらどうだ?」
「どこぞの者とも分からぬ娘を受け入れるなど!!」
寒さが増した気がします。
ものっすごい厄介者扱いされてる・・・。
頼みの綱だった、サク様、と呼ばれる老人も困ったように眉間にシワを寄せました。
「あ!じゃあアタシのメイドにしてくんない!?」
マリコがその、ちょっと耳障りな高い声で男たちの会話を止めました。
「めいど?」
「はて・・姫、その『めいど』とは何でございましょう?」
「アタシ専用の、う~~ん、何つーの?下僕?」
あの。それって男に対して使う言葉なんだけど!
酷い言われようにも関わらず、相変わらずの鋭いツッコミを見せる万里子では
ございましたが、本当に専用召使にされてはたまりません。
内心かなり焦っておりました。
すると。
「私の館に連れてまいりましょう」
静かな、柔らかい声が万里子を包みました。
ふと、声がした方を向きますと・・・
あれ?女性も居たんだ・・・。
すらりと背の高い、細いその身を淡い水色のローブに身を包んでいるとても美しい
女性でした。
白い陶器のようななめらかな肌、深い、深い青の瞳、その青が映える、白銀の
クセひとつない腰までの長く美しい髪を持っていました。
ゆっくり、ゆっくりと万里子に近づきます。
マリコには一切、目を向けませんでした。
「よろしいですね?」
サクに、了解を求めるように問いかける美人に対し、サクは少し迷いを見せましたが
「あなたがそうおっしゃるのなら・・」
そう、答えました。
やった!召使脱出!
いや・・・こちらの美人さん家でも召使なのかもしれないけど・・・あの子専用に
ならないだけマシ!
ほっとした万里子でした。
「私は、ジルと申します。」
ジル、と名乗った美人さんは優雅に膝をつき、万里子の目線に高さを合わせ、
ふわり。と微笑みました。
「さぁ、参りましょう」
先ほどまでのざわめきは何処へやら。
シンと静まり返ったこの石造りの部屋から、ジルは連れ出してくれるようでしたので
万里子はすぐさま、その女性にしては少し大きな手に自分の手を乗せました。
が、すっかり冷えた足は簡単には言う事を聞かず、立ち上がろうとした万里子は
足がもたつき、倒れそうになりました。
ジルはとっさに手を引き、自分の体全体で万里子を受け止め、支えました。
そこで万里子はやっと気付くのです。
この人、お、男だ!!!!!!!
1人目、登場?