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18.冬の王子の乱入

目の前で表情をくるくると変え、そして今は耳まで真っ赤にしているマールを見て、

ルヴェルは初心なこの少女には、2人は少し荷が重いのではないかと心配になりました。


ジルは歴代のナハクの長の中でも群を抜く能力があり、最年少で王より大神官に任命された若者です。

が、滅多に微笑みを見せぬ人嫌いで、その容姿も手伝って冬の王子と呼ばれておりました。

そのジルが攫うように突然連れてきて、必要最小限の情報しか与えずに屋敷に置いている少女・・・。

今のこの少女の様子を見れば、あの人嫌いが彼女の為に様々な事に心を砕いている事が見て取れました。

そう、淡い青が一族の色であるのに、彼女の為にわざわざ高価なヤンテ色の衣を毎日注文する事も・・・

その代価に術を沢山使っている事も。

そして、私にまで彼女の存在を隠して会わせずにいた事も・・・。


それにイディ。呪われた闇の目を持つと言われている王の長子。

表向きは快活で社交的。大胆で豪快。だが、それはこの国で生きていくための仮の姿。

そう、ルヴェルは思っておりました。

亡き王妃に恩を感じ、同じ王の子でありながら継承権を持たずに王子に仕えている

彼が、毎夜ひっそりとこの少女の元を訪れる・・・。きっと、彼が全てを捧げているはずの

王子はまだ知らぬ事だろう・・・。


厄介な2人に、多大な興味を持たれているらしい目の前の初心な少女を、ルヴェルは少し可哀相になりました。


このままでは、本当に閉じ込められてしまうだろう。そうやって、少し思考を飛ばしておりますと・・

万里子はいつの間にか、気持ちを立て直しており、考え込んでいたルヴェルを今度は万里子が反対に

不思議そうに見つめておりました。


「あの。私、今度はあなたの事を聞きたいです」


おや。とルヴェルは少し目を丸くしました。意外と立ち直りが早かったので少し驚いたのです。


「そのシルシの事は、もう良いの?」


「今晩、待ち伏せしてみます。どうして夢に入ったのか、イディさん本人から聞かなくちゃ」


何かと衝突する兄と妹の、いつも仲介役だった万里子にとっては、本人から直接話を聞いて

判断するのは至極当然の事でありましたが、そんな万里子の強さと冷静さにルヴェルは少し

眩しそうに目を細めました。


「ルヴェルさんは、また別の一族なんですか?」


「そうだよ。私はサイナという一族だ。ジルの領地の隣が、我が一族サイナの領地でね。

ナハクとの縁は深い。・・・領地が隣という事もあって、一族の垣根を超えて婚姻を結ぶ者も多い。

私の曾祖母とジルの曽祖父は、仲の良い夫婦だった。だから私はジルの兄のようなものかな」


「そうなんですか!」


ジルと縁が深いと聞くと、万里子は安心したように心からの笑みをルヴェルに向けました。


「でも私の一族は術は使わない。代わりに、植物と会話が出来、操る事が出来る。その能力を使って

染色して衣を作ったり、作物を育てたり、建築物などを作る。この温室も、祖父の代に

ジルのおじいさまと協力して作った物だ。

サイナはこのような能力から、職人や商売人が多い一族だね」


「だったら、家で黙々と創作活動に勤しんでいれば良いではないですか」


温かな赤い光に包まれた温室の中に、冷たく静かな声が響き渡りました。


「ジル、さん・・」


ジルが自分の塔に向かったのを見計らって、抜け出してきた万里子はバツが悪そうに俯きました。


「マール、暗くなってから抜け出しては危ないですよ。いくら結界内とはいえ、ヤンテの光が

弱くなってからではその加護も・・」


「え?」


ヤンテの光と私に何の関係があるのだろう?意味が分からず、首を傾げる万里子で

ございましたが、ジルはルヴェルに視線を走らせると、チッと舌打ちし、ほんの少し

顔を歪ませました。


その様子も、ルヴェルにとっては大変面白いものでした。

常に無表情であったジルが、不機嫌を隠そうともしない。常に冷静で冷酷だったジルが

この少女を心配して思わず言葉が過ぎてしまったのです。


「ナハクの君が、赤の衣を毎日せがむからさ。その衣を、纏う姫に会いたかったんだよ」


ね。と、ルヴェルは万里子に微笑みを向けました。





年齢的には、ルヴェル→ジル→イディって設定です。


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