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14.秘密のメモ

万里子にとって、毎日が新しい発見で溢れておりました。


ジルの屋敷に住むようになって、もう7回の夜を過ごしました。

7回の夢を見て、そして1日の終わりに薄くなる胸の赤は朝になると濃くなっていて・・・

万里子は不思議そうに胸をさすります。

それを7回繰り返しても、その意味は奥手な万里子には分かるはずもございませんでした。


屋敷は広く、万里子が動ける範囲は、自分の居住空間とジルの居住空間の一部、

そして一族の全員が出入りできる屋敷の中央と、広い、広い庭。

庭には色とりどりの花々が咲き乱れ、ランチの後には庭で寛ぐのが万里子の

日課となっておりました。

庭に居る時には、森の中からスホも現れ万里子の頬に鼻を押し付けました。

あの時のスホだとすぐに分かりましたので、現れた時には一緒に会話を楽しみました。

その時知ったのですが、スホとは種族の名前なのでした。

目の前の、巨大な白馬(ミニ羽根付)は、少し寂しそうに自分自身に名は無い。

と言いました。

「じゃあ、私が名前をつけて良いですか?」

「姫がですか?光栄です」

スホの声が、微笑んだような気がしました。

万里子は自分がつけるなら、是非和風の名にしたいと考え・・・・

「白玉が良い」とにっこり笑いました。

真っ白なスホに名を・・と考えた時に、大好きだった白玉を思い出したのです。

「シラタマ・・・ですか?」

「・・嫌?」

さすがに、この美しい生き物が、小さくもっちもちの白玉は失礼だっただろうか・・と心配になりましたが・・

「いいえ。嬉しいです。私に、名が出来たのですね」

とても嬉しそうでしたので、白玉に名前の由来を告げるのは止めておきました。


さて。この広い庭には、大きく丸い、ドーム型の温室がありました。

この世界に来て様々な魔法を見ましたが、万里子にとっては、この温室が一番の驚きでした。

それまでは浮いてるシャワーヘッドから自動的に泡が出るのが不思議だったのですが、

それをはるかに凌ぐ驚きでした。


万里子の食事の好みを知らないからと、毎食ものすごい量が用意される食卓。

でもこの国は、荒れていたはずです。ここは緑で青々としていますが、光りが

無かったのですから、こんなに贅沢できる程、作物に余裕は無いのではないか・・と

万里子は心配し、ジルに訪ねると、この温室を案内されました。


温室が近づくにつれ、中から色とりどりの光りの玉が見えました。

巨大な温室の中には、更に小さな温室がありました。

その中には、赤い野菜には赤い光玉が。緑色の葉っぱには緑の光玉が・・・

オレンジ色の果実には、オレンジ色の光玉が・・・小さな温室の天井付近で

ふわふわ浮き、作物を照らしておりました。

「ヤンテの代わりをしているのですよ。このお陰で、わが一族は食事に困らず、

そして他の一族に売る事もできたのです」


「す、すごいです!!これは、ジルさんが考えたんですか??」


「祖父の代に隣の一族と考えたのですよ。私も術を使って手伝いましたが、今では

慣れたもので、この光玉を作るくらいですかね。私の仕事は」


なんと、温室の光玉も含め、屋敷のあちこちで動いている様々なものは、浮くシャワーヘッドも

含め、ジルの仕業なのでした。

ジルが毎朝、術をかけて1日動かしているのだそうです。

「眠る頃になると光玉の明るさが弱まるのはその為ですよ。それでもある程度は

温存していますから、必要な時には光玉もプルソも使えますよ」


はぁー。省エネってワケですか?万里子は様々な術を駆使するジルを尊敬しました。

おかげで、ふかふかのポケットで眠れて、毎食美味しい物をおなかいっぱい食べられ、

こうしてのんびり過ごす事ができるのです。

ずっとこうしていていいのだろうか・・そんな思いもありましたが、自分にこの世界で

一体何ができるというのだろう?そう考えては落ち込み、結局ふかふかのポケットに

潜り込むのです。

これが夢であれば良い・・そう願いながら眠るのですが、なぜか毎晩夢に出てくるのは

イディでした。

一度は兄が出てきたのですが、イディの声が響いた途端に兄はふっと消えたのです。

その時は、消えた兄を諦めきれずに「おにいちゃん!」と大声で泣いてイディを困らせました。

そんな時、イディは初めて会った時にしたように、万里子の頭を大きな手でわしゃわしゃと撫でたのでした。

それは・・兄も照れ隠しによくする事でしたので、万里子はふっと落ち着き、泣き止んだのです。

「俺では兄上の代わりにはならないか?お前に泣かれると・・心が痛む・・」

夢の中でイディは万里子を優しく抱きしめ、今度は子供をあやすように背中を

そっと撫でたのでした。

その行為に安心する万里子でしたが、実際は眠る万里子を黒の右目で見つめ、

手の平に口付けたままのイディは、夢の中で自分自身が万里子を優しく抱きしめる光景を

見ている事しか出来ず、本当には抱きしめられない事を歯痒く思っているのでした・・・。


万里子には、この先の不安と、もう1つ困った事を抱えておりました。



「さぁ。マール、今日の散策は終わりですよ。屋敷に戻りましょう。新しい衣が

届いているでしょう」


初日に青の衣を着て以来、ジルが暖色の衣を毎日のように届けさせるのです。

万里子は、1着では確かに困るけれども、こんなに何着も自分には必要ないと断ったのですが、

そうするとジルがとても悲しそうに瞳を伏せるので、それ以上は強く止める事が

出来ないのでした。

クローゼットの中には、イディにもらった朱色のドレスに加え、オレンジから

淡いピンク、落ち着いたスモーキーなピンクなどが増えていったのでした。

こんなにしてもらっても、私は何も返せないのに・・・優雅に前を歩くジルの

後ろで、万里子はそっと、ため息をついたのでした・・・・。


今日も、屋敷にはいつもと同じ女の子が来ていました。

女の子、と言っても、万里子と同じ位でしょうか?

ジルの一族では無いようで、白金の髪に薄い黄緑色の瞳。肌は健康的な肌色をしておりました。

「マール様の新しい衣をご用意しました」

嬉しそうに手に広げるは、熟れた果実のような濃い、濃いオレンジでございました。

「マール様は、本当にこのようなお色がよくお似合いです。ルヴェル様が、

次はもっと赤い衣を用意するとおっしゃっておいででした」


「あの・・いつもありがとうございます」


少女は、更に顔を綻ばせるのでした。


衣を手に取り、少女を招きいれたサロンの隣の小部屋で試着する事にした万里子は、

いつも通り、衣をそっと広げて自分の胸に合わせました。


その時・・・・


広げた衣から、小さな紙が滑り落ちました。


先ほど、少女が広げた時には無かったものです。


手に取った万里子の目に飛び込んできた文字は・・・


『このまま塔に閉じこめられたままでいるの?』



先の不安を感じていた万里子には、自分の弱さを見透かされているようで

思わず手に取った柔らかな素材の衣を、ぎゅっと握り締めたのでした。

時々ちょっとふざけてみたくなるのです。

白玉・・・・・。

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