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11.密約

会食は、思ったよりも楽しいものとなりました。


この世界で生きていくにあたって、やはり食べ物が合うか心配しておりましたが

予想以上に万里子の口に合い、感激で涙しそうになっていた程でございます。


やはり食事のマナーなどは大きく違うようではありました。


まず、料理は大皿に盛られ、それを取り皿に分けるようでした。

が、箸などがありません。

大皿に盛られた料理は全て小さな緑色の器に入れられ、その器を手に取るようです。


「どうした?まさか食べ方が分からないでもあるまい?」


食材も食べ方もよく分からないので、最初はふたりの様子を窺っていると

からかうようにイディが話し掛けました。


それに反応するのはなぜかジル。


「彼女は・・遠慮しているだけだろう。」


万里子が何者なのか隠しておきたいジルは、イディは既に万里子の事を異世界の

人間だと疑ってかかっているのは分かっていましたが、決定打を与えたくなくて

そっと万里子が食べ方を観察できるように、自らが手本となりました。


先ほどから、このように腹の探り合いのような会話がふたりの間で繰り広げられていたのですが

万里子は食事に集中していたので、一向に気にしている様子はありませんでした。


ジルが、角煮のように見える物が入った小さな緑色の器を手に取り・・・

なんと、器ごと食べました。

どうやら器も、固めの小さなレタスのようなもので出来ているらしく、器ごと

食べるのがこちらの料理らしいのです。


見ると、様々な料理が全て食べられる器に入っているのでした。


恐る恐る、ジルが先ほど食べた角煮らしきものを口に運びます。


「おいしーー!!!」


角煮らしきものは、やはりお肉で(何の?)煮る、というよりはしっかりと

焼かれてソースがかけられていました。

これをきっかけに、万里子はものすごいスピードで口を動かしました。

小さな器に入ったご飯のようなものもありました。色が少し茶色でしたが、

食べるともち米のような食感。


良かった・・これで本当に、この世界でなんとか頑張っていける・・。


心から安心しました。


残る大きな問題はあと2つ。


お風呂事情と、トイレ事情。


これも・・試してみるしかありません。

大体、トイレと言って通じるのだろうか?そう思いましたが、そろそろ食事も

終わり。という頃、席を立って見る事にしました。


すると、察したジルが食事していた個室から人を呼び、案内を頼みました。


・・・・・・残された、男がふたり。



ふぅ。諦めたように、ジルがため息をつきました。


「もう、察しはついてるのではないか?」


沈黙を破ったのはジルでした。

イディが髪で隠れていない左目を潜めます。


「驚きましたね。もっと隠し通そうとするのかと思いましたよ」


「お前が相手では無理だろう。で・・言うのか?殿下に」


「・・・言いませんよ。」


まだ、ね。心の中でそっと付け足します。


今度驚いたのはジルです。シワひとつないなめらかな眉間にきゅっとシワを寄せました。


「言わない?どういう風の吹きまわしだ?」


「あなたも、言わないで欲しいのでは?」


はぐらかされた。

そう、ジルは思いましたが、万里子の存在を明かさないで欲しいのは本心でしたので、

追求する事はしないでおきました。


「たまには、俺があなたに貸しがあるのも良いでしょう?」


面白そうに言うイディに、ジルの眉間のシワは深くなりますが・・


「仕方ない。ここは引こう。ただ・・・言っておくがマールに魔法は効かない。

術で何かしようとは考えない事だ」


効かない?術が?


目の前に居る、当代最高の魔術師と言われているジルを、イディは驚きの眼差しで見つめます。


「なるほど・・面白いですね。それでスホで移動していたのですか。

今日の事は他言は致しませんが、あなたの領地までは俺もお供しますよ。

ここからが、一番危険ですからね」


「・・・これも、私は引くしかないのだろうな」


「貸し、2つです」


後に残ったのは、ジルの苦々しい表情だけでございました。



言わない・・まだ、言わないよ。

あの子は殿下にふさわしいか、まだ分からない。

それに、あの子に殿下がふさわしいかもね・・・・・・。


まだ表情から苦さの消えないジルを見ながら、イディは酒を飲み干しました。



ジルの領地までは、宮殿のある都から2つの街を越えた場所にありました。

外交対策の為に、力の持った一族の領地を国の端に位置づけていたのでございます。

ですから、ヤンテが消えてからまず荒れたのは都と国境の街の間に位置する街でございました。

街が荒れて犯罪が多くなり、職を・・食べ物を失った街の一部の人間は盗賊になり、更に昔からの

盗賊も隠れ住むようになった為、旅人を困らせていました。

イディの言う「ここからが一番危険」というのは、このような事情があったのでございます。


乗る人間が3人になっても、スホは軽やかに音も無く進み、何事もなくジルの

領地に入りました。


「マール。俺はここでお別れだ。少しの間だったけれど、楽しかったよ」


また、万里子の頭を大きな手でくしゃくしゃと乱暴になでます。


この世界に来たばかりの万里子にとって、イディの言う「少しの間」は、

決して少しではなかったので、イディとこのまま別れるのがひどく寂しく感じるのでした。


それを見て、嬉しそうに微笑むイディは「また会えるさ」ときっぱり言い切りました。


きっと社交辞令なのだろうと、「そうですね・・いつか、また・・」と寂しそうに

返す万里子でしたが・・


「いつか、じゃない。すぐに会えるよ」


やはり自信たっぷりに、イディは言うのでした。



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