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2 王女トリロと対面する


 翌朝、王女は相変わらずぐるぐる巻きにされたまま、どこかへ運ばれていきました。


 目隠しを通しても、辺りが明るく晴れ渡っているのがわかりました。猿ぐつわと目隠しがなければ、そして運んでいるのが見知らぬ男達ではなくお供の人達であったら、とても気持ちのよい日和であったに違いありません。ゆらゆら揺られているうちに、王女はついうとうとまどろんでしまいました。


 「やあ、山住みの皆。一体何を運んでいるんだい」


 王女がはっと気がつくと、まだぐるぐる巻きのまま運ばれているところでした。まさか王女とは思わなくとも、攫ってきた人を運んでいるのは明らかなのに、話しかけてきた人の声は落ち着いておりました。答える山住みの男達も、まるで慌てた様子がありません。


 「王女様を捕まえちまったんだよ」

 「あれまあ。じゃあ、トリロ様のお館へ運ぶんだね」

 「そうだよ」


 山住みの男達は、道々話しかけられる度に同じように答えながら、王女を運んでいきました。


 トリロは、牛飼いの息子でしたが、先の戦で大きな手柄を立てたので、褒美として山間にある小さな村を王から与えられて領主になっておりました。


 王は民の手前、牛飼いの息子にも褒美を取らせただけで、その痩せた土地しか持たない村のことなど、すっかり忘れてしまっておりました。


 王女は城の中に閉じこもっておりましたので、戦があったこともおぼろげにしか覚えておらず、ましてトリロのことも知りませんでした。

 そして世間知らずの王女は、いわば山賊が王女を攫ったというのに、ちっとも大騒ぎしない村人達のことも、おかしなことだと怪しみもしなかったのでした。


 実のところ村人達は、長い間王や町の人達から顧みられなかったので、お城の人達のことなどよりも、村をよくしてくれるトリロや、村に怪しい人物が入らないように見張ってくれる山住みの男達の方に親しみを感じていたのでした。


 それで、王女を捕まえたのが山住みの男達と知ると、後の面倒な仕事はトリロが片づけてくれるだろうと安心したので、無駄な大騒ぎをしなかったのでした。



 さて、王女はトリロの館へ運び込まれて、床へ下ろされました。

 誰かが合図したのでしょう、目隠しと猿ぐつわが外されました。目の前に男の顔が見えて、王女はぎょっとして目を閉じました。それから、おそるおそる目を開きました。


 「これが末の王女様か。初めて見た」

 「ねえ、トリロ様もびっくりしたでしょう。俺達もびっくりしたもの」


 トリロは今でこそ一応村の領主ということになっておりましたが、顔は牛飼いの息子らしく平凡でした。その上、お城にいる伊達男のように着飾ることもせずにいたので、王女にはますます町や村の民と区別がつきませんでした。


 王女は道々話の具合から、辺りの偉い人の元へ連れて行かれるのだと思っていたので、平凡な男が現れたことに驚き呆れて、口もきけませんでした。王女の顔を確かめると、トリロは男達との話に戻りました。


 「では、王女様は見捨てられた王国へお輿入れの途中だったのだね」


 「あんなところを練り歩いている訳なんて、ほかに考えようがありませんです。何せ野郎どもみんなぶった切ってしまったんで、小間使いに聞いても『北へ行くんだ』とか言うばかりで埒があかないし」


 「確かに、この北は見捨てられた王国と境を接している。年頃の王子様もいるけれども、呪いにかけられたまま何十年も経っているのに、今更嫁にやろうという親はいないだろう」


 「お城に住む人達は、また違った考えを持っているかと思いましたです。それに、王女様とはいえ、失礼ながら妖精の取り替え子みたいなご面相だし、あちらの王子様はそれはそれはお美しい姿と聞いているんで、王女様も知っていて嫁に行くかもしれないと思いましたです」


 「口が利けるようになったら、王女様に聞いてみた方がいいだろうね。ともかく、この綱を解いてあげなさい。ゆっくり休んでもらってから、話を聞こう」


 「逃げませんかね」


 「逃げたら、お前達が捕まえてくれるだろう」


 「任せてください。猫の子一匹逃がしませんです」


 山住みの男達の迫力に、王女は逃げ出す気力を失いました。


 それから王女は、いかにも急ごしらえの寝室へ運ばれました。


 トリロの館は、王女のお城とはもちろん比べ物にならないほど質素で小さいものでした。

 実のところ、他の領主の館と比べても小さく、町の大商人の住まいの方がよほど豪華でした。


 王女が運ばれたのは、館の中では一番よい部屋でしたが、そうした訳で王女には牢屋に入れられたも同然の心地なのでした。ここでやっと王女はぐるぐる巻きから解放されました。


 男達と入れ替わりに、先程まで畑の手入れをしていたような農婦が二人、温めた牛乳とチーズ、それにパンを捧げ持ちつつ入ってきました。


 王女は朝から何も食べていなかったことを思い出して、急にお腹がすきました。

 お城でいつも食べるような道具は何もありませんでしたが、王女は構わずがつがつと食べ物を平らげました。


 農婦達はマナーを知らないので、旺盛な食欲の王女をむしろ嬉しげに見守っておりました。お腹が満たされると、王女は急に眠くなりました。思えば、ぐるぐる巻きにされて以来、ろくに眠っていなかったのです。

 王女はたちまち眠りにつきました。

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