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アルディス国王

「ユーフィリア、怪我はないか? 無茶はしなかったか?」


「…………はい!」


 一瞬悩んだが、あれはコーネリアのサポートもあったから安全は確保されていたから問題ないだろうと大きく頷く。


 「そうかそうか」と言いながらセルシオン様は人目も憚らず私を抱き寄せて、頭や頬を撫でくりまわす。

 気恥ずかしくも甘やかされるまま猫のように目を細めてセルシオン様に身を任していると、そんな私の頭上でセルシオン様がコーネリアに声を掛ける。


「コーネリア。後で報告せよ」


 発せられた淡々とした声に圧を感じて身震いした。


「あ、あああの、本当に何の無茶もしておらずっーー」


「お前は気にせずとも良い。ほらこちらを見よ。怒ってはおらん。……そうだろう?」


 頭頂に口付けを落としながら、甘やかすような声色で問われれば否定できるはずもなく。

 大変疑わしいのですけど、と思いながらも口を噤んだ。



「わ、私の城でイチャつくな!! 帰ってからにーーいや、ユーフィリアは置いて一人で帰れ!!」


「ふははは! 独り身には些か目の毒であったな! いやはや、俺の配慮が足りず申し訳ない」


「……私にも婚約者はいる。要らぬ気遣いだ」


 苦々しい顔で呻くように反論する王太子が、意味ありげな視線を私に向ける。首を傾げて見せると苦しそうに自分の胸元を掴んで俯いてしまった。


「ただ、私はーー」


「胸に秘めておけ」


 静かなセルシオン様の声に遮られ、王太子はハッとした顔で無意識に呟こうとした言葉を押し込めた。


「その願いだけは叶わん。悩ませたくなければ、もうそれは口にするな」


「……ああ、理解している。口が滑りそうになっただけだ」


 王太子はバツが悪そうに自嘲しながら、この話は終いだと軽く手を振る。


「そちらの望み通り父上は退位させた。だが、当然ながらまだこの地位に未練があるようだ。軟禁していたのだが、隙を突かれて僅かな兵を率いて東の離宮へと向かったと聞いた。……無事だったようで何よりだ」


 最後の言葉はお母様に向けられていた。


「退、位……?」


 お母様は寝耳に水の話にぽかんと口を開けて呆然としている。


「父上に従う者は潰す。僅かに残った権力も奪うので安心して欲しい。今まで貴女には迷惑をかけた。賠償金の話は後でするとしよう」


 王太子ーーいや新たなアルディス国王は、以前はどこか幼さの残っていた顔立ちをしていたが、国王という重責からか一気に大人の男性へと表情が変わったようだ。

 その威厳を漂わせ始めた姿は、アルディス国王と名乗るに恥じぬ佇まいだ。

 先程までのセルシオン様と幼稚な喧嘩をしていた人間とはとても思えない。



 と、そこで急足で謁見の間に入ってきた騎士がギルバート国王に耳打ちして、彼は不敵な笑みを浮かべた。


「どうやら本日の主役が到着したようだ。皆で出迎えようか」


 そう言って扉を指し示す。


 開かれた扉の向こうから、ナレアスの魔法で上半身をぐるぐると拘束された元アルディス国王が現れた。


 この短期間で王族のこのような姿を続け様に見ることになるとは思わなかった。

 先王は部屋をぐるりと見回し、お母様の姿を見つける。


「リシャーナ!!」


 母に向けて足を進めようとしたが、ナレアスに阻止され近付くことはできない。

 だというのに諦めきれないようで繰り返し母を求めて足掻く。


 その姿を見て憐憫の情が湧いた。


 やり方は間違っていたが、先王は確かに母を愛していた。

 他に惑わされることなく、ただひたすらに一途に想っていた。

 それは誰が見ても明らかだった。


 その想いは決して報われることはないけれど。


「父上、見苦しいですよ。もう解放して差し上げてください。一人の女性を不幸にしたのです。反省すべきではありませんか? その愚かさと醜さは、歴史に名を残したかの愚王、ガルシア国王の再来のようです」


「ほざけ!! 国王の寵愛を一身に受け、不幸なはずなかろう! 貴様如きに私とリシャーナの愛の形を理解など出来ん!!」


 ギルバート国王の発言にカッと怒りで顔を染め、先王は唾を飛ばしながら叫ぶ。


 お母様は反論したいのを必死で堪えて、怒りに身を震わせている。


「愛について討論をしたいわけではないので理解出来なくても結構です」


 ギルバート国王は相手にするのも面倒だというのを隠す気もないようだ。

 玉座から先王を見下ろす。


「まず私が聞きたいのはなぜ抜け出したのか、です。父上を閉じ込めたのは決して私の邪魔だからと言うだけではないのですよ。今までどれだけの恨みを買ってきたかお忘れですか?」


 ギルバート国王の言葉に、先王は顔を青褪めさせた。


「騎士を……護衛を増やせ!!」


「でしたら離宮から出ないでいただきたい。父上に人員を割くより、必要な場所に回したいので」


「ああ、わかった! 大人しくしていよう。だが、リシャーナは共に連れて行く。異論ないな?」


 鼻息荒く目を爛々とさせながら母を見遣る先王に鳥肌が立った。

 あ、駄目だ。と思った時には遅かった。


「お断りよ、このイカれ野郎!! とっとと一人でくたばりな!!」


 美しい顔から放たれた暴言に、周囲の目が点になる。

 母は離宮の人間以外と関わりがほぼなかったため、気性の激しさを知るものは少ない。


「リシャーナ、そんな事を言わないでくれ。お前に拒絶されては私自身どうするかわからないのだ」


「そんなこと知らないわよ。散々私の人生滅茶苦茶にしておいて、挙げ句の果てに殺そうとしてきた男なんて目の前から消えてほしいって思って当然じゃない?」


「お、お母様、それ以上はおやめください! 王族侮辱罪で捕まります! いえ、正直もうアウトです!!」


 まだ言い募ろうとするのを止めようと腕を引く私の手を振り払って更に続ける。


「ユーフィリアを盾に私にあらゆる事を強要してきたわね? 結局あんたがユーフィリアを守ったことなんて一度もなかったわ。信頼も愛情も欠片も芽生えるはずないじゃない! 気持ち悪い傲慢男!! 去勢されて海に沈めてもらえばいいわ!!」


 普段から先王に対して無礼な物言いをしても許されているとは言え、ここは離宮ではなく王城だ。流石に人目がある。

 ギルバート国王なら許してくれると思うが冷や汗が止まらない。

残念ながら2月中に完結できませんでした…

もうゴールは見えているので、もうしばらくお付き合いいただけますと嬉しいです。

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