再会
「えっ!? ユーフィリア!?」
私の胸に飛び込んできたユーフィリアに驚きつつも、その頭を守るように腕の中に抱き込んだ。
私がクッションになればこの高さなら大した怪我はしないだろう。
いや。その前に。
「ねえ、私達浮いてない!? 浮いてるわよね!?」
「はい! コーネリアの魔法です」
コーネリアがどこの誰だか知らないが、愛娘が信頼してるというのはその顔を見ればわかったので良しとする。
そのままゆっくりと降ろされたが、まだふわふわ浮いてるような気がして両足で確かめるように地面を踏み締める。
「魔法……魔法って言ったわね。すごいわ……!」
「そうなんですっ、すごいんです! 空を飛べるのは魔力が少ない人間にはできないんですけど、コーネリアやセルシオン様は飛べるんですよ!」
目を輝かせて褒める姿を微笑ましく見つめて、うんうんと頷いた。
「そうなのね。ユーフィリアが元気そうでよかったわ。楽しくやっていたようね。これまでの話を後で聞かせてちょうだい」
改めて向かい合ったユーフィリアの頬に手を伸ばすと、撫でやすいように頬を差し出してきたので、その頬をぎゅむっと掴んで思いっきり横に引っ張ってやる。
「いっ、いひゃひゃひゃ、いひゃいれす! なんれぇ!?」
「こんのバカ娘!! なんて無茶してるのよ!! 私の寿命が縮んだわ!」
油断していたユーフィリアは突然の痛みに涙目になっている。
勢いつけて手を離すと、ユーフィリアは赤くなった頬をすりすりと摩りながら抗議してきた。
「そ、それを言うならお母様こそ! 飛び降りるなんて思わなくて心臓が縮みあがりました!! コーネリアを急かさなかったら今頃どうなっていたことか!! 私、待っててって言いましたよね!?」
「あー、いや、でもこれは仕方ないでしょ?」
「なんです? 言い訳なさるのですか?」
腰に手を当ててこちらを見上げるユーフィリア。
うん、ただただ可愛いだけだ。
怒っても可愛いなんてうちの娘は最高か。
「お母様、聞いてます?」
「うんうん、聞いてる聞いてる」
ニマニマする私にユーフィリアが「真剣に聞いてください!」とまた怒る。
その姿に心の澱が押し流されていくようだ。胸に充足感が広がっていく。
「あらあら、ユーフィリア様もこうして見るとまだ幼い子どものようですね」
突然横から聞こえたおっとりとした声にびくりと肩を揺らして慌てて視線を向ける。
肩先で揺れるプラチナの髪にルビーの瞳、そしてエルフの特徴である長い耳。
神が作ったと言っても過言ではない美しさに言葉を失った。
その瞬き一つで魅了されそうだ。
絵画ではない本物のエルフはこんなにも美しいものなのか。
過ぎたる美は暴力だ。あまりの衝撃に目を逸せない。
「コーネリア! お母様を助けてくれてありがとうございます!」
「いいえ、お安いご用です」
コーネリアと呼ばれたエルフは、ユーフィリアに両手を握り締められたまま、ふわりと微笑んだ。
なぜその笑顔を直視して平静でいられるのか我が娘ながら驚嘆する。
「あっ、お母様。先にダクス城へご移動ください。移動先にキースと言う頼りになる男性とシアがおります。良いように取り計らってくれるようになってますので寛いで待っていてください」
そこでハッと我に返って、コーネリアからようやく目を逸らす。
「ゆ、ユーフィリアはどうするつもり?」
「セルシオン様達と後処理をしてから向かいます」
「あの男にトドメを刺すなら私にも見届ける権利があるはずよ」
「はいっ? いえいえっ、殺したりしませんよ!? ……でも、そうですよね。お母様は長年苦しめられて来ましたから見届けたいと思われるのも当然ですよね。……あの、コーネリア?」
「はぁい。かしこまりました」
「ふふ、話が早くて助かります。では行きましょうか」
ユーフィリアはそう言って離宮とは逆方向である王城の方に顔を向けた。
「クソ野郎の所じゃないの?」
「ええと、そちらは後程ナレアスが連れて来るので大丈夫です。まずは早めに顔を出さないと機嫌を損ねちゃいますので……それにあの二人だけだと喧嘩してしまいそうですし……」
ユーフィリアはどこか疲れた様子で後半部分を呟いた。
とりあえず今ここで問い質しても仕方ないので、励ますようにユーフィリアの頭を撫でて頷く。
「よく分からないけど分かったわ。まず城に向かうのね?」
「あ、はい。その……全部をうまく説明出来る気がしなくて……ごめんなさい」
「いいのよ。細かいことは気にしない主義よ。早く行きましょう?」
城に向かって歩きだそうとしたら、ユーフィリアに手を掴んで引き止められた。
「待ってください。急がなければならないので転移魔法で向かいます。お母様は目を瞑っていてくださいね。コーネリア、お願いします」
「ふふ、おまかせあれー」
気楽な声と共に体を温かいものが包み込む。そして突如襲いくる目を灼く眩しい光に、瞼越しでも明るさを感じて腕で目元を覆った。
◇◇◇
「ユーフィリア!!」
「我が妻に寄るな」
「まだ結婚してないだろう!? それに私の妹であることに変わりはないのだから、再会の抱擁くらい許されるべきだ!」
「そうか、そうか。短い付き合いであった。介錯は任せよ」
「お前と言うやつは狭量な男だな! お前の要望通りに動いてやった礼にこれくらい許せないのか!?」
「逆に問おう。なぜ許せると思う? 愛する女に触れる男は全て滅するべきではないか?」
「お前そんな恋愛脳だったか!? 氷の宰相と言われたお前はどこへ行った!?」
「ふっ、ユーフィリアの愛に溶かされたか」
「惚気か!? 気持ち悪い!!」
アルディス王城、謁見の間にて。
転移してきた私を見た途端にセルシオン様と王太子は予想通りと言うべきか言い争いを始めた。