裏切り者には制裁を
所々メルテの邪魔が入りつつも、どうにかお爺さんが詳細を語り終えた。
要約するとフィリクスとイグニダを脱獄させようと魔導塔の研究員や騎士達に接触してきた者がいたらしい。
始まりは二日前だ。
フィリクスの食事を運び終えた騎士が、素性の知れぬ若い騎士から声を掛けられた。
そして昨日は魔導塔の研究員や魔導師達からも同様の報告が上がった。
目的が分からなかったため騎士達と相談し、相手を探るために罠を仕掛けた。
魔導塔内部の人気の無い場所に騎士を立たせると、予想通りに不審な男が現れた。
他愛もない世間話から仕事の愚痴へ、そしてやがて公王ーーセルシオン様への不満へと変わっていったそうだ。
そのまま意気投合した振りで同意していると、やがて男は周りを気にしながら持ちかけてきた。
『公王を廃位させる良い手がある。手伝ってほしい』と。
その男はダクスの貴族が裏にいることを仄めかしていたらしい。
ベルヅ国の者が脱獄させようとする可能性は考えられていたが、まさか自国の貴族がそのようなことを企てるとは信じられない気持ちだ。
それをセルシオン様が聞いてどう思うかと考えただけで胸が苦しくなった。
「ふむ。話は理解した。だが、それをどうして魔導塔の者から報告を受けている? 騎士団はどうした?」
「今、騎士団の者がおおっぴらに動けば相手に勘付かれかねませんのでな、怪しまれんよう普段通りに振る舞ってもらっております」
「そうか。良い判断だ。ーーして、イグニダの監視はどうなってる?」
セルシオン様は鋭い目付きでメルテとダーレンを交互に見遣り、詰問するような口調で問いかける。
「ふふん♪それは心配ご無用だね! なぜならば、ネリネリが来たからちょうどいっかーってお任せしてきたからね!」
「ネリ……?」
セルシオン様が未知の生物を前にしたような困惑した顔でダーレンに説明を求める。
「恐れながら助手に任命されましたこのダーレンが通訳しますと、コーネリア様がいらしたので留守を押し付けて来た、と頭のネジの外れたエルフは申しております」
「そうか。コーネリアならば安心だな」
「でっしょー? 脳筋君をうっかり殺さないか心配だけど、それはそれでいっかなってね!」
「脳筋君とはイグニダのことです」
「脳筋君ってさぁ、毒にも痛みにも耐性があるから、王族とか暗殺者とか毒慣れしてる相手を想定した実験が出来るのが彼の良いトコなんだけどー。加減の練習できないから今度くれるなら、もうちょい普通の人間がほしいかなっ☆」
「可能であれば毒慣れしていない別の実験体を希望しています」
「でもさ? 新しい実験体が来る前に脳筋君を奪おうとしている誰かさんがいる訳だ、うん。ねぇ、そんなの許せなくない? 許せないよね。許してなるものか! って訳で、ボコり隊結成しました! 可愛くて完璧なメルテちゃんが隊長です!! よろしくゥ!」
「イグニダを奪おうとする者には鉄槌を、と申しております」
ツインテールを揺らして体をわちゃわちゃ動かしながら話すメルテの後ろで、死んだ目で淡々とダーレンが通訳する。
「いや、そこまで通訳せずとも構わん……」
セルシオン様は眉間を押さえて軽く息をつくとキースを振り返った。
「あっはは、良い感じに尻尾を出してくれるとは。いやはや、逆に怪しく思えてきますねぇ。罠でしょうか?」
「さあな。だが、奴らも焦っているだろう。俺が結婚する前に片を付けたいはずだ。ならば杜撰な計画を立てたとしても不思議ではなかろう」
「では、そろそろお掃除始めます?」
「それがよかろう。任せたぞ」
「おまかせを」
そう言ってキースは悪い顔で笑った。