属性調査 その二
「うちの姉が」
バッと、見事な九十度で腰を折りながら、アシェルは姉の頭を掴んで一緒に下げる
「ほんっとーに!すみませんでした!!」
「うぅ・・・ごべんなさい・・・」
特大の雷を弟から貰い、クレアは泣きべそをかきながら謝る
あまりにも見事な謝罪と、何となくこれまでも謝り続けて来たんだろうなという哀愁で、エマは混乱して固まってしまった
「あー・・・えっと、大丈夫です。ほら、誰にでも間違いはーーー」
「初対面・・・かは分かりませんが、いきなり手を握って『ナンパされてたご令嬢』と言うのは貴族間ではあまりにも失礼だと私は思います。」
「うっ・・・」
ぐうの音も出ない。確かにそれはマナー違反だが、何もそこまで厳しく叱らなくても・・・きっと反射で言ってしまっただけーーー
「本当に昔から・・・何回言ってもなかなか直んないし・・・」
これが初めてではないらしい。
「まぁまぁ、アシェル様」
ふんわりと、正座で泣き続けるクレアを包み込んでエレノアが言う
「クレア様のこの思ったことをすぐに口にしてしまう癖も、初対面の時に比べれば随分と改善したではありませんか。怒りすぎると早く老けますよ?」
「エレノア・・・それフォローしてる?」
にっこりと柔らかく笑いながら、さりげなく毒を混ぜる
笑うエレノアとアシェルとの間にバチバチと火花が散っているように見える
もう付いていけないと諦めて、エマはただ見つめる
その光景は派手な殴り合いがないだけで、ほぼクロエとアメリアの喧嘩と同じだった。
「・・・あーなんか悪いな、身内のーーー喧嘩?に巻き込んじまって」
後ろで静かに見ていたレオが申し訳なさそうに近づいてくる。
その姿に親近感と既視感が同時に湧いて、エマは同情するように言う
「いいえ・・・私も、三日に一回は似た光景を見ておりますので・・・」
「・・・・そうか」
諦めムードの漂う教室で、密かに今、謎の友情が生まれた
「よっ・・・こいせっと」
そんな教室の空気を切り裂くように、バァンッと乱暴にドアが開けられる。
いや、正確には蹴られた。
可哀想なドアは、バタン・・・とホコリをあげて倒れた
「あー・・・やっちったー・・・まーた事務さんに怒られる〜・・・ん?」
蹴破ったドアをグリグリと踏みながら現れたのは、灰色の長い髪にエメラルドグリーンの瞳をした少女ーーーにしか見えない人物だった。
出席簿持ってるし、服装も制服ではなく私服っぽい正装だし、何より腕にこの学校の教師であるという意味の腕章をつけている。
だが、どう見ても百六十センチはいかないであろう背丈に高く舌足らずな声が
(・・・・先生・・・だよ、な・・・?)
と判断を決めかねていた
「あ〜・・・もしかしてあたし来るまで待っててくれてた?」
うんうんと、クラスの全員(未だ睨み合う二人を除き)が頷く
「えっまじかごめん。もう行ってるものだろうって高括ってめっちゃ遅れて来ちゃった」
てへっ⭐︎とでも言うように舌を出す
揃ったように全員が黒板の上の時計を見れば、時刻は九時丁度。
「ごめんな〜今から出ても教室からだと講堂まで十分かかるし・・・完全なる遅刻だしなぁ・・・」
「いや原因はアンタだよ」
ボソッと誰かが突っ込む
少女はう〜・・・んと考え込み、やれやれとばかりに肩をすくめる
「仕方ないかぁ・・・おまいらちょっとこっち来いー」
ちょいちょいと手招きされ、生徒達は集まる
「あーもうちょっとそっち内側に・・・そうそう」
一体何を始めるのかと疑心に駆られる生徒達を他所に、少女はだるそうに伸びをする
「これ疲れるんだよなぁ・・・あ、酔いやすい奴は目ぇ瞑っとけ」
そう言うと、伸びの体勢のまま手を前に突き出し水平に開く
「講堂」
グニャリと、周囲の景色が歪む
「!?」
何が起きているんだと、エマはついさっき友人となったレオを振り返る
「なっ・・・これは・・・」
しかし、そのレオも驚きで瞠目している
「ほい到着っと」
気付けば、周りは教室ではなく入学式で見たあの広い講堂の目の前にいる
「・・・!?」
驚きを隠せないエマの横を通り過ぎて、少女は講堂の扉に手をかける
「いやーギリギリセーフ、ギリギリセーフ」
ハッとエマは気付き、切り替える
さっきのことは後でヴェアルにでも聞こうと考えながら
少女に釣られるように薄暗い講堂の中へと入っていく
一話からめっちゃ修正しています。あれ?前読んだのと違うぞ?と思った方は一話目へGO。