属性調査 その一
「Aクラス・・・Aクラーーーあ。」
ステンドグラスに陽光が通り、色とりどりの光に包まれる広い廊下。その少し奥に、エマは自分のクラスを見つける
教室からは話し声が漏れて、既に何人かは知り合い達と談笑を楽しんでいるようだ
(・・・この中に入るのか)
「嫌だな・・・」
死んだ目をして、ハァーッ・・・と溜息を吐く。そもそもエマは元来、人見知りする質である。
面識の無い人物と目が合えば反射的に睨む性質だし、口を開けば冷たく突き放した言葉しか出てこない。
そのおかげで、軍では数百の部下を纏められた訳だが。
そう言うわけで、エマは教室の扉の前で開けて中に入るか、回れ右して別棟の図書室に籠るかで判断を迷っていた。
(どうしよう・・・一旦中を覗いてみてーーー)
途端に、わっと教室の中から笑い声が聞こえ、エマの手と足が同時に半歩後ろに下がる
(・・・図書館に行こっかな。)
うん。そうしよう。
回れ右をして足音を立てず立ち去ろうとしたエマの耳に、中からこちらへ向かう足音が聞こえてくる
『ちょっと職員室に様子見て来るわね、三人とも』
(は・・・!?え誰かこっちにいやそれより早く逃げなきゃ動いてくれ足っーーー)
ガラッと勢いよく扉が開かれ、エマは歩こうとした体勢のまま固まる。
一方、扉を開けたご令嬢は変な体勢のエマを見て、パチリと瞬きすると、思い出したように目を開いて、中途半端に固まったエマの手を取る
「もしかしてあなた!昨日のーーー」
その煌めく鮮やかな赤い髪色を見て、エマも驚きで目を見開く
「あっ・・・あなたはーーー」
「ナンパされてた銀髪のご令嬢!」
・・・確かにその通りなのだが。もうちょっと他に言葉は無かったのかと、満面の笑みで自分を見つめる金色の瞳を見ながら思った。
……………………*****
私のクラスはAクラスだったわ!エレノアとアシェルも同じクラスで、思わず飛び跳ねちゃったわ。あんまり周りに人がいなくてよかったわ・・・
広くて、ステンドグラスが綺麗な廊下の突き当たりに、私達のクラスはあったわ。
扉を開けて見れば、窓の上部がステンドグラスである事を除けば、至って普通の教室だったわ。
横長の机が三台に、二段の黒板の前には教卓。後ろには掲示板と参考書が幾つか入った本棚。
「・・・案外普通の教室だね。当たり前だけど」
ぽつりと、アシェルが呟く。エレノアも、それに同意するように頷いた。
「ええ、まぁそれは他の教室でも同じことでしょうね。とりあえず、席に座りましょうか」
「そうね」
何となく、前から二番目の席に私とエレノア、後ろにアシェルという形で座ったわ。正門から教室まで、少し遠いし、初めての場所での緊張もあって、三人とも、腰を落ち着けたら、ふぅって息を吐いてたわ。
しばらく何も喋らずボーっとしてたら、ガラッと音がしたの。目線だけそっちに向けたら、見知った顔・・・と言うかエレノアの婚約者で幼なじみのレオ・ホワード第三王子がいた
「うおっ早いなお前ら。まだ八時にもなって無いのに」
席にもたれながら、アシェルがやれやれと口を開く
「姉さん、いっつも寝坊するくせに今日は早く起きてキッチリ制服着て待ってたんだよ。」
「おかげで少し眠いですわー・・・」
エレノアも、欠伸を噛み殺しながら答える
「だって待ちに待った登校初日よ?速く行かないなんて、損するだけよ!」
「ドヤ顔で言うことじゃないぞ、レイラ」
乱暴にアシェルの隣に座りながら、レオは半眼で突っ込む
「あ、そういえば」
ふと思い出したように呟く
「レイラ。お前何かしたのか?さっき兄さんからお前らと一緒に生徒会室に来いって言ってたぞ。」
「テオ・・・様が呼び出しているからって何かやらかしたとは限らないわよ・・・多分。」
「多分って言ってるじゃねーか」
心あたりを必死に探して固まってしまったレイラの肩に手を置いて、エレノアがフォローする
「ただ生徒会メンバーにレイラ様を紹介したいってだけかもしれないですわよ」
「そっそうよね!バレるわけ無いものね!」
「何かしたの、姉さん・・・」
『ピンポンパンポーン♪』
唐突に、教室内に声が響き渡る
『新入生の皆様!ご入学おめでとうございまーす!!パチパチ〜!』
やたらハイテンションである
「・・・声?」
「土魔法の一種でしょうか・・・」
「そうよね・・・スピーカー無いし・・・」
「すぴーかー?」
「あっ!ううん、何でもないの!」
『今日は〜短時間授業!各教室、担任の先生が来たら指示に従って九時までに講堂に向かってね!それでは!お相手は放送部二年、クレア・レイガスでしたー!
ピンポンパンポーン♪』
やたらハイテンションな放送(?)が終わり、教室が静まり返る
「九時までに講堂、ね」
「短時間授業って、一体何やるの?アシェル」
「んー、多分魔法属性の調査じゃない?」
「属性調査?」
レイラが聞き返す
「適齢年齢で協会の調査に行けなかった貴族や、特待生ーーー今年はミラ・カノン様でしたっけーーーに行う魔法属性の検査ですね。既に受けている者でも、自分の属性をより詳しく知る良い機会ですね。」
食い気味にエルノアが説明し、レイラは目を丸くしながらも頷き、直後に何か考え込むようにしてぶつぶつと呟き始める
「・・・そうよね。今はまだヒロインは魔力持ちの珍しい平民ってだけで・・・この授業で光属性がブツブツ」
「姉さん?おーい姉さーん」
アシェルがヒラヒラと手を振ってもレイラがまるで反応しない。まるで屍のようだ。
「放置しとけアシェル。こいつはこのモードに入ったら五分は抜けん」
「昔からですわよね。たまに謎単語が聞こますし・・・」
「この集中力が勉強にも活かされたらなぁ・・・」
「苦労してるな、お前も」
「何目線ですの?レオ様」
そこからはレイラの破天荒昔話に花が咲き、いつのまにか、クラスの人数は少し増えている
生徒たちは思い思いの場所で時間を潰し、気づけば時間は八時四十三分を回っていた
そこで、レイラも思考モードから抜け出し、時計を見て少し眉を顰めた
「ちょっと、うちの担任来るの遅いわね」
「そう言えば・・・他のクラスはもう行ったようですわ。足音聞こえましたし」
「んー・・・ちょっと職員室に様子見て来るわね、三人とも」
「場所分かるのか?」
「お気をつけてくださいまし」
「知らない人についてっちゃダメだよ、姉さん」
過保護な友人達の言葉に「分かってるわ」と軽く手を振り、軽い足取りでレイラはドアを開ける
「ひゃっ・・・!」
小さな悲鳴が聞こえ、レイラはその方向を向く
目線の先には、歩み出そうとしてそのまま止まったような、中途半端な姿勢で固まる令嬢がいた。
その令嬢の、ステンドグラスの光で淡く輝く銀髪がレイラの記憶に引っかかり、じっと見つめ、電撃が走ったように思い出す
たしか・・・ーーーー
「もしかしてあなた!昨日のーーー」
「あっ・・・あなたはーーー」
相手も思い出したのか、目には驚きがある
即座にレイラは近付き、その手をガッと握りながら、名前を聞いていないことに気づきながらも勢いでこう言った
「ナンパされてた銀髪のご令嬢!」
令嬢ーーーーエマの顔は、思い切り引き攣った