始まりはじまり
夜。
サイドランプの灯りで、ぼんやりと照らされたベッドの中、エマはぼんやりと思考する
(ナンパなんて・・・生まれて初めてされたなぁ・・・)
ポスっと枕に顔を埋め、うつ伏せのまま、また考える
目を閉じれば、鮮やかな赤髪のレイラ・ギタレスや、遠くで彼女を呼んでいた水色の髪の少女と淡いオレンジ色の髪の少年が浮かび上がる
「・・・・また、会えたら、」
喋ってみたいな。今度は、ちゃんとお互い名乗りあって、
(戦場だと・・・体験出来なかったことばっかりだ)
国のために、自分のために殺すしか無かった戦場と違って、ここは全てが暖かい。
あの人も、これを望んで、戦ってたのかな・・・・ーーー
「ーーーーーあの人って・・・誰だ・・・?」
(・・・・・・・ーーーまぁ)
ゆっくりと、エマの瞼が閉じられる
(・・・・どうでもいっか・・・)
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姿勢良く馬車の席に座るエマの手にはこんなことが書かれている紙が握られていた
〈最初の授業として、“精霊属性調査”を行う。各自、正門前に張り出された教室表から自分の名前を見つけ、その教室で待機するように。〉
昨日入学式が終わった直後に、出入り口で渡されたこの紙。今朝見てみると、今書いているかのように一文字ずつ文字が浮かび上がっていた。
(これが魔法か・・・!)
なんて感動して、文章が浮かび終わった後もしばらく見つめ続けていたぐらいだった。
ぼんやりと外を見ていると、学園へと繋ぐ桜並木が見えて来た。
急ぐように追い越す他家の馬車は多種多様で、中には前面に金箔が貼られているのもあったりして、見てて飽きない。
「・・・・ん、」
桜並木の裏手。殆ど誰も歩かない歩道の上を、誰かが歩いている。
陽光に当たって柔らかく反射する蜂蜜色のボブカットの髪、スラリと伸びた手足に、小柄な体。馬車の中からではイマイチよく見えないが、きっと顔立ちも整っているのだろう。頭の後ろにつけた大きなリボンが特徴的な少女。
(ん〜?・・・どこかで、見た、か・・・?)
記憶の中を探って見ても、それらしい記憶は出てこない。
「・・・ーーーーま、いっか」
いつの間にやらその少女を通り過ぎて、学園の大きな、レンガ作りの正門が見えてくる
だんだんと馬車は減速して、正門の手前に止まった
「お嬢、着きましたぜ」
くぐもった声が外から聞こえて、続いてガチャリとドアが開く
途端に、春の、柔らかな風が頬を撫でる
薄暗い馬車の中に光が入って、私の目は少し眩む
目を細めて、私の二倍はあろうかと言う手を差し出してくれている御者の手を取って、外へと降りる
ニ、三歩馬車から離れて、行っても大丈夫だと合図すると御者は頷いて、もと来た道を走り去って行った
「・・・さて」
同じ制服に身を包んだ人混みの中に入り、私は、門をくぐる
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