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悪役令嬢と出会った

「ーーーであるからして、本校では、国王様の理事の元・・・」

・・・校長の式辞が、頭に入ってこない。

『取り敢えず、か弱いふりをして下さい!』

そう言われても、か弱いふりなどやったこともない。いや、殆どの人間はやったこと無いだろうが

「続いて、特待生の紹介ーーーーー」

ともかく今日は、“か弱い令嬢”を頑張って演じてみよう。

いや何、社交界で見たことない令嬢に進んで話しかける馬鹿はいないだろうし、もし話しかけられても“申し訳ございません、用事がありますので・・・”とか言って退散すればいいだけだ!うん!

「ーーーのミラ・カノンです。分からないことだらけですがどうぞ、・・・」

今日は入学式とクラブ見学しかやらないそうだし、何もせずに真っ直ぐ馬車に向かえば何も問題はない。

なに、聞いてはいなかったが確かこれで入学式は終わりのはず!

「・・・これにて、入学式を閉会致します。」

よし!帰るぞ!



・・・・・うん

「お美しいお嬢様。私と一緒にお茶でもいかがでしょう」

いた。いました。社交界で見たことない令嬢に進んで話しかける馬鹿が。

しかもご丁寧に薔薇まで胸に刺してやがる。学園は多少の制服改造なら許されているらしいが、こんなタキシードのような制服に改造するとは・・・ある意味勇気があるな。あと鏡見て出直してこい。

「・・・すみません。私急いでおりますのでーーー」

「おっと、ならば馬車場までお送り致しましょう。そんな細いお体ではこの人混みの中、大変でしょう。」

こっちは休役中だが軍人だぞ。あと動作がウザい。

「えっと・・・本当に急いでおりますので、そろそろ・・・」

私の笑みも長くは持たない。頼む!

「急いでいるのでしたら是非私の馬車に!速さと乗り心地が自慢でして!」

ああもう話通じないな!どうする?私の表情筋もそろそろ限界だし、さっさと帰りたいし・・・ーーーーーーーこの人混みの中なら・・・体術を使ってもバレにくいのでは・・・?


「・・・・・・」

「ーーー姉さん、どうしたの?」

「レイラさま?見学場所はあっちですわよ。」


「こう知り合ったのも何かの縁。ご興味がありましたら是非我が領地へお越しください!お美しい貴方さまのためなら、どこにでもご案内いたします!」

どこを狙えば、相手を足止めできる?・・・みぞおち、首・・・ーーー(すね)

丁度いいな。足技なら見つかりにくいし、手早くできる。


「えっと・・・用事思い出したから、先行ってて!二人とも!」

「はっ」

「え?」


やるか。

「我が領地には、それはそれは美しい湖がありまして夜には蛍や星が瞬いております!一度でもいかがですか?きっとお気に召してーーーーー」

えっと、骨の辺りを、折らずに後を残さずにーーーーー

「何をしているのかしら。」

「え?」

「ん?」

陽光を通したステンドグラスに、鮮やかな赤色の髪が煌めく

蹴ろうとして軽く浮かせた脚が、中途半端に空を踏む

しつこい軟派男は視線だけを声のした方に向ける

「貴方の目はそこのご令嬢の嫌がってる表情も見えない程悪いのかしら?」

「・・・はぁ?」

あからさまに、不機嫌な声で相手を威嚇している。確か、こうした男性から女性への分かりやすい威嚇はマナー違反だと、授業であったな。

くるりと踵を返して声をかけた令嬢へと近付く

「いえいえ、名も知らぬご令嬢?私はただこの方とおしゃべりしてただけでございまして、そもそも貴族間では男女が仲睦まじく話している時そこを仲裁するのは重大なマナーいはーーーーーーーーーーーーひぃっ!?」

軟派男が青ざめて、二歩三歩と後退りする

「・・・あっ!ーーーそ、ソウイエバーワタシモ用事がアッタンデシター!デワコレ二テー!」

そう言って、軟派男は人混みを掻き分けて走り去っていった。

「フフフ・・・」

振り返れば、さっきの赤髪の令嬢が不敵に笑っていた

「この悪役令嬢レイラにかかればあんな男、楽勝ね!」

どうやら独り言のつもりで言っているようだが、完全に丸聞こえだ。

「貴女、大丈夫だったかしら?」

くるりと、煌めく赤髪を揺らしてこちらを向く

「・・・っ!」

カールした、影を落とす程長いまつ毛。吊り目がちだが、大きくて綺麗な金色の目。スッと通った鼻筋に、薄い、桜色の唇。

同性の私でも、惚れ惚れとするような容姿のご令嬢だった。

「?どうしたの?」

「ぴゃっ!」

しばらくボーッとしていたらしい。ぐいと顔を覗き込まれる

「・・・あ〜・・・・・えっと、だ、大丈夫、です・・・」

うう・・・しばらく使用人や教師達以外と話してなかったから、どう会話していいものやら・・・

「え、ええと!助けて頂いてありがとうございます!」

取り敢えず頭を下げる!

「うわっ!え、いいわよそんな、深々と!」

あわあわと、ご令嬢が慌てる

「と、取り敢えず頭を上げて!あんな状況だったら誰だって仲裁するわよ!」

「そう・・・なのでしょうか・・・?」

緊張でドキドキとなる胸を押さえて、ゆっくり頭を上げる

「・・・・・・・・・・・・・・・・天使か?」

「え?」

「あっ!!ううん、ううん!なんでも無いの!気にしないで!」

「はぁ・・・?」

よく分からないが、まぁ、本人がこう言ってるし・・・

「レイラさまー?そろそろ行かないと遅れますわよー?」

「あっ!エレノア!今行くー!じゃあ、これで!」

「えっあ、はい!」

バタバタと、令嬢は慌ただしく駆けていく

「あ!そうだ!」

少し行ったところで、令嬢が止まって振り向く

「私の名前はレイラ!レイラ・ギタレス!また会えたら!」

そう言い終えると、令嬢ーーーギタレスさんは、また慌ただしく駆けていった。


「あ、」

人気の少なくなった廊下に、エマの声が漏れる

「名乗るのを忘れてしまった・・・」





「姉さんはまーた人を誑し込んで・・・」

「えっ!?誑し込む!?私が!?」

焦ったような声が廊下に響く

「本当、そうですわ。昔っから見境なくそして容赦ない人誑しですもの。」

「エレノアまで!」

うわーん、と泣きそうな顔をして、レイラは左右を歩く義弟(おとうと)と幼馴染を見る

「ふふっ、冗談ですわよ。レイラさま。人誑しなところも、魅力にございます。」

「エレノア嬢の言う通り、姉さんはそのままでいいんだよ。」

訝しげな顔をして、レイラは呟く

「あれ?フォローされてる感じが全くしないぞ・・・?」

そんなレイラを見て、エレノアは面白そうに、義弟のアシェルは愛おしそうに頬を緩める

「ところでさ、姉さん。さっきあのご令嬢見て固まってたけど、どうしたの?」

「あっ!そうよ聞いて!アシェル、エレノア!」

鼻息荒くレイラは語る

「あのご令嬢・・・あー!名前聞き忘れた!ともかくね、あの方、すっっごく綺麗だったのよ!」

「あら、遠目からだと分からなかったですわ。」

「もうすっごいのよ!まつ毛とかファサファサで、唇は薄いけど淡いピンク色で!銀髪と目の色の白に近い水色が綺麗で!一瞬天使がいたのかと思っちゃったもの!」

「そんなに美人なら、一度見てみたいね。」

ふむ、とアシェルは顎に手を当てる

「でも・・・僕社交界であんなご令嬢見たことないよ。遠目でも分かるくらい綺麗な銀髪だったし、姉さんが言うように綺麗なのなら、覚えてるはずだし・・・」

「アシェルさまの無自覚女誑し発言は置いといて、」

「ちょっと」

「私もそのような方はお茶会などは見かけませんでしたわ。目立つ方のようですし・・・」

「じゃあ、誰なのかしら?」

「そうですわねー・・・」

んー・・・と、三人は歩きながら思考する

「なんの話をしているんだい?」

「ひゃっ!!」

ニュッと、唐突に三人の背後から、亜麻色の髪をした目が冴えるような美青年が顔を覗かせる

「て、テオ()()()()殿()()!?」

「やぁ。・・・と言うか、」

爽やかな笑顔を浮かべて、気さくに片手をあげる

「レイラ。第二王子殿下はいらないよ。私と君は婚約者なんだから♪」

ぐい、と割り込むようにしてアシェルとレイラの間に入り腰に手を回し、ニコニコと笑顔を向ける

「気軽にテオと呼んでくれ。」

「は、はひ・・・」

キラキラなオーラが溢れ出る笑顔に圧倒され、思わず返事をしてしまう

「テオ()ぁ〜?姉が困っているようですので・・・どうか少しお離れに」

「そうですわ?いくら婚約者といえども、節度は守って頂かなくては。ねぇ?」

途端に、左右の二人がドスの効いた笑顔でテオを睨む

「あはは。そんなことより、三人とも?」

「はい?」

「「あ?」」

内ポケットから懐中時計を出し、テオは三人に見せる

「急いだ方が、いいんじゃないかな?」

三人は懐中時計を覗き込むと、焦ったような引き攣った顔を見せる

「やば!もう始まる時間じゃない!」

「いいい急ぐよ姉さん!」

「走りましょう!」

「あはは〜さ〜、急げ急げ〜!」

「なんであんたも着いてくるんだ!?」










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