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出発

換気のためと、開け放した窓からまだ少し冷たさの残る風が吹き、淡いピンクの花びらが、床に落ちて滑り、大きな姿見の前で前髪やら制服の皺をやたらと直して、ソワソワと落ち着かない様子の少女の足元に落ちる

「・・・・・ーーーお嬢様」

見かねたように、二人のメイドが声をかける

「いつも通り、大変麗しゅうございます。ですからこれ以上前髪を直すと薄くなりますよ。」

「服も引っ張りすぎるとそこが皺になっちゃいますよ。」

「・・・・うぅ」

後ろで丁寧に一本に編み込んだ銀髪を揺らして、少女は不安気な双眸を二人に向ける

「だ、だって・・・貴族の学校なんて生まれて初めて通うし、第一見た目だってそこまで令嬢っぽくないし、学園には私より綺麗な人達なんて五万といるだろうし・・・・」

ふー・・・と、これみよがしな溜息が聞こえる

「そう言われるだろうと、旦那様が見越してこんな物を預かっています。」

もう一人の金髪のメイドがゴソゴソと懐を探って綺麗に包装された箱を取り出す

差し出されて、少女はそれをそろそろと受け取る

「これは・・・?」

「中身は私達も知らないのですが、開ければ分かると・・・」

怪訝な顔をしながら、少女は包装を丁寧に剥ぎ取り、箱を開ける

「・・・これは」

中身は、細かなレースをあしらった、可愛らしいデザインのカチューシャだった。

「あら、お嬢様に似合いそうな淡い紫」

「繊細なレースがエマ様の美貌を引き立てますね。」

「クロエ、エマ様じゃなくてお嬢様でしょう」

「ん、すまんアメリア」

「・・・・・」

カチューシャを手に取って、じっとエマは見つめる。

心なしか、目は輝いていた。

「・・・つけて見ては?お嬢様」

「え」

「それ、多分オーダーメイドですよ。」

「えぅ」

変な声しか出ない。それもそのはず。生まれてこのかた、エマはこういった装飾品を身につけたことが無いのだ。

「・・・・・」

ぐっと、覚悟を決めたように姿見に振り向き、カチューシャを頭につける

「(・・・ヴェアル様にこのようなセンスがあるとは驚きですね)」

「(いや多分写真渡してコイツに似合うやつ作れって言ったんだと思うぞ)」

この二人が、そう耳打ちして言ってしまうぐらいに、そのカチューシャはエマにピッタリと似合っていた

「・・・ど、どうだ・・・?」

「すっごく似合っています。」

「最高です。」

真顔でそう言われ、エマははにかむ

「さ、入学式への準備は万全!」

「お嬢様はさらに美しさと可愛さを足されたところで、」

いつの間にか、二人はエマの背後に回る

「「時間がギリギリですので、速く馬車に向かいましょう!」」

「え?あ、ちょ、自分で歩くから、離してくれぇ〜!」

両脇からがっしりと掴まれ、凄い速さで引きずられていく。

抵抗せずに引きずられることにしたエマは、すっかり逞しくなった部下ーーーもといメイドに、嬉しさを感じた



ヴェアル家正門前


「いいですかお嬢様。貴族の男どもに絡まれたら何もせずに逃げの一択ですよ」

「なんか高飛車で取り巻きいっぱい連れてる令嬢を見たら、目を合わす事なくその場から退散です」

「わ、分かってる、分かってる・・・」

何か別の心配をしているメイド二人に苦笑する様子を見て、馬を撫でていた筋骨隆々の御者は笑う

「はははっ心配しすぎだぞ双子メイド。おじょーさまなら揉め事の一つや二つーーーーーーあー、そういやぁそうだったな・・・」

思い出したように御者は顎に手を当てる

「えっ、なん、なんなんだ」

「あ、そういえばお嬢様」

「ん?」

()()を伝え忘れていました。」

「設定?」

「はい。」

御者席に乗り込む

「お嬢様はこれまで、“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()調()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”」

「と言う設定なので」

「・・・へ?」

体は健康そのもの。

戦場帰りの軍人。

そもそも貴族ではなく元・平民。

ヴェアル家の養女以外、何一つとして合ってはいないその設定は

「ーーーーーーはぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああっっ!!!!!??????」

エマを乗せて遠ざかる馬車からでも、聞こえる程の絶叫をさせるには十分だった




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