属性調査 その四
「君は、あの輪の中には入らないのかい?」
「・・・ーーーえ」
横から聞こえた問いに、エマは思わず振り向く
いつの間にいたのか、背の高い教員が隣でもたれかかっていた。
亜麻色の髪に、顔の横に垂らした短い三つ編みがゆらりと揺れる
「ほら、あそこ」
長い指を立てて指差す方向を見れば、ファンであろう女子生徒たちに囲まれて身動きが取れなくなっているクレアに、その横で牽制するアシェルと、何故かノリノリで列整理をしているエレノアの二人に、助け船を出そうとして人混みに弾かれるレオがいる
「さっき、一緒に行動していただろう?」
濃い、紅い瞳に見つめられ、目を逸らしながら答える
「・・・今朝知り合ったばかりです。それにーーー」
困り果てた顔をしながらも、どこか楽しそうなクレアを見て、エマは言う
「私はまだ、あの輪には入れない」
「・・・ーーそう」
エマの答えを聞き、淡く微笑むと、教員はスッと壁から離れる
「君の答えが何にせよ、教師は生徒を応援するよ。」
そう言って、彼は優雅にお辞儀をする
「僕の名前はリヴァイ、リヴァイ・スレイズだ。担当は魔術史と実技。気軽に“リヴァイ先生”と呼んでくれ。」
「・・・私の名前はエマ。エマ・ヴェアルでございます・・・・以後お見知りおきを、リヴァイ先生」
若干の警戒を残しつつ、エマもこの一年で磨かれたカーテシーをする。
「うん。よろしく、ヴェアルさん。」
虫も殺さぬような穏やかな笑顔を向けた後、リヴァイは踵を返して、教師達が集まる中央へと去っていく
「・・・学園生活は一度きりだ。今を楽しんで」
過去なんて、霞むぐらいに。
去り際に、そう呟いた声は、賑やかな声に掻き消されエマの耳に届くことは無かった。
…………………………………
リヴァイが去り、またぼんやりと周囲を見ていると、矢庭に講堂の中央が明るくなる。
その光が弾け、雪のように舞った
『皆さん、こちらに注目して下さい。』
声が聞こえる方を向けば、エミリーが拡張機片手に喋っている
その隣では陣に魔力を込めてすぐなのか、地面に膝と手をついて激しく息を切らすソフィアがいた
『これから属性調査を行います。クラスごとに一人ずつ呼ばれますので、すぐに来てもらえると助かります。では、まずはDクラスからーーーエブリン・レーネス!』
「はっはい!」
上がった声で返事をした少女が、中央へと向かっていく
「魔法陣の中央にある水晶に手を触れて、自身の魔力を込めてください」
「・・・はい」
ゆっくりと進んで、緊張で震える手を水晶に置き、エブリンは魔力を流し込んだ
流された魔力が水晶の中で渦巻き、星屑のように輝く
「・・・ん」
ふわりと、遠く見ていたエマの頬に風があたる。
瞬間、魔法陣を中心に、強く渦巻く風が巻き起こる
風の音の中に、鈴を転がすような小さな笑い声が混ざる
次第に突風は、エブリンの手のひらに収束され、溶けるようにして、体の中へと消えていった
水を打ったように、辺りが静まり返る
「成功、おめでとうございます。風の中位精霊ですね。少々イタズラ好きそうなので、扱いに気をつけて」
そう言ったエミリーの声に、会場の空気の緊張が解ける
『このようにして行います。この儀式の別名は精霊召喚ですね。自身の生涯のパートナーを探す儀式なので、くれぐれも粗相のないように!』
では次に・・・とエミリーはどんどん生徒の名前を呼んでいく
召喚で、精霊が現れる現象は実に様々だった。
炎ならば、召喚者で色が変わり
風ならば、突風が吹き髪を逆立てたり
土ならば、泥が人型を作って優雅にお辞儀したり
水ならば、霧雨のような水が虹を作り、
金ならば、煌びやかな宝石の幻が湧いたりした。
そして、事件はやってくる
「次!Bクラス、ミラ・カノン!」
「はいっ」
少し、周囲がざわつき始める
耳をすませば、彼女が例の特待生らしい。
(あれ、朝見た・・・)
エマも周りに釣られるように彼女の召喚を見守る
表情はこの位置からだと見えない。
水晶に手を触れ、魔力を込めていく
チリン
「ん」
(今、鈴の音が聞こえたような・・・)
柔らかな鈴の音が、辺りを包む
何事かと周囲も見回す中、鈴の音はさらに増え、はらりと金色の雪が降ってくる
教師達も困惑する中、ミラだけが静かに、水晶に手を置き佇んでいる
その雪はミラを中心に渦を巻いていく
一つ一つが体に溶け込むように消え、その背に真っ白な羽根が生まれていく
誰もが息を潜め、その様子を見ていた
羽根は爆発的に増え、どんどんその形を作っていく
現れたのは、二対の白い翼
その姿は、まるで天使のようだった
本当に不定期で申し訳ありません。頑張ってます。