第八話「フィール」
朝日が草原を照らす。わたくしは東の森へと進んでいった。その森はフィールが逃げ込んだと思われる場所であり、わたくしの運命の舞台でもあるのだ。
森の中は薄暗く、神秘的な雰囲気に包まれている。枝葉がざわめき、足元にはフィールの気配が漂っているように感じた。
「フィール! 出てきなさい!」
声が森に響き渡る。しかし、応答はない。フィールは逃げ腰になっているのだろうか、それともジーニアス同様、罠にはめようと待ち構えているのか。
わたくしの胸は高鳴り、決意が揺るがないことを自覚した。
足音を消して森の奥へと進むと、やがて不気味な光が見えてきた。その光は闇の中で煌めき、怪しい輝きを放っている。わたくしはそれが魔法陣の光だと確信し、急いで近づいた。
辿り着いた先には予想通り、奇妙な魔法陣が描かれていた。その魔法陣からは邪悪なエネルギーが満ちており、フィールの存在を感じることができる。
「フィール! あなたの企みもここで終わりよ! 出てきなさい!」
わたくしの声が響くと、闇の中から冷笑が聞こえてきた。
「ふふふ、何も知らない元公爵令嬢様が偉そうに……」
フィールの声が響き、同時に魔法陣が光り輝いた。わたくしは決意を新たにし、心の奥から力を引き出して身構える。
「あなた、わたくしの正体を――はっ、もしかしてフィールってあの……」
わたくしの声が響くと、森の奥からフィールが姿を現した。彼……いや、彼女は不敵な笑みを浮かべ、闇の力を纏っていた。
「そう、アルティ。私はアイデンシテンの上級魔術師であり、王室魔法師団の一人よ!」
フィールは高笑いをしながら近づいてくる。
わたくしはフィールの姿を見つめながら、彼女の言葉に驚きを隠せなかった。王室魔法師団の一員であり、上級魔術師としての力を持つなんて予想以上に重要な存在だったからだ。
「フィール、なぜこんなことをするの? なぜ村人たちを苦しめ、国を滅ぼそうとするの?」
深い悲しみを込めて問いかけるが、フィールはそれを一笑した。
「アルティ、私は魔法師団に属していた頃、制約され、束縛される日々を送っていたの。私はそれに満足できなかったのよ。私は自由を求めたの。そして今、その自由を手に入れたのよ!」
苦悩の表情を浮かべ、フィールは言葉を続ける。
「でも、その自由は簡単に手に入れられたわけじゃなかったわ。私は多くの犠牲を払わなければならなかったし、その犠牲は私の心に深く刻まれたの。でも、それでも私は自分の望みを叶えるために戦ったのよ!」
フィールの言葉にわたくしは深く考え込んだ。彼女の過去については何も知らないし、なぜこのような行動に出たのかもわからない。だが――
「フィール、わたくしはあなたの過去なんて知らない。でも間違っているのは分かるわ。村人たちはあなたのせいで苦しんでるし、国が滅ぼされるということは、多くの人々が亡くなることになるわ!」
わたくしの言葉にフィールは再び冷笑を浮かべた。
「国家なんて、ただの虚像に過ぎないわ。それに、村人たちが苦しむのは私のせいじゃない。彼ら自身が弱いから苦しんでいるだけよ。それに――」
フィールはこちらを見つめて、にやりと口角を上げる。
「王子殿下を恨んでいる元公爵家令嬢様に言われたくないわね。貴女、復讐を考えてるんじゃなくて」
「……っ!?」
動揺を隠せなかった。彼女の言葉が事実であることに抗えない気持ちが胸に広がっていく。
「それは……」
わたくしは自分の心の中を見つめながら、フィールの言葉に思いを馳せる。確かに王子殿下への憎しみはある。しかし、それが自分をここまで追い詰める原因になるなんて思ってもいなかった。
「わたくしは……」
言葉が詰まる。わたくしの今の原動力は王子殿下に復讐をすること。それは復讐が終わるまで変わらないだろう。だが――
「私は過去の憎しみに囚われず、自分の心の中にある正義に従うことを選ぶわ。あなたが自由を求めることはわかるけれど、他の人々の命を奪うことではなく、助け合いの中で自由を見つけるべきよ!」
フィールはわたくしの言葉に微笑みながら、冷静さを保ち続ける。
「それは貴女の考えだけど、私にとっては過ぎ去ったものよ。私はこの闇の力を手に入れ、新たな秩序を築くの。あなたには理解できないだろうけど、それが私の望みなのよ!」
わたくしは悲しみと決意を抱え、フィールに対峙する。
「もし貴女が本当に自由を手に入れたいなら、他の人々を巻き込むべきじゃないわ。自分自身の闇と向き合ってみるべきよ。わたくしはあなたを止める覚悟でここに立っているわ!」
フィールは苛立ちを覗かせつつ、自身の闇の力をさらに纏っていく。
「そういうことならアルティ、私と戦ってみなさい! どちらが正しいのか、白黒はっきりさせましょう!」
わたくしたちの間に緊迫した沈黙が広がる。森の中で闘志と覚悟が交錯し、運命の舞台が幕を開けようとしていた。




