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第七話「毒の魔法」

 わたくしたちはサラディン村へと全力で走った。このままでは大勢の犠牲者が出る。それだけは絶対に止めなくてはならない。


「くそっ、こんなことになるとは……」


 ベルセウス王の表情は険しくなっていた。しかし、わたくしたちは決して諦めず、足を前へと進み続ける。途中追手に追いつかれそうになるが、その都度わたくしが魔法で撃退した。


「数が多すぎます! このままでは村に付く前に魔力が――」

「仕方ない。ここは俺たちに任せてお前らは先に行け!」


 ベルセウス王が急に声を張り上げると、手に持っていた矛で同時に数体の敵を素早くなぎ倒した。わたくしたちは驚きつつ、その場に足を止める。


「ベルセウス王、でも……」

「大丈夫だ。お前たちが先に行ってくれれば、俺たちもすぐに追いつく! それに俺がここにいたほうが、敵を引き付けることができるだろう!」


 ベルセウス王の言葉に、わたくしたちは頷く。ここで時間を浪費していては、村に魔法を使う者が到着してしまう可能性があるのだ。なら誰かが囮になって敵を引き付けた方がいい。その一番の適正があるのは王であるベルセウスだ。


「ごめんなさい。どうかご無事で!」



 わたくしとジーニアスはすぐに村に向かい、ベルセウス王たちは敵を引き付けるために戦い続けた。



 * * *



 村に到着すると既に多くの人々が倒れ、もがき苦しんでいた。どうやらフィールが魔法を使い、村人たちを攻撃しているらしい。わたくしたちは緊張しながら、元凶を探し出すために動き始めた。


「くそっ、遅かったか!」

「大丈夫ですか!? 今回復を――だめ、解毒魔法じゃ治らない!」


 広範囲に効果のある解毒魔法を掛けたが、誰一人として回復はしなかった。実験書に記されていた通り、解毒魔法では治らないようだ。


「なら本人に聞くしかないな!」


 そのままジーニアスは走り出す。心当たりがあるわけではない。ただじっと立っていられないのだろう。


「ちょっと、ジーニアス! 待って!」


 わたくしも追いかけるように彼の後を追う。このまま一人にしておけば、ジーニアスまで失ってしまいそうだ。それだけは絶対に嫌だ。



「ジーニアス、いったいどこに」


 彼を途中で見失ってしまい、途方に暮れる。いったいどこに行ったのか。


「まずい。このままでは村人たちが死んでしまう。それにジーニアスだって、足止めをしてくれているベルセウス王だって――」


 早く、早くどうにかしないと……


 また一人になってしまって心細くなる。ジーニアスたちと出会ってからまだ日が経っていないが、それでも一人じゃないという安心感があったのだ。得たものが無くなるとこうも虚無感が襲ってくるのか……なんて辛いのだろう。失いたくない。絶対に。絶対に見つけ出して――


「勝手に独断専行したことを叱ってやる」


 そう、ジーニアスをわたくしは怒らなければならない。だから絶対に死なれたら困る。困るのだ。必ず見つけ出して彼に説教をしなければ……


「だからどこに行ったのよ! レディを一人置いて行くなんて最低よ!」


 理由が理由とは言え、放っていくなんてほめられたものじゃない。いったいどこに行ったのか。


「もしかして、ベルセウス王の城にいったのかしら?」


 城と言ってもただの一軒家だが、そこに向かったのかもしれない。わたくしはジーニアスがベルセウス王の城に向かった可能性を考えた。そう思いつき、急いで城へと走る。途中で村人たちが苦しんでいる姿を見ながら……胸が痛む思いだったが、解毒方法がない。今はとにかくジーニアスとフィールを見つけることが最優先だ。



 一軒家に到着すると、辺りは静まり返っていた。普段は賑やかなはずの屋内は静寂に包まれている。わたくしは心臓が高鳴る中、探索を始めた。


「ジーニアス! どこにいるの?」


 声を張り上げながら、わたくしは探し回る。しかし、ジーニアスの姿はどこにも見えない。慌てて王の寝室に向かってドアを開けると、そこにはジーニアスの姿があった。


 彼はベッドに寝そべっていた。その顔色は悪く、汗をかいているように見える。わたくしは一瞬にして彼の様子に気付き、駆け寄った。


「ジーニアス、大丈夫!?」


 彼が苦しそうに頷くと、わたくしは安堵した。少なくとも命に別状はないようだ。しかし、彼がなぜここにいるのか、なぜ体調が悪いのかはまだ分からない。


「奴は東に……」

「どうしてここにいるの!? いったい何があったの!?」


 慌てふためくわたくしの問いに、ジーニアスは辛そうに答えた。


「フィールを追い詰めたはずだったんだ。でもそれは奴の罠で……追い込んだところに毒の魔法陣が敷いてあって、それで――」


 ジーニアスの言葉に、わたくしは驚きと悔しさを感じた。フィールの魔法ということは解毒方法はない。今は無事でもこのままだと彼は……


「ジーニアス、どうして一人になってしまったの? 私も心配で追いかけてきたのよ」


 彼が反省の色を浮かべながら話す。


「治療法のない毒なんて万が一アルティが浴びてしまったら大変だろ。だから俺一人で解決したかったんだ……」

「ジーニアス……」


 わたくしはジーニアスの言葉に胸が締め付けられる。彼の真摯な気持ちに心打たれると同時に、そうさせてしまう無力な自分が許せなかった。


「ジーニアス、ありがとう。あとはわたくしに任せて休んでいて」


 わたくしは優しく彼の手を握り、励ましの言葉をかける。


「無理をさせてすまない……悪いが、お前に全てを託す。フィールを止めて、村人たちを救ってくれ」


 ジーニアスはわたくしの手を強く握り返し、ゆっくりと目を閉じる。


「約束します。あなたが苦しむ間、わたくしがフィールを倒し、解毒の方法を絶対に見つけます!」


 わたくしは決意し、ジーニアスのそばから離れる。彼の休息を守るために、フィールとの戦いはわたくしひとりで臨む覚悟があった。


 外に出ると、まだ村人たちが苦しんでいる光景が広がっていた。わたくしは急いで手を合わせ、祈りを捧げた。


「大地の力よ、私に勇気と力を与えてください。フィールの邪悪な魔法を打ち破り、村人たちを救いたいのです」


 そう言いながら、わたくしの手には闘志が宿った。決して屈しない意志で、フィールに立ち向かう覚悟があったのだ。


 この国のため、村人たちのため、ジーニアスのため、そして自分自身のために。


「フィール! 絶対に許さないから! 王子より先にあなたに復讐させてもらうわ!」




 わたくしは胸に炎を燃やし、フィールの逃げた東へと進んでいった。決して負けるわけにはいかない。



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