第五話「潜入開始」
「「忘れてただぁ!?」」
呆れたように溜息をつくベルセウス王とジーニアス。仕方がないじゃないか。先のことを考えすぎて、現在のことを忘れていたのだから。まあ断られると思っていたので、少し安心していたけど。
「もっ、申し訳ございません。今すぐ説明します!」
慌てて謝罪し、頭をフル回転させる。復讐のためにやるべきことは、小さなことから着実に実行していくこと。いきなり本丸に攻めるのは自殺行為だ。だから今やるべきことは――
「先にベルセウス王国にあるアイデンシテンの拠点を攻めに行きます!」
そう、まずこの国から救わなければならない。じゃないとアイデンシテンを攻略する時に内側から落とされかねない。そうなってはベルセウス王は自国の守りで手を貸せなくなってしまうだろう。そうなっては復讐どころじゃない。
「だな。俺もそれを懸念していた」
ベルセウス王も頷く。やはり彼も気にかかっていたようだ。
「では拠点制圧から始めましょうか。この国の地図はありますか?」
「あるよ。ちょうど作戦に使っていた地図がね」
ジーニアスが懐から地図を取り出す。ただの農家だと思っていたが、彼も兵士なのだろうか?
「ジーニアスって農夫じゃなかったのですね」
「いや、ただの農夫だよ。この国は見ての通り小さな村の集合体みたいなものでね。人手不足だから村の大人は女含めてみんな兵士なのさ」
なるほど、それは大変なことだな。
「早く、平和になるといいですね」
そのためにはまず、この国にあるアイデンシテンの本拠地を叩くことだ。地図を確認すると本拠地の他に中継拠点がいくつもあった。小さな島の実に半分を敵国が埋めていた。
「だいぶ攻め込まれているのですね」
いかにこちらが力不足なのか、一目で理解できる地図だった。
「この攻め込まれた村の人々は死ぬまで休みなく働かされているらしい。食料もろくに与えられずにな」
「そんな酷いことを……」
知らなかった。我が国がこんな独裁者みたいな酷いことをしていたなんて……
「わたくしが憎くないのですか? アイデンシテンの公爵家の令嬢ですよ」
「関係ないよ。俺たちはそんな差別なんてしない。この国で悪さをしない限りみんなウェルカムさ」
「だな。訳アリの奴が辿り着く島だ。そんな差別なんてしてたら国がもたねーよ」
「……ありがとうございます」
なんて優しく懐が深い人たちなんだろう。わたくしは復讐を考えているだけだというのに。自分が恥ずかしくなってくる。
「頑張りましょう! 早く苦しみから解放させてあげないと!」
「そうだな。今から俺たちはこの国を救うために行動するんだ。そしてアイデンシテンを倒すことが、この国に平和を取り戻す近道になる。だから一緒に戦ってくれるか?」
ジーニアスが真剣な表情で訊ねる。
「はい、お手伝いします! 私にできることがあれば何でも言ってください!」
私は力強く答えた。これからやることはわたくしの復讐ではない。我が国の汚物処理みたいなものだ。絶対に綺麗にしてみせる。
「感謝する。まずは中継拠点を制圧するとにするが、用意はいいか?」
ベルセウス王がわたくしたちに問いかける。
「はい、準備は完了しています!」
「わたくしも行けます!」
ジーニアスとわたくしが返事をする。
「それでは出発だ!」
ベルセウス王の合図と同時に荷物を持ち、地図で一番近くにある村を目指してわたくしたちは出発した。この先にあるのは敵の拠点だ。気を引き締めて向かわないと。
* * *
サラディン村から一番近くにある敵の拠点【ミラダ村】、ここに付いたのは夜だった。しかし、夜だというのに真っ暗闇の中で働いている人たちがいる。誰もが無表情で、疲れ切った様子で仕事をしていた。アイデンシテンの支配下にある村の人々はみんなこのような仕打ちを受けているのだろうか?
「こんなにも苦しんでいる人々がいるのに、何もしなかった自分が情けなくなりますね……」
知らなかったとはいえ暢気に復讐を考えていた自分に嫌気が刺してくる。
「あまり気に病むな。俺たちは今ここでやるべきことをやるだけだ」
自分自身を責めていると、ジーニアスがやさしく声をかけてきた。
「でも、それでも……」
「何かできたのではないか?」と口にしようとすると、彼がそれを手を振り止めた。
「お前が復讐を果たすことができれば、このような村の人々も救われる。そして俺たちがそれを実現するために戦おうとしているんだ。だから、もう少し自信を持て」
「復讐を果たす……」
そうだ。この戦いは復讐のためにやるのだ。そう、復讐である。わたくしはこの者たちの代わりにも復讐をしよう。この者たちの怒りも、悲しみも、嘆きもすべて貰い受ける。そしてそのすべてを、元凶であるアイデンシテンへと放ってやる。復讐という名の特大な魔法をね。
ジーニアスの言葉に、わたくしは気持ちを奮い立たせることができた。そう、今できることをやればいいのだ。それが結果的に彼らを助けることになるのだから。
「行きましょう。この先に村に似つかわしくない大きな屋敷が見えます。おそらくアレがこの拠点の主でしょう」
わたくしが指を差した方向に、ジーニアスとベルセウス王が目を向ける。
「確かにあの屋敷はこの国のセンスじゃねぇなあ」
「明らかに怪しいな」
二人も同じ意見のようだった。
「あの屋敷は……俺が逃げる時は無かったはずだ」
ベルセウス王についてきた部下の一人が答える。彼はミラダ村から命からがら逃げてきた者の一人だ。
「正解のようだな」
「ではあの屋敷を中心に攻めましょうか」
一同は屋敷を目指して進むことに決めた。屋敷には厳重な警備があり、進むには慎重な行動が必要だった。
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