第三話「作戦開始、即終了」
「復讐だと?」
ベルセウス王の表情が一気に険しくなった。そりゃそうだ。いきなり復讐の手伝いなんて切り出されたら誰だってこういう表情になるだろう。隣にいるジーニアスは目を見開いて驚いているが。
わたくしは怯まずに言葉を続けた。
「はい。復讐です。わたくしは我が国であるアイデンシテンに復讐がしたいのです」
わたくしは王にすべてを話した。といっても【下民を小馬鹿にしたら島流しにされた】という数行で終わるような単純な話だが。
「そんなくだらない理由で島流しに……」
ジーニアスは悲しげな表情で呟いた。わたくしもそう思う。でも事実だ。だからわたくしは復讐を誓った。
「そうか……」
ベルセウス王は静かに言ったあと、少しだけ無言になった。
「たしかに我が国とアイデンシテンは敵対関係にある。今日だってシリカ海岸にまで来たアイデンシテンの船団をどうしようかと考えているところだ。だがな……」
王は真剣な表情で語り、わたくしは恐縮しきりだった。
「復讐というのは大きな言葉だ。一つの個人的な出来事を国家間の敵対関係に持ち込むのは適切ではない」
――やはり駄目だったか。と諦めていたところに、ベルセウス王はさらに言葉を続けた。
「しかし、それでもお前が復讐を望むのであれば、その手助けをすることはできる。ただし、やり方には注意が必要だ。俺たちの国家間の問題とは直接関係のないことに限る……そうだな、あくまでも俺の軍の兵隊として働いてもらおうか。そうすれば自然とアイデンシテンとも戦うことになるだろう。直接ではないとはいえ、これなら復讐ができるのではないか? 時間はかかるだろうが」
王の言葉に少し驚きながらも、わたくしは感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。たしかに条件としては少し厳しいものになるが、かなり譲歩してくれてのことと分かるからだ。普通ならばこんな島流しに遭うような危険な小娘の復讐話なんて門前払いされるのが関の山だろう。
「ありがとうございます、陛下。わたくしは、どのようにお役に立てればよろしいでしょうか?」
わたくしは真剣な表情で問いかけた。
「そうだな……早速で悪いが、シリカ海岸に出現したアイデンシテンの偽装海賊船を追い払ってもらおうか。必要であれば兵は貸してやる。もちろんただ追い払うだけじゃないぞ、偽装してある海賊船だったという証拠も持ってくるんだ」
「証拠ですか?」
「何でもいいから奪ってこい。なぁに、奴らは海賊だ。海賊の物を盗っても誰も文句は言わねぇから気にするな」
「えっ、ええ。わかりましたわ。わたくしがその船団を追い払って、無事に証拠を持って来てみせます」
そう述べるとベルセウス王はにやりと笑って、「頼むぜ、元公爵家令嬢様」とわたくしの肩を叩いた。
こうしてわたくしはベルセウス王国の魔導士として、我が国アイデンシテンと戦うことになったのである。
* * *
「ここは……」
驚いたことに、シリカ海岸とはわたくしが海賊船を発見した海岸のことだったようだ。まさかあの船が我が国の偽装船だったとは……
「アルティ、本当に一人で大丈夫なのか?」
心配で付いて来てくれたジーニアスが訊く。ここまで親切にしてくれるとは、余程の世話焼きなのだろう。大変助かるが彼の今後が心配である。
「ええ、大丈夫です。それよりもジーニアスたちはここで、その時が来たら動けるように構えていてください」
ベルセウス王がよこした数十人の兵士と、ジーニアスに告げる。隠れるようにみんな伏せながら頷いた。
「ああ、わかった。アルティが魔法を使ったら一気に攻めさせてもらう。だから――」
「わかっています。何かあったらすぐに逃げますので」
いまだにわたくしの身を案ずる彼に伝える。それでもまだ気にかかるのか、表情は暗いままだった。
「では、行ってまいります」
ジーニアスの心配をよそに、わたくしは一人でシリカ湖へと降りていった。
* * *
真珠のような綺麗な砂浜に足を踏み入れる。一歩踏み出すごとに宝石が音を立てているような綺麗な足音がした。目の前で荷下ろししている海賊船がなかったら、かなりの絶景スポットだっただろう。そう思うとこの船、かなり邪魔である。早く排除しなくては。
「おいお前、何者だ? そこで止まれ」
荷下ろしの警備をしていたのか、一人の男に呼び止められた。どうみても構え方が海賊のそれではなく、訓練された兵士のようなものだ。やはりこの海賊船は偽装船か。ベルセウス王の言っていたことは本当だったようだ。よく見ると作業している海賊の中に見覚えのある者もいた。名前までは知らないが、我が国の兵士であることは確かだ。
「わたくしはヴィヴィアンと申します。あなた達を排除するために参りました」
「はっ? なんだって?」
念のために偽名を使って名乗り出る。あとは作戦開始だ。
「では失礼します。【アイスエイジ!】」
「へっ? ちょっ――」
最上級の氷魔法を唱えると、船と海が一瞬にして凍り付いた。高度な魔力コントロールによって、人だけが凍らずにその場に立っている。
「なっ!? 船と海が――」
「凍っただと!?」
周りから驚きの声が上がった。見学していたジーニアスたちの声も聞こえてくる。そんなに大声を出してちゃ隠れているのがバレてしまうだろうと思うのだが、船から上がる悲鳴によって何とか上手く掻き消えてくれた。
「よしっ、あとはジーニアスたちに任せて、さっさと逃げましょうか!」
わたくしはこの場を離れて、ジーニアスたちの援護に回った。




