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第二話「ベルセウスの王」

「元公爵家令嬢? 流刑者?」


 ジーニアスが驚いたように目を見開いた。そりゃあいきなり目の前に元公爵家の令嬢が現れて、さらに流刑者なんて言われたらこういう反応になるか。


「そうです。わたくしはかつて公爵家の娘として育ちましたが、ある事件がきっかけで流刑者となり、今は無人島を探検する旅をしています」


 その事件がただ殿下の惚れた相手をいびっただけなんて説明しても信じて貰えないだろうな。というか情けなくて口にできない。


「そうか……」


 顔を伏せながら同情するジーニアス。今までの行動から、本当に優しい人なんだろう。


「でも、今はそれを後悔しているわけではありません。むしろこの旅で自分自身を見つめ直し、新たな自分を発見したいと思っています」


 わたくしは意気込んで語る。復讐を忘れたわけでは無いが、嘘ではない。この島は本当にいいところなのだ。治安が悪いのがいまだに信じられない。なにか原因があるのだろうか?


 話を聞いて、ジーニアスはしばらくわたくしを見つめた後に口を開いた。


「……アルティ、もし何か手助けが必要なら、ベルセウスの王様に会った方がいい」


 突然彼が切り出した提案に驚愕する。


 わたくしがこの国の王様に? いいのだろうか?


「でも、わたくしは流刑者です。王様にお願いするなんてできません」


 少し悩んだ後にこう答えた。海賊たちが築いたとはいえ、国の王様だ。今はただの犯罪者になったわたくしが頼れるわけがない。


「そんなの関係ない。前にも話したが、この国は海賊たちが築いた国家だ。犯罪者だなんだのなんて差別しない。まあ、この国で犯罪を犯したらその限りではないが、あんたは何もしていないだろう?」

「確かに、何もしていませんけど……」


 この島に辿り着いてやったことといえばサバイバルくらいだ。生きるのに精いっぱいで犯罪なんてする暇がなかった。


「それにあんたみたいな美人を放っておいて危害が加わったとなっちゃあ、俺が責任を取らなくちゃならなくなるしな」


 そう言って彼は笑った。その笑顔が眩しくて、顔が熱くなってしまう。


「どうしたんだい?」

「いえ……なにも……」


 そんな彼に戸惑いつつ、わたくしは頷いた。


「わかりました。王様に会うことができるかどうかはわかりませが、行ってみます」

「それがいいよ。俺も付いていくからさ」

「一緒に来てくれるんですか?」

「ああ、案内ついでに行ってやるよ」

「ありがとうございます。それでは、よろしくお願いいたしますね」



 ジーニアスの提案に従い、わたくしは王がいるというサラディン村へと向かった。村に王がいるとは、島国というのはこういうものなのだろうか?



 * * *



 村に付くと、一番大きな一軒家へと案内された。


「ここに、王がいるのですか?」

「ああ、そうだよ。立派な城じゃなくて驚いたろ。うちの国は城を作る技術も資源もないからな」

「そうなんですね」


 わたくしは驚きを隠せなかった。それもそうだ。いくら技術がないとはいえ、こんな民家のような家に王を住ませるとは……いったい何を考えているのだろう。


「立ち止まってないで早く入ろうぜ。日が暮れちまう」

「え、ええ……」


 わたくしの思いを知ってか知らずか、ジーニアスはそのまま王の間だという大きな戸の前で立ち止まり、ノックをした。


「誰だ」


 中から中年男性らしき男の声がする。


「ベルセウス王、ジーニアスだ。入ってもいいか?」


 彼が名乗り出ると大きな足音がして、中から黒いひげを生やした中年の男性が顔を出した。


「おお、久しぶりじゃねーか! 隣にいるのはお前の女か!?」


 このマナーのなっていない男性がベルセウス王なのか?


「いえ、わたくしは彼の知り合いで、ベルセウス王にお願いがあってやってきた者です」

「俺にお願いだと?」


 やはり王だったらしい。随分と国王らしくない人だ。ジーニアスが言っていた【期待しないほうがいい】という意味がようやく分かった。


「……まあいい。とりあえず中に入れ。話だけは聞いてやる」


 ベルセウス王はわたくしたちを招き入れる。部屋には豪華な調度品が並び、床には絨毯が敷かれていた。そして一番奥に置いてある一段と派手な椅子に彼が座る。一応王座は置いてあるようだ。


「それで、話というのは?」

「はっ、はい」


 先ほどとは打って変わって、真剣な表情になるベルセウス王。第一印象との大きな違いに思わず戸惑ってしまった。


 どうするべきかとわたくしは考える。お願いはもちろん一つしかない。それは復讐の手助けをしてもらうことだ。でもそんな個人的なことを王に頼んでもいいのだろうか? わたくしをここまで連れて来てくれた彼もまさかこんな頼みごとをするとは思っていないだろうし。


「黙り込んでどうしたんだ? まさか冷やかしで来たわけではないだろうな?」


 表情が険しくなるベルセウス王。まだ数十秒程度しか経っていないのだが、見た目通り短気なようだ。これは早く決断しないといけないな。


 隣で心配そうに見つめるジーニアスを尻目に、わたくしは意を決して口を開いた。




「わたくしの復讐の手助けをして下さい」



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