第十話「決着」
「ゲホッ、あなた、いいの? このままわたくしが死んだらそこから一生出られないかもしれないのよ」
咳き込みながら問う。これではまるで自爆のようなやり方だ。
「いいわよ別に。この島で一番の戦力は貴女でしょう? あなたを倒せるなら私の命なんて惜しくないわ」
「イかれてるわね」
「ありがとう。誉め言葉として受け取っておくわ」
毒の魔法を受けたわたくしは、身体を引き攣らせながらも執念深く立ち上がる。ここで倒れるわけにはいかないのだ。
「あらっ、まだ立ち上がるのね。さっきの男はすぐに倒れて動けなくなったんだけど」
「……ジーニアスの悪口は言わないで。彼は強い男よ。あなたが想像する以上に頼りになる存在だわ!」
わたくしは固く言い切った。そう、こんな罠なんて姑息な手を使う奴なんかよりもよほど強い人だ。それにこんな怪しい元公爵令嬢なんかを疑いもせず、自らを犠牲にして人を助けられる大きな器すら持っている。
「貴女みたいな卑怯な人間なんかが、ジーニアスを馬鹿にするんじゃないわよ!」
毒に侵された体で必死に叫ぶ。こんな奴にジーニアスを語って欲しくない。彼の行動は確かに間違っていたけれど、それはわたくしを助けるためだ。決して無駄なことではない。
「まあ、その程度の男でもあなたにとっては大切な存在なのね。でも結局、彼も私を阻止することはできなかったのは残念ね」
舌打ちをしながらも冷笑を浮かべるフィール。お互い魔法で身動きが取れないのに余裕なのは、勝利を確信しているからだろう。たしかにこの勝負は彼女に分がある。ただ動けないでいるのと、毒に侵されているのでは大きく違うであろう。だが――
「まだ決まったわけじゃないわよ。こんな毒、今すぐにでも浄化してあげるわ」
「あらあらあら。泥臭いわね。スマートじゃないわよ」
なんとでも言え。わたくしは諦めが悪い女なんだ。島流しに遭ってなお殿下に復讐を誓ってるんだぞ。たかが毒に侵された程度で負けを認めるわけがない。
だからこそ、わたくしは頑張る。身体を引き攣らせながら、魔法の力を集める。フィールの言葉には耳を貸さず、自分の信じる道を進む。
「……なにをそんなに必死になるの? あなたに勝ち目はないのよ?」
「それはまだわかっていないわ」
わたくしは右手を天に掲げ、魔法の力を解き放った。光と音が混ざり合い、島中に響き渡る轟音と閃光が辺りを照らす。
「なっ!?」
フィールは驚きの表情を浮かべ、身体を震わせた。わたくしはその隙に毒から解放され、自由な身体を手に入れる。
「これがわたくしの魔法よ! 信じることができないなら、今からでも諦めてもいいわ!」
「ふっ、ふん。何か得意げね。そんな魔法があるなら、なぜ一発目から使わなかったの?」
そう問われて、わたくしは苦笑する。
「それはね……今作ったからよ」
そう、この魔法は今しがたできたのだ。あの実験記録をもとに魔法を作成した。自らの命が尽きそうになった時に思いついたのだ。本当にギリギリだった。
「今作ったですって!?」
目を大きく開いて驚きの表情を浮かべるフィール。よほど衝撃的だったようだ。
「そう、今作ったの。わたくしは常に新しい力を生み出すことができるのよ。だから貴女のような相手でも勝ち目はあるわ」
フィールの驚きに応えるように、わたくしは自信に満ちた微笑みを浮かべた。彼女はしばらく固まっていたが、次第に笑みを浮かべて言葉を返す。
「なるほど、あなたはそれだけの力を持っているのね。興味深いわ」
「そうよ。わたくしは常に成長し続ける存在なの。そして、これでチェックメイトね」
手のひらをフィールに向けて勝利宣言をする。今度こそ完全に詰みである。解毒方法が割り出され、【ストーン・プリズン】による柱が彼女を締め付けて身動きを封じ込めているのだ。どう考えてもここから逆転する手立てはないだろう。
「そうね。私の負けだわ」
フィールの表情は一瞬にして冷静なものに変わった。彼女は自らの敗北を受け入れたようで、穏やかな口調で言葉を紡ぐ。
「さっさと殺しなさい。もうこの世に未練はない」
「それはできないわ。私はあなたを殺すつもりはないの。ただ、あなたの力を封じるだけ」
わたくしは冷静に答える。フィールの死に願望に応えるつもりはない。何故なら彼女たちがこの島で何を企んでいるのか、それらを知る必要があるのだ。
「わたくしはあなた達の本当の目的を知りたいの。資源だけが目的では無いのでしょう? だってアイデンシテンにも豊富な資源があるもの。このような小さな島の資源なんてたかが知れているわ」
「……そんなことを知りたいの?」
フィールは驚きと戸惑いの表情を浮かべたが、やがて微笑みながら言葉を続けた。
「わかったわ。話してもいいわ。あなたが勝者となった以上、私の情報を得ることもあなたの権利だもの」
彼女は少し深いため息をつきながら、遠い目をした。
「私たちの目的は、この島の秘密を手に入れること。ここにはアイデンシテンが古来から追い求めているという力の源が眠っているはずなのよ」
「力の源? 何の力なの?」
わたくしは興味津々で聞き返す。
「それは……あなたには教えられないわ」
フィールは微笑を浮かべながら言った。彼女の言葉からはまだ明かされていない重要な情報があるように感じる。
「いいわ。では、わたくしがこの島の秘密を知る方法を教えてくれないかしら?」
「……それは」
考え込んだ様子で口を開こうとするが、その瞬間、島全体が激しく揺れ動いた。
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